2023年、夏…ホテルステイのレビュー。

ひとりひとりとの出会いが特別なのと同じくらい、ひとつひとつのホテルとの出会いは特別だ。だからこそなるべくその空気感を伝えられるように写真と言葉を紡ぎたい。最近の私のそうした思いの宛先はTwitterが中心となってきました。そのTwitterがXになったとき、単に青い鳥を喪失したのみならず、なにかプラットフォームが変わることで途切れてしまう交流があることに不安や寂しさを感じ、なんだかひとりでどんよりしてしまった時期がありました。

このブログをはじめるまではそんなSNSの事情についてはほとんど関心がなかったように思います。しかしいまはこんなにも心を揺さぶられるものなのか、と不思議な気持ちになりました。この感情はなにかに似ている。それはこれまでTwitterで付き合いのあった方が引退されたり、疎遠になってしまったりしたときのそれに似ている。つまりそれほどまでに私のなかでホテルを通じた皆様との交流がおおきなものになっているということの裏返しでもあるのでしょう。思い返せば、去年の秋以降、これまでにないほどにたくさんのホテルファンの方と交流を持つ機会が増えたように思います。皆様本当にいつもありがとうございます。

逆に…こちらのブログでじっくりひとつのホテルに向き合って書くことが減ってしまったのではないかとよく感じています。忙しさもありますが、怠惰もあります。でも個人的に感激したホテルや是非とも世に知らしめたい素晴らしいホテルとの出会いも数多くあって、いずれどこかのタイミングで読者の皆様に共有したい気持ちも強くあるのです。そんな気持ちも込めながら、このブログで(まだ)記事にしていないホテルの簡単なレビュー(リポート?)を書いてみたいと思います。

まずはカレンダーのページを4月に戻すところからはじめることにしましょうか。

富士スピードウェイホテル

ここには独特の世界観がありますよね。ミュージアムでのチェックインから目の前に広がる富士山やサーキットの眺望。ハイアットファンではなかったとしても、きっとその世界観を気に入ることは間違いないと強く推したいホテルのひとつです。部屋の快適性や炉端焼きの夕食の美味しさもさることながら、個人的に好きな瞬間は、少し涼しい季節に朝一番に温泉大浴場の露天風呂から富士山を眺めることですね。ぴりっと冷えた冷気と温泉のあたたかさがたまらない…見上げれば森の向こうに霊峰がそびえ立ちますね…そして風呂上がりのミルクですね。

逆にあともう一歩と思うのは、せっかく自動車やモータースポーツがテーマのホテルなのに、バレーパーキングがないところでしょうか。お気に入りの車でラグジュアリーホテルを訪ねて、スピードウェイの走行体験もできて、さらにミュージアムを見たり、車について語らったり…そうした体験の仕上げ、チェックアウトのときに、フロントからミュージアムを通って、準備のできた車に乗り込んでそのまま自然豊かな富士山麓をドライブできたらどれほど素晴らしいだろう…と思ってしまうのです。いまは地下の駐車場に(ヴィラであればガレージがついていますが)停めにいくひと手間があります。たいした違いでもないように思うのですが、その小さなひと手間に価値を見出すのが私のようなひねくれたホテラーの性質なのかもしれません。

いまの季節はプールやアウトドア・アクティビティなんかも楽しいでしょうね。

コートヤード・バイ・マリオット名古屋

ここはいわば「凡庸の妙」ですよね。取り立てて目の覚めるような強い個性はないし、これといった不満もない新しくて快適なホテル。立地もそれほど悪くない。朝食も悪くない。平均点より少し上。価格もそれほど高くない。しかし言うまでもなく、そうしたコンスタントに平均点より少し上を出せるためには不断の努力が必要だと思うんです。だからこそ「凡庸」であることの強みを活かして、これからもアフォーダブルで安定したホテルとして存在感を持ち続けて欲しいな、と思ったのでした。

JWマリオット奈良

まずはまったく個人的な話からはじめれば、JWマリオット奈良とウェスティン横浜がどうしても雰囲気が重なってしまいます。客室のインテリアやホテル全体の空気感、それに両方とも観光都市なのに主要な名所からはどちらも少し距離が遠いところ。ちょっと控えめな優等生ホテルですね。控えめであるがゆえに美味しいところを持っていかれてしまったり、優等生であるがゆえにもっと親しみやすい(ときにそれは価格にあらわれる)ところに御株を奪われてしまったりする…でも結局みんなこういうところが好きなんだ。さてウェスティン横浜と似ていると言いましたが、もちろんここにしかない特徴も当然あります。随所に見られる鹿のモティーフ。ホテルに足を踏み入れたときの品の良い香り。丁寧さを1段階上げたスタッフのホスピタリティ…やはりラグジュアリーホテルなんですよね。近いうちにここ奈良にも同じマリオット系の個性の強そうなホテルが生まれる予定です。そのときこの控えめな優等生の立ち位置はどのようになるのでしょうか。

アンダーズソウル江南

東京から最も近い海外のアンダーズができるということで、開業の数日後に訪問して以来、ひさしぶりに泊まったのでした。ソウルでも芸能事務所などの多く集まる狎鴎亭のイケイケな雰囲気をそのままにホテルにしたような空間とノリのよいスタッフ。東京のかっこよく落ち着いた感じとは違った持ち味がなんとも良いですね。クラブミュージックと先端的なファッションに包まれるチェックイン/アウトもとても好き。客室のパステルカラーな雰囲気も好き(でも今回泊まったテラス付き部屋だと、テラスもシャワーブースも少し狭いのはイケてない)。そしてもうひとつ…なんといってもプール・スパ施設がとても面白い。独創的なスクリーン使いのプールと洞窟のようなジャクジーにサウナ、レインシャワー、そしてアメニティはアモーレパシフィックの高級ライン。ソウルのある程度以上のホテルは全般的にプールやサウナ施設が充実している印象がありますが、ここは隠れ家的な「癒し」空間だと思います。

なおアンダーズソウル江南での滞在と前後して、ウェスティン朝鮮ホテルソウルとパークハイアットソウルにも泊まっており、さらに帰国後におなじみパークハイアット東京に滞在しました。それぞれのホテルについてはこれまでにもこのブログに書いてきたので改めてここでレビューするまでもないことかと思いますが、何度泊まってもやはり素晴らしいということだけは強調しておきたいと思います。とくにパークハイアット東京は私の中では世界で最高のホテルと評価していますが、来年の5月から大規模改修が予定されており、それまでにできるだけいまの姿を心に刻んでおきたいと思っているのです。名残惜しさもあるけれど、巨匠たちの作り上げた世界を現代の感性がいかに磨き上げていくのか…それもとても楽しみではあります。そこにこれまで築き上げてきたあの最高水準のホスピタリティが加われば…もうそれ以上は言うまでもありません。と、ここまで書いてきて、はっとします。改めて書くまでもないと言っておきながら、やっぱり書いてしまっている…私の同ホテルに対する愛の深さは隠しきれないものですね。延々と書いてしまいそうなので、さすがにここで止めておきましょう。

箱根本箱

ふらりと目的もなく訪れてどこにも出かけたくなくなる…ホテラーとはそんなこもれる場所を見つけることに長けているタイプの人間だと思いますが、このスモールホテルもとても面白い。温泉や食にこだわる雑誌を刊行する自遊人が手掛けるホテルだけあってそのあたりのツボをしっかり押さえ、なおかつ読書という体験を全面に打ち出している。私は滞在先にPCを持っていき、仕事も済ませたりすることも多いのですが、ここはほとんど手ぶらで出かけていきたいと思える場所ですね。ただし空調については少し不満がありました。部屋によるのかもしれないし、季節によっては気にならないのかもしれませんが、集中式になっていて風量しか変えられないのは困ります。暑い季節、温泉で体があたたまりすぎてしまったところで、エアコンの涼しい風と共にアイスクリームを堪能することこそ至福…であるのは個人の感想ですが、やはり部屋の快適性には大きく関係するところでしょう。あとはタオルの数がもう少し多いとさらに良いと思うのです。部分的にケチな感じがするところが、他が良いだけに余計に気になってしまいました…と言いつつ、また季節が移ろう頃には読書ごもりと美食のためにこのホテルを訪ねていることでしょう。

ホテルニューグランド

これを私はぜひとも強調したいのですが、横浜に泊まるときに眺望を重視するのであれば、絶対にニューグランドのタワー館のコーナールームに限るのです。みなとみらい地区の新しいホテルやおしゃれなホテルもいいけれど、ここからはみなとみらいも赤煉瓦倉庫も氷川丸も山下公園もベイブリッジもすべて見えてしまう。それだけでもとても贅沢な気持ちがするのですが、空襲に耐えた歴史的建造物や伝統ある料理の数々、そして丁寧なスタッフのもてなしに至るまでまさに横浜を代表にふさわしい名門ホテル(その割にはみなとみらいのホテルよりも手頃だ)と言えましょう。もちろん本館の方に泊まって窓を開いて港の夜の海風を感じるのも良い。早朝に現存する唯一の戦前の貨客船を眺めながらシンプルなフレンチトーストを食べるのも良い。クラシックホテルファンならずとも一度はこの街の歴史の生き証人と対話してみてもらいたい…そんな気持ちになる愛すべきホテルです。

リッツ・カールトン大阪

私の大好きなホテルに違いありません。でも大好きだからこそ、これからしばらく泊まらずに、思い出を熟成させたい…いまはなんだかそんな気持ちです。大雨の日の滞在でした。

ホテル 講 大津百町

ホテルに泊まるというよりも街に泊まるというコンセプト。とはいえ街だけにフォーカスしているわけではなくて、客室の居住空間やインテリアのセンスの良さに感激するホテルでした。北欧家具と江戸時代の日本家屋という意外な組み合わせの相性の良さも面白い。そして京都から少し電車に揺られた場所にまだまだ知られざる豊かな時間があることに驚きます。チェックインを担当してくれたスタッフが大津の街を知り尽くしていて饒舌にあれこれとお店を勧めてくれましたし、なにげない商店街の小さな会話の楽しさに胸を弾ませることができました。ここもまた季節を変えて訪れてみたいホテルのひとつです。

熱海パールスターホテル

最近の私は熱海といえばひらまつの図式がやや固定化されていましたが、少し気になっていたのがこちらのホテルでした。誰が言ったかアマン東京の精巧なニセモノ。確かに空間について言えばよく似ていて、少なくともインスピレーションを受けた部分はあるのではないかと予想します。ただもちろんここにしかないユニークな立地も魅力です。ホテルを出るとお宮の松の像のところで、ビーチも至近。熱海の高級宿の大半が温泉街以外のところにあるなかで、この場所はとても魅力に感じます。それにもちろん客室の居住性も高くて総体としての満足度はとても高いと思います。ただし少々物足りなさを感じたのは朝食であり、もっとラグジュアリーに寄せられる余地があるのではないかと思いました。また立派な車寄せもありますが、バレーパーキングはなく、螺旋式のスロープを登って駐車しなければならないのは、なんとなく興醒めな印象を拭えません。しかしそうは言いつつも、熱海の温泉街にある程度の気楽さも兼ね備えたラグジュアリーな要件を満たすようなホテルがこうして選択肢として存在することは幸いなことでしょう。落ち込んだときの気分転換などに海沿いの道を走って泊まりにいきたいものです。

番外:ペニンシュラ香港

ここは聖域ですね…賑わう大都市香港にあって異次元の上質な世界観。貴族的な雰囲気。ふらりとラウンジに立ち寄って、心地よい生演奏の音色に酔いしれながら、ひとり絶品のアフタヌーンティーを堪能する。スタッフはきびきびと明るく丁寧に動く。じつは私はこのとき大変気持ちが落ち込んでいたのですが、この空間で30分ほど過ごしただけでみるみる心地良くなって、不思議な幸福感に包まれて、なんだかすべてがどうでもいいような感覚になったのでした。これぞホテルの魔力。こういうホテルを私は数えるほどしか知りません。なんだか胡散臭く感じられる方もいるかもしれません。でもたしかにそういう世界というのはあるものだと私は信じてやまないのです。

このときは泊まることはありませんでした。オーストラリアへの飛行機の乗り継ぎの合間に立ち寄っただけだったのです。でもこんなにも惹き寄せられてしまうなんてさすがはペニンシュラ香港。別格の魅力です。オーストラリアの旅でも素敵なホテルに数多く出会いましたし、帰路に再び香港に寄り、気になっていたアイランド・シャングリ・ラにも滞在しました。それぞれのホテルがまた素晴らしかったのですが、どこも魅力を伝えるにはこの記事だけでは足りない気がしています。なのでそれはまた別の機会にでもお話しすることにしたいと思います。ただひとつ、香港はホテラーにとってはひとつのパラダイスであることはここで強調しておきたいと思います。

番外2:今年の夏のホテルたち

個人的に今年の前半の山場がオーストラリア訪問であったので、なんとなく気分的にその前後でホテルステイの記録を分けているところがあります。7月から8月にかけて泊まってきたホテルをかんたんに振り返ってみましょう。

グランドハイアット東京は相変わらず素晴らしい。山場を終えて改めて「ホーム」に戻ったような安心感と心地良さがありました。

ACホテル東京銀座。スタイリッシュなコンパクトホテル。なんとなく銀座に泊まりたくて。あまりにも外国人旅行者が多くて驚いたのも記憶に新しいです。相変わらず東京で(物理的に)最強のシャワー。

NIPPONIA田原本マルト醤油…この和製オーベルジュのことは秘密にしておきたい。でも多くの人に伝えたい魅力がありすぎる。建物や地域の美しさ。野菜のおいしさ。当主やスタッフのこだわり。そんな想いが募っているので、また別の記事にじっくりと書いてみたいのです。最近私がすっかり熱を上げているNIPPONIAやVMGホテルズの魅力と共に。

タワーホテルナゴヤ。酷暑の街並みから夏の夕暮れ。1950年代の匂い。公園でのひととき。やはり唯一無二の面白さと雰囲気の良さがありますよね。スタッフの対応もとても気持ちのよいものでした。

オーベルジュ豊岡1925。マルト醤油に対する思いとはまた少し異なりますが、こういう建物に泊まることできること。そしてこれまでのホテルではできなかったような地域との交流のあり方。やはりVMGホテルズは建物こそ古いけれど、ある意味で、最先端を行っているように思います。もっと日本を旅してみたい。そう思わせてくれる大きな可能性を感じます。NIPPONIAとの出会いをきっかけとして、私のなかでラグジュアリーホテル第三勢力(勝手な造語です。レガシー、ライフスタイルに続くラグジュアリーのかたち)への注目を急速に強めています。

第三勢力に言及しましたが、パークハイアット京都はレガシータイプのラグジュアリーホテル。空間的な魅力はもちろんのこと、ホスピタリティも十分すぎるほどに完成されてきた印象。私の中では揺るぐことなく京都で最も好きなホテルです。スタッフから教えてもらって気づいたのですが、今回で10回目の滞在でした。どの部屋に泊まっても、なにをしていても満ち足りた気持ちになれる特別なホテル。15回、20回と回数を重ねても、やはり泊まりに行きたくなる魔力がここにもあります。

駆け足で振り返ってみましたが、やはりひとつひとつに魅力があり、どこが最も好きかという問いには答えられるにしても順位をつけることができない個別の体験や時間がありました。また訪ねたい…でもそうこうするうちに新しいホテルも続々と生まれてきていて…さらにもっと第三勢力の魅力も発掘してみたい…やはりホテルステイは飽きないですね。面白いです。自宅以外の場所で寝泊まりする…単にそれだけのことなのに、ここまで世界を広げることができる。そんなことを思いながら私は今日も次の目的地のホテルについてあれこれ想像を膨らませているのでした。

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