パークハイアットニセコHANAZONO宿泊記・大空に抱かれるラグジュアリーホテル

北海道は札幌の街から車で小樽。そこでしばし休憩を取ってから、夏でもなお荒々しい日本海をかすめて、余市。そこからこの北の大地らしい広々とした田園を抜けて、山を超えると、雄大な自然に抱かれたニセコの地にたどり着きます。距離にしたらものすごく遠い距離ではないかもしれないけれど、とても長い旅をしたような達成感があります。パートナーをかたわらに載せながらSUVで道を超えていくとき、ふと頭の中にはPPMの500milesの美しい旋律と歌詞が響いていました。

あまりにも美しい山の景色。白樺の木々を抜けたところに突如として、現代的な石とガラスの建物が見えてきます。それが今回の滞在先であるパークハイアットニセコHANAZONOです。今年のはじめに開業してからずっと気になりつつ、結局いろいろあって訪ねることができなかったのですが、ついにこの北海道初の外資系ラグジュアリーホテルに滞在する機会を得ました。今回はそのときの様子をリポートして参りましょう。

チェックイン

車をエントランスに停めると、スタッフが駐車をして、鍵をあとで部屋に届けてくれます。

そのままチェックインに進むことにします。スタッフの多くが外国人であり、人によっては、まったく日本語が通じないために英語で会話しなければならないというのもこのホテルの特徴のひとつでしょうか(このあたりは批判もあるかもしれません)。高い天井と遠くに見える羊蹄山。青くて広い空がどこまで広がっているようで、遠い異国にでも来たような気分になります。

ちなみにWorld of Hyattグローバリスト特典は以下のような内容でした。

  • ラウンジにて無料の朝食(アラカルトを含むすべてのメニュー)
  • 16時までのレイトチェックアウト
  • スタンダードスイートまでの客室アップグレード

パークハイアット東京の「トワイライトタイム」のような独自の特典はなく、World of Hyattの特典に準拠したものでした。ただラウンジでの朝食については、アラカルトメニューを含めて、好きなものを好きなだけ頂けるというのは嬉しいところだと思いました(2020年9月現在)。洋朝食も和朝食も全体に質が高くて、特にパンの美味しさは特筆すべきですが、それ以外のローカルスペシャリティとして「海水うにといくら丼」があり、これは是非とも頂きたい逸品だと思います。

客室:スイートルーム

片言の日本語を話すスタッフから案内されて、今回はスタンダードスイートがアサインされました。このホテルは大きく分けるとレジデンス棟とホテル棟に分かれていて、それぞれに様々なタイプの客室が用意されているのですが、今回はホテル棟側。スタッフにエスコートされて客室に向かいます。

今回の客室タイプからは抜けるような眺望はありませんが、落ち着いた雰囲気のあるリビングルームです。白木がベースになっていて、グレージュの内装ですが、全体的に寒色系のニュアンスを漂わせます。このような雰囲気はいまや国際的なスキーリゾートになっているニセコに通底するカラーコードでしょうか。

ベッドルームとリビングルームは共通したインテリアコード。しかしこちらは電球色の暖かい照明の効果もあり、より穏やかな雰囲気が漂います。壁には満開の桜の写真。ベッドの硬さはパークハイアットに共通するメリハリのある寝心地。奥に見えているのが独立式のバスルームを備えたウェットエリアとクローゼットです。

ダイニングには横長のソファーとシングルチェアが置かれていて、白木の木目とフルハイトウインドウも相まって、かなり開放的な印象を持ちました。圧倒的な眺望ではないものの、ホテルの建物の向こう側には白樺などの北国の植生がみて取れて、都会を離れて遠くにきたという情感をかき立てます。

コンプリメンタリーのミネラルウォーターは炭酸なし・炭酸ありの2種類あり、しかも十分に用意されています。またTWGの紅茶やネスプレッソなどのラグジュアリーホテルではおなじみのアイテムもしっかり揃えられていて、抜かりのない印象。

ベイシンもダブルシンクとなっていて広々と使えるようになっているのも高く評価したいところです。独立式のバスルームのシャワーはオーバーヘッドとハンドシャワーが備えられていて、またバスソルトには珍しい「北海道甘酒」が用意されています。鏡の部分にはテレビも埋め込まれていて、まさに最新のラグジュアリーホテルらしさを感じさせます。

バスアメニティはLE LABOのSANTALシリーズ。これまでパークハイアットというとAesopのイメージが強かったのですが、最近のパークハイアットでよく見かけるようになりました(国内だと他にもパークハイアット京都でも用意されていました)。香りはウッディーアロマティックで洗い上がりはしっとりした感覚が強く残ります。やや主張の強い香調なので、好き嫌いは分かれるかもしれません。個人的には同じLE LABOだとベルガモットが上品かつ優しい香りでかなり好きなのですが、パークハイアット釜山に用意されていた以外ではいまのところ知りません。

ウェルカムスイーツとして砂糖がコーティングされたバームクーヘンが用意されていました。また野菜チップスやぶどうなどもあってコンプリメンタリーアイテムが充実しています。

北の大空に抱かれる滞在

パークハイアットニセコの魅力は一言で語り尽くせないし、おそらく季節によってもその様相を異にするのでしょう。今回は夏の盛りを過ぎて、秋の気配を感じさせる静かな時期。もともとこの滞在でいくつかのアクティビティなどをやりたいと思っていましたが、予約を取ることができなかったこともあり、結局、あまり活動的にならないで静かに過ごすことになりました。

ラウンジエリアの昼下がり。時折歩いていくゲストやスタッフの他には人の気配はあまりなく、広い窓の向こうにやや物憂げな空が見えました。火のともっていないモダンな暖炉がその静けさを強調するような気さえします。冬ともなればウインターアクティビティをする人たちで賑わうのでしょうか。静かで落ち着いた雰囲気は好きですが、なんとなく、真冬の賑わいの中に身を置いてみたくなりました。

このホテルには寿司や炉端焼きや鉄板焼きなどの和食系も、フランス料理や中国料理やイタリア料理などもあり、さらにカラオケルームなどもあり、パークハイアットとは思えないほどのレストランの充実度なのです。しかし時節柄なのか、それとも季節柄なのか、そうした様々なレストランは尽く閉まっていました。その静かに電気の消えた感じがメランコリーなムードをさらに増長させていたように思います。

滞在初日、午後5時から開くホテル棟にあるラウンジに併設されたバーに我々は行くことにしました。本来であれば、様々な食の競演を堪能したいところですが、今日は夕暮れの羊蹄山を眺めながら静かにカクテルタイム。和梨とウイスキーのカクテルに北海道らしいザンギと野菜スティックを合わせて。

英語しか話さないバーテンダーにオーダー。このバーには我々の他には誰もいません。静かな夕暮れでした。

ドライブの疲れを受けた眠りのあとに、朝の光の差し込むラウンジでの朝食。思ったよりもゲストがいたことに驚かされます。この日は洋朝食のセットを注文。セットメニューのそれぞれの質は高くて満足したのですが、せっかくなので、スペシャリティメニューをと思い、ブリオッシュフレンチトーストをお願いしました。かりっとした香ばしさが先に立ち、あとからクリーミーなまろやかさが追いかけてくる。メイプルシロップをかけて、あるいはミックスベリーの爽やかさと共に。コーヒーを飲みながら豊かな気分になりました。

あまり観光らしいこともサマーアクティビティもしなかったのですが、ちょっと近場までドライブをしてみました。案外このようにふらりと立ち寄った景色のなかに、思いがけない愉しさが潜んでいるということがあるものです。実際に驚くほどの開放的な景色に出会えて、何度もその美しさに感嘆してしまいました。ニセコアンヌプリと羊蹄山。遥か遠くに見えるなだらかな山の稜線。そして夏と秋の境目を象徴するように、分厚い雲と突き抜けるような青空。昨日の物憂げな感覚も、都会の喧騒に揉まれるストレスも、この空の下では空白へと回帰していくようです。

このような大空と大地の下で育った野菜が美味しくないわけがありません。それを追認させてくれたのもがこのホテルのファインダイニング「モリエールモンターニュ」でした。最初に野菜をそのままトレーで出されて、生ハムと合わせて頂きますが、まさにその香りの引き立ち方や、食感のよさ、そして甘かったり苦かったりする複雑な余韻を堪能できました。コース仕立ての料理は様々な土地の野菜に彩られていて、愉しく満たされていました。

ディナーのメインディッシュを飾る美瑛ポークのグリル。プレゼンテーションの仕方もこのレストランらしくユーモアがあり、また自然の香りを五感で楽しめるようになっていました。フランス料理というジャンルでありながらも、ここまで北海道らしいニュアンスを強く感じさせるその感性の豊かさに心打たれます。

パートナーとの会話も弾み、その静けさゆえに物憂げな気分にもなるこのホテルの晩夏の空気を確実にあたたかいものへと昇華させているような気がしました。とても楽しいディナーで、やはりフランス料理はいいな、という素朴な情感が湧きました。

長いようで短かったこのホテルの滞在も今日で最終日。レイトチェックアウトをしてから空港に向かう前にラウンジでアフタヌーンティーを頂きます。ピエール・エルメの手掛けたコース仕立てのセイボリーやスイーツをティーペアリングにて。冷たい薔薇の紅茶や玄米が香ばしいあたたかい緑茶を楽しみながら、上品で甘美な味わいの瞬間が波のように打ち寄せます。パークハイアットニセコでの滞在を思い返したり、まったくもってたわいもない話をしてみたり…終始静かであったこのラウンジで我々は穏やかな時間を過ごしました。

さて、ここから再び空港までちょっと長いドライブです。途中で野生のキタキツネを目撃したり、夕焼けのニセコアンヌプリの絶景を眺めたりしながら、また改めてこの美しいホテルに足を運びたいものだという気持ちがいよいよ強くなっていました。再び500milesの旋律が頭の中に響いてきました。重ねていく思い出を数えながら、またこの地を訪れるとき、果たしていまのこの瞬間はどのように心の中に像を結ぶのでしょうか。

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