ANAインターコンチネンタルホテル東京宿泊記・ジュニアスイート月と久々の音楽会

  • 2020年9月4日
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いつも横を通ったり、食事をしたりしながらも滞在したことのないホテルというのは意外と多いものです。六本木のアークヒルズに隣接するANAインターコンチネンタルホテル東京は、1986年に「東京全日空ホテル」として開業した高級ホテルとして広く知られています。私はクラシック音楽が好きで、しばしばひとりでサントリーホールの演奏会に出かけることがありましたが、特に夜の公演のときなどは、「このまま余韻に浸りながら、このホテルにチェックインしてしまいたい」という願望を抱くことも少なくありませんでした。

しかし、その余韻や感動を共有することなく、ひとりで部屋に戻る自分を想像しては、二の足を踏んでしまい、結局これまで泊まったことがなかったのです。また東京の高級ホテルの中では老舗というには新しすぎるし、かといって新しいホテルというには古すぎる、というその位置ゆえに、わざわざ選んで泊まりにいくこともこれまでありませんでした(その印象は滞在するなかですっかり変わったのですが)。

コロナウイルスによる社会不安の影響でサントリーホールもすっかり静まり返っていることが多い毎日ですが、たまたま公演を行うという情報を耳にして、気の向くままにチケットを手配してしまいました。もともとクラシックコンサートに興味を持っていたパートナーを伴って、演奏会に足を運び、そしてこのずっと滞在したことのなかったホテルに泊まることにしました。

チェックイン

昼過ぎくらいまでいくつかの雑務をこなしてから家をでて、今日は地下鉄でホテルまで向かいます。炎天下の東京。じめじめと底から湧き上がるような熱を感じながら溜池山王の駅から地下道を歩いていきました。さほどの距離ではないのですが、真夏の暑さは道の長さに対する感覚を根本的に変えてしまうような気がします。

チェックインカウンターはロビー階で行いましたが、並んでいる人もなく、あっという間に終わりました。スタッフの対応もてきぱきとしたもので、過不足のない案内。1980年代のホテルらしい堂々としたロビーエリアの静かな昼下がりは、なんだか少し物寂しい気がしました。

チェックインしてすぐには客室に向かわず、荷物を預けて、そのままアークヒルズの3階に。ここでスープとサラダというシンプルなランチを済ませました。ひとりでさっと食べたわけですが、満足感が高かったのは、今日のこれからの楽しい時間を思い描いていたからでしょうか。

建物を出ると、真っ青な夏の東京の空にそびえるホテルのビル。三角形を組み合わせた直線的なフォルムがなんとも安心感があり、近年のガラス張りの超高層ビルとは異なる魅力を持っていると思いました。

客室:クラブインターコンチネンタル・ジュニアスイート 月

今回はインターコンチネンタルアンバサダー特典で客室アップグレードをしてもらい、クラブルームから「月」の名前を冠したジュニアスイートがアサインされました。セキュリティ・キーをかざしてエレベーターで部屋に向かう途中に、途中階にあるプールに出入りするたくさんのカップルを見かけました。ロビーエリアの静けさとの対比か、楽しそうにしている様子をみて、こちらまで明るい気分になるように思えました。

客室に入ってみてまず感じたことは、随分と横に長い部屋だということです。スイートではあるけれど、リビングルームとベッドルームが隔てられているということはなく、エントランスから向かって左手がリビングで右手にベッドやバスルームが配置されているという構成でした。部屋のインテリアコードはグレージュの落ち着いた雰囲気。淡い黄色のクッションがアクセントになっています。デスクがテレビに直面する形になっていますが、サイズ感は非常に使いやすく、このあたりも好印象ですね。

ベッドの寝心地はしっかりとしたホールド感の感じさせる柔らかさ。枕の種類が多いのが面白いところです。手前側のソファーに腰掛けて窓の外を眺めれば、東京らしいビル群と眼下にはアークヒルズの緑。周辺には高級高層住宅が多いこともあって、ぴりっとした居心地の良さを覚えます。

ウェットエリアはバスルーム、ベイシン、トイレがそれぞれ独立しています。ベイシンはダブルシンクではないものの、鏡も大きく直線的でスタイリッシュかつ使用感に優れています。またバスルームにしてもハンドシャワーとレインシャワーが備え付けられていて、最新のホテルと比べてもまったく遜色がないものになっています。ウェットエリアに手を入れるのはなかなか難しいようで、リノベーションしたホテルでも、意外と旧態依然としたバスルームのままという場所を見かけることもあるのですが、この客室は非常に心地よい空間になっていて、ANAとIHGの矜持を感じさせられます。

バスアメニティはロクシタンの「MER & MISTRAL」という爽やかなマリン系の香調。洗い上がりの質感もよく、非常に気に入ってしまいました。どこかのロクシタンで手に入れられるのかと探してしまったほどでしたが、残念ながら、まだ入手できていません。部屋の窓枠のところにおいてみると、東京の空の青さにも映えます。

演奏会とホテルステイと

しばらくしてから赤坂までパートナーを迎えにいき、一緒に戻ってきてから、演奏会までラウンジなどでゆったりと過ごします。

ホテルの35階に位置する煌びやかな雰囲気のラウンジ「クラブインターコンチネンタル」は、金色が嫌味なく使われている上品な空間。さらに我々以外には誰もいなかったこともあり、思う存分のんびりすることができました。

演奏会では久々に聴くシューベルトの「未完成」交響曲。黒澤明の「素晴らしき日曜日」という私の好きな映画にも重要な要素として使われている曲。そういえば生前に黒澤と親交の深かった映画評論家の淀川長治もこのホテルを住まいとしていたのでした。私がただひとり「先生」と呼ぶ恩師が、文学や哲学について語るとき、なんだか淀川が映画を語るときの高揚した雰囲気に似ていて…そんないろいろなことを思い返しました。先生とはしばらく会っていないけれど、何度かばったりサントリーホールで会ったことがありました。

切なさと暗さと美しさが交互に訪れる短い交響曲。それからベートーヴェンの第5番へと続きます。非常によく知られた旋律ばかりの演奏会。外国から奏者も指揮者も招聘することができない社会情勢のなか、いま、この場所にいる人たちが作り上げる久々の音楽。世界的なレベルからみれば、荒削りな部分も多いのかもしれませんが、演奏家たちは一様に楽しそうに音を奏でていて、聴衆もそれに響き合うようで、なんだかとても暖かい演奏会でした。

演奏会を終えると夜9時を回っていました。やや遅めの夕食をごく僅かな選択肢の中から寿司に決め、パートナーと日本酒を酌み交わしながら暖かな余韻を分ち合うことができました。思えば、ひとりで演奏会に来ていたときに夢に見ていたのは、この暖かさだったに違いありません。

うっとりするような心地の良い夜。部屋に戻ると窓の外には東京タワーと輝くビル。音楽とホテルステイと美食…私の好きなことを好きな人と分かち合うこと。そうして夜は更けていきました。

翌日はレイトチェックアウトを利用してホテルでゆったり過ごします。ゆったり、といいながら、じつは持ち込んだ仕事を片付けていたのですが、満たされた時間を過ごしたあとには、多かれ少なかれ、生きる活力を得られるように思うのです。この日もまた燃える太陽の日差しと地面の照り返しがエアコンの効いた涼しい室内からも感じ取れる日でした。

時間が流れたのだな、という実感を持ちながら、残暑厳しい東京の夏の空を眺めていました。

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