【ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル宿泊記2021】潮風の記憶と横浜港を見渡すスイートルーム

  • 2021年5月10日
  • IHG
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幼い頃から、海を見に行くといえば、まず横浜でした。地理的には東京湾の方が近かったのだけれど、色々な理由で、こちらの海の景色により親しみが湧くのです。横浜は私にとって第二の故郷とでもいうべき愛着のある街です。さてそんな横浜を代表するホテルとして、クラシカルなホテルニューグランドを挙げることに異論のある人はそれほど多くないでしょう。ニューグランドが開業したのは、関東大震災の復興が本格化した昭和2年(1927年)のことであり、それ以来この街のシンボルのひとつとしてその名を知られてきました。

時代は下って平成の初め、1991年にみなとみらい地区に開業したのがヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル。最近すぐ近くにできた同じIHG系列のインターコンチネンタル横浜Pier8に比べると、確かに古い部分もありますが、その帆船の帆のような印象的な建物はみなとみらい地区のシンボルと言っていいでしょう。昭和の横浜のホテルを代表するのがニューグランドならば、平成の横浜のホテルを代表するのはここではないか。もちろん異論はあることと思いますが、私自身はそのように思っています。

もともとは三菱造船所があったみなとみらい地区も、昭和の終わりから平成を通じ、令和の現在に至るまで拡大を続けてきました。その発展を見守り続けてきた孤高の外資系ホテルであるヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル。じつは私自身にとっても思い出深いこのホテルに、パートナーと一緒に滞在してきましたので、そのときの様子についてリポートしてまいりましょう。

曇り空のチェックイン・海のそばのグランドホテルへ

横浜にホテルは数あれど、バレーパーキングが可能なところはそれほど多くありません。もちろんそれが全てではないけれど、なんとなく、ラグジュアリーホテルの条件のひとつにバレーサービスがあると、個人的には思うのです。ヨコハマグランドインターコンチネンタルの宿泊の価格帯は、ミドルクラスホテルとそれほど変わらないけれども、諸々のサービス水準はラグジュアリーホテルと比べても遜色ないように思います。

鍵を預けてロビーに。真っ白な柱の高い天井。観葉植物も堂々としていて、シースルーエレベーターに水の流れ。いかにもバブル期の建物らしい、豪奢な雰囲気のグランドホテルといった佇まいです。ラグジュアリーホテルのような高級感はありませんが、余裕のあるつくりと嫌味のない色合いが好ましいインテリアだと思います。

フロントは2階にありますが、今日のチェックインは高層階のクラブラウンジで行います。せっかくなので、シースルーエレベーターに乗ってみたいなどと思っていましたが、ブライダル用に充当されているようで、ほとんど乗ることが出来ませんでした。私と彼女とでどちらがボタンを押したら、シースルーエレベーターに乗れるかなどと戯れてましたが、最終的には、どちらも呼ぶことが出来ず、チェックアウトのときにスタッフが呼ぶまで乗ることが出来なかったほどです。

エレベーターはともかくとして、クラブラウンジは、深い青色の絨毯に濃い色合いの木材があしらわれたどこか航海を連想させる雰囲気。これは同じインターコンチネンタルでも「Pier8」の方とも共通しているように思います。しかしこちらのほうがよりクラシカルな気がします。

アッサムティーやハーブティーと共に、小さなアフタヌーンティーセットを頂きながら手続きを進めます。

パートナーにとっては初めての滞在。そして私にとってはちょっと久しぶりの滞在。数年前には仕事の関係でひとりでしばしば泊まったものです。とりわけクラブルームのテーマ性の高い雰囲気が好みだったので、その部屋に一緒に泊まりたいなと思っていたのですが、偶然にもインターコンチネンタルスイートをオファーされたので、そちらに当日変更することにしました。

インターコンチネンタルスイート

しばしクラブラウンジで休憩してから部屋に向かうことにしましょう。玄関の扉を開くと、二手に分かれて、右手にベッドルーム、左手にリビングルームがあるというつくりになっています。

新港埠頭を見下ろす位置にあるリビングルーム。横長の配置となっていて、手前側にソファーが置かれ、illyのコーヒーメーカーやミニバーがあります。ちなみにミニバーはこの情勢下でアルコール含む飲み放題ということになっていました。深い青と淡い色合いのカーテン。そしてグレージュの落ち着いた雰囲気やちょっと古めかしいランプ。新しさやプレミアム感には乏しいかもしれませんが、どこか優雅で余裕を感じ取れます。パートナーは異国を感じると評していますが、私もその見解には納得です。

リビングエリアの奥にダイニングテーブル。大きな観葉植物がありますが、余計な装飾はありません。シンプルで軽やかな風合いでありながら、段々となった天井から吊り下げられた照明器具や重厚なカーテンがクラシカルなムードをさらに強化しています。このモダンとクラシカルの共存したようなつくりは、この時期にできたホテルによく見られたもののように思います。

最近であれば、もう少しホテルの立地を生かしたテーマ性を盛り込みそうなところです。実際にリニューアルしたクラブルームなどは、港町横浜のイメージをそこかしこに感じられるものになっています。他方でこの客室はいわば「引いた」デザインになっている。それを面白みがないとか、ちょっと古くさい、と見る向きもあるかもしれませんが、私自身はむしろ、このホテルのできた時代性を引き継ぎながら、凛としてそこにある安心感を覚えます。この少し前のラグジュアリーのあり方に触れられるのもまたホテルステイの楽しみのひとつといえましょう。

ベッドルームは横浜港に面したホテルの先端部に位置しています。また右手をみれば、桜木町や馬車道方面が見渡せるシティービュー。両方の景色を同じ部屋から眺められるというのもまた楽しいものです。ベッドの寝心地も程よく硬さがあり疲れないクッション性だと思います。

ライティングデスクはちょうど眼下の遊園地「コスモワールド」を向いています。窓を開くと、ジェットコースターの走る音や、時折聞こえる汽笛の音。観覧車は優雅に周回し、新しくできたロープウェイ「横浜エアキャビン」が行き交う様子も見て取れます。このような賑やかな眺めは作業の妨げにもなるかもしれませんが、それもまた悪くないものです。

さてこのベッドルームでも最も特徴的な部分だと私が思うのは、湾曲したダイナミックな窓とそこに向けられたふたつの椅子です。横浜港に対してちょうどホテルの先端部に位置しているため、非常にパノラミックな眺めを楽しむことができます。眼下には豪華客船「飛鳥Ⅱ」が停泊しているのが見えました。また少し遠くの方に目をやれば、ベイブリッジを行き交う車の数々。それに横浜港に集まる船の数々。今日は曇り空。それでも僅かに届く光が海に反射して青く見えました。

ベッドルームの奥には横浜港の眺めを一望できるビューバスがあります。独立式というわけでもなく、最新の設備を備えているわけでもありませんが、シャワーブースが用意されていて使い勝手は悪くありません。開放的な景色とも相まって、とても明るく爽やかな白亜のバスルームという印象があります。またこれは個人的な体験なのですが、おそらく20年近く前に家族でこのホテルに滞在したときに、同じビューバスを備えた客室に泊まったことをふと思い出して、なんだか懐かしい気分になりました。あ。バスルームから海が見える!と、みんなではしゃいだっけ…当時は屋外プールもあって…そんな思い出。いまも当時の様子を撮影したビデオを見返すと、その頃のこのホテルにときめいた気持ちが心に戻ってきます。

ドライヤーは今の基準からはちょっと物足りないものでしたが、バスアメニティは、おなじみヴァーベナの香り爽やかなアグラリアの他に、THANNが用意されていました。上品で爽やかな良い香り。

雨の横浜港を眺めながら…

曇り空は次第に雨へと変わっていきました。赤レンガ倉庫のあたりから大桟橋にかけての遊歩道が濡れて滑らかな光を放ち、外には傘をさした人たちが足早に歩いて行く様子が見えました。

我々はこの日お互いに朝早くから午後にかけて慌ただしく過ごしていたこともあって、雨の午後のひとときは一休み。晴天に恵まれていたら、少し周辺を散策したり、このホテルのクルーズ船「グラン・ブルー」に乗ってみたりしてもよかったのですが、しばらく部屋でゆっくり過ごしました。雨足は弱まることをしらず、見渡す港の空は鈍色。湿気を帯びた空気のせいか、クルーズ船が空を焦がすのか。そうして動き続ける横浜の街と港のダイナミズムを曲面のエレガントな窓から眺めていました。

結局のところ、雨の外を歩くのが億劫になり、その日はずっとホテルの中で過ごすことに決めたのでした。夕日が傾きかけた午後5時。クラブラウンジに戻ってモクテルで乾杯。幼少期の思い出、思春期の思い出、そして今のこと。住んでこそいないけれど、横浜は、公私ともに訪れる馴染み深い都市。そういう場所に共に泊まることは意味あることですが、この街でもとりわけこのホテルは格別の想いがあります。どうしてこれまで泊まりに来なかったのだろう。しばらく記憶の片隅に追いやられていた大切な場所に、ひょんなことから訪ねることになり、さまざまな想いが一度に溢れる瞬間。それがいま、この心地よい狭さのラウンジで起きていたことでした。

中華街の行きつけの店にでも行こうか。そう話していたのですが、今日はやっぱりホテルのレストランで。中華料理の「驊騮」は高層階の景色も美しいのですが、今日は急遽行ったので、奥の方の席に。時勢を反映したパーテーションに隔てられた席。様々な点心をアラカルトでオーダーしたら、スタッフはそれぞれを取り分けて持ってきてくれました。周囲を見渡すと、家族連れやカップルもいれば、ひとりで食事を楽しんでいる人もいる。時短営業かつお酒の提供がないためか、全体的に静かで落ち着いていたのが印象的でした。

部屋に戻ると雨はほとんど止んでいました。鮮やかな光を放つ大きな観覧車。遊園地は極彩色のネオンを投げかけて、みなとみらいの夜を賑やかに彩っていました。横浜の海に注ぐ大岡川に夜の灯りが投影されて、そこに細やかな雨が降り注ぎ、複雑な模様を描き出している様子をパートナーはじっと眺めていました。街の灯りがとてもきれいね、と歌われたヨコハマ。そのブルーライトは反対側に。

流行した歌謡曲のように青い光を海に投げかけて、青く光るこの港。暖色の光をきらきらさせて行き交うクルーズ船や停泊する大型客船。大さん橋の光。雨上がりのブルーライト・ヨコハマはどこか澄み切った煌びやかさを帯びています。あなたとふたり。夜は更けていきます。

今日は金曜日の夜でした。ハーバービューのバスタイム。そしてバスローブを来ながら、クラブソーダを飲んで、見渡す夜景。華やかな光を放つ対岸を眺めるゲストの数だけ隣のベイホテル東急の部屋も灯りがついています。ランドマークタワーも桜木町駅前も明るくて、私がかつてひとりで滞在していたときは必ずこちら側の部屋にしていたことを思い出します。海側はロマンティックな眺めでそれはそれで良いのですが、対するこちらは賑やかで楽しい眺めなので、孤独感に苛まれることが少なかったのでした。

朝焼けから気持ちのよい青空へ

アラームはもっと遅い時間に設定していたのだけれど、レースカーテンだけ閉めて寝たので、客室に差し込んでくる朝の光に目を覚ましました。

ベイブリッジが遠くに見渡し、眼下には大型客船。色は橙色のようでもあり、淡青のようでもある、その曖昧でぼんやりとした空模様が海と連関して、ふわりとしたあたたかみのある綺麗な朝焼けになっていました。

リビングルームからも太陽の威容ははっきりと見て取れます。美しい朝焼けを眺めるといつも、明けない夜はない、という言葉を思い起こします。しかし私はまだ眠く、明けた夜に背を向けるようにして、再びベッドに戻って二度寝しました。

朝食はブッフェ・ダイニング「オーシャンテラス」にて。本来であれば、クラブラウンジで取るところですが、時勢を反映して、こちらに集約されているようでした。朝だとちょうど太陽に向いた方向に位置するレストランのためにカーテンは閉まっていますが、影絵のように、港の施設や朝のジョギングをする人の姿が窓の向こうに見えました。

卵料理は最近もっぱらスクランブルエッグが好きなのですが、久々にプレーンオムレツに。特段の意味はありませんが、なんとなく。また朝食で個人的に美味しいと思ったのは、デニッシュ。季節のフルーツを使ったさくっとした食感。コーヒーとの相性も良いものです。食事をしている間にもどんどん日は昇っていきました。

ゆっくり朝食を済ませたら、海沿いの道を散歩します。弧を描く遊歩道。ジョギングする人や釣りをする人、なんとなく公園をふらふらする人…様々な人が自由に過ごす土曜日のみなとみらいの朝。今日は波も穏やか。雨上がりの空はすっきりと晴れて、5月の気持ちのよい晴天。潮の香りに石油の匂いが混ざった都会の海の空気。清新な感じはしませんが、私はこんな匂いも好きです。彼女も穏やかな表情で空を眺めていました。

せっかくだから、ちょっと横浜港で船に乗りましょう。ホテルの前から出ている横浜駅東口行きのシーバス。今日は新型のZEROという船。横浜のインターコンチネンタルに泊まったら一度はシーバスに乗りたいと思うほど、私はこの船に乗るのが好きです。視線の低い位置から海と横浜の街を眺めて、橋の下を潜って横浜駅方面へ。また山下公園行きに乗れば、赤レンガ倉庫やキング・クイーン・ジャックと名付けられた三つの塔、関内や山手の方まで綺麗に見渡しながら、ホテルニューグランドの前に係留してある氷川丸のところまで行けます。

ときどきひとりでも乗ってしまうシーバス。船は楽しいものです。よく家族で一緒に乗ったことなど話しながら、僅かな時間の船旅。横浜駅周辺で少しだけ買い物をしてからホテルに戻りました。

中華街で昼食を取ってから、チェックアウトまでホテルでゆっくり過ごしました。母が今の私くらいの年齢だった頃に、このホテルが大好きで、よく家族みんなでインターコンチネンタルに泊まりにきたものです。親戚も合わせて10人くらいで賑やかに泊まったこともありました。夏には箱根の別荘を訪ねる前後にこのホテルのプールで泳ぐことを楽しみにしていたことも懐かしい思い出。

みなとみらいの景色も変わり、そしてこのホテルも部分的にリニューアルを重ねて、当時の記憶は過去へ過去へと向かっていきます。今回滞在したインターコンチネンタルスイートは部屋のインテリアも少し古めかしく、そこにノスタルジーを喚起されました。しかしそれ以上に、私をあの頃の思い出にいざなったのは、いまもホテルに残るこの淡いブルーのバスソルトかもしれません。マリンノートの爽やかさがありながら、ラグジュアリーなエッセンスを感じさせる上品で少し厚みのある香り。それは一瞬のうちに昔の楽しい記憶を思い出させます。そうそう、ふと、このホテルの形をしたバスアメニティのボトルがかつて置いてあったことも一緒に思い出しました。それを持ち帰って家で思い出に浸ることも楽しかった。

具合が悪くなった時にとても親切にしてくれたスタッフ。いつも笑顔で親切に色々な手配をしてくれたコンシェルジュ。そうしたひとつひとつの思い出と共にホテルのスタッフの人たちの真心を思い起こします。ここは間違いなく私をホテラーにした原体験をつくったホテルのひとつであるといえます。そのエピソードを語り尽くすには、とても一度の宿泊記では足りません。しかし改めて思うのは、ホテルはただ寝泊まりするだけの場所ではない、ということです。

またこのホテルを訪ねてこようと思います。そのときもまたふとしたことから、かつての優しい記憶を思い起こすでしょう。そしてもちろん今回の滞在もまた、新しい幸せな記憶に加わったことも間違いありません。

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