東京エディション虎ノ門宿泊記・空に面したテラスルームと徹底的なシンプリシティを愉しむ滞在

都会の空気。それは爽やかさとは異質なものとして捉えられがちです。しかし地上から150mを超える高さから東京の空の空気を感じるならば、きっとこれまでにない心地よさを感じるに違いありません。そういう思いと共に私は2020年の9月に開業したマリオット系列の最高級ブティックホテル「東京エディション虎ノ門」の客室を予約しました。

周辺にはハイアット系列で似たような路線のアンダーズ東京、また日系の名門ホテルオークラなどが軒を連ねる虎ノ門地区。どちらも私の大好きなホテルですが、今回は新しくできたこのホテルの世界観を味わいに行きます。完成前からそのイメージ図をみてはホテルの雰囲気の想像を膨らませ、またオープンしたばかりの頃はTwetterを中心として、たくさんの方が滞在している様子をみながら宿泊欲を刺激され、いつか泊まりたいと思っていました。今回はテラス付きの客室である「スタジオテラス」という部屋での滞在についてリポートしていまいりましょう。

チェックイン

車を走らせて東京ワールドゲートへ。このあたりは一方通行と坂道が多くてやや複雑です。ホテルオークラの別館に工事用の囲いができていて、もしかしたらそのまま解体なのか?という懸念が。それはともかくエディション虎ノ門の入居している神谷町トラストタワーはホテルオークラ別館の前の坂道を下りきって、左手の細い一方通行の路地を進んだ先が駐車場の入り口です。

バレーサービスで車を預けて、そのままチェックインに進みます。エントランスから一歩足を踏み入れると、アルデハイド系の香水のような実にモードな雰囲気の香調につつまれます。

階下からのエレベーターを降りてみて、開口一番に思わず「あれ、緑が増えてる?」とパートナーに聞いてしまいました。実はオープンしたばかりの頃に彼女とカクテルタイムに訪問したことがあったのですが、そのときは木材のあたたかみと真っ白なストーンの床との対比が印象的だったのです。

思わず写真を見返して、やっぱりあのときはもうちょっと抑制的な感じだったよね、と納得。それにしてもまるで植物園のような雰囲気にすっかり驚いてしまいました。同じく植物園のような雰囲気がある場所ならば、パークハイアット東京のピークラウンジもそうなのですが、あちらが整った庭園だとすると、こちらはかなり自由な印象。しかしこれはこれで面白いとも思います。ただ季節によって虫が出たりしたらちょっと嫌だなとも思いました。

ちなみにこのホテルのロビーバーの窓側の席からは、東京タワーを含む港区から臨海部にかけて景色を見渡せて、かなり開放感がありました。今回の滞在ではあまりレストランやバーを利用しなかったのですが、チェックアウトのあとで、ちょっとだけノンアルコールのカクテルをいただくときに利用しました。

再びチェックインのときの話に戻りましょう。フロントは昨今のGoToトラベルキャンペーンの影響も手伝ってか、それなりに混雑していました。さすがに行列などはなかったものの、しばらくソファに座って、呼ばれるのを待つことになりました。

5分ほど待って、名前が呼ばれたかと思ったら、結局まだ準備が整っていなかったため、再びソファに戻ることに。それからほどなくしてまた名前が呼ばれ、チェックインに進むことになりました。おそらく混雑の影響で混乱していたのか、担当してくれたスタッフは淡々と客をさばくように案内もそこそこに部屋のカードキーを渡しました。あまり日本のラグジュアリーホテルらしくないなとは思いましたが、細かいことは気にしません。

スタジオテラス・キング

スタッフにエスコートされて部屋まで向かいます。今回の客室タイプはスタジオテラスという名前通りのテラス付きの部屋。フロントと同じフロアの奥の扉から入ります。ちなみに同じ階にレストランもスパもプールもフィットネスもあり、利便性はかなり高く、防音もしっかりしているので快適です。

扉を開けると木材とグレーの絨毯が落ち着いた雰囲気にインテリア。全体を通して言えることはとにかくシンプルであるということでしょうか。飾りを排した真っ白なベッドに真っ白なソファ、そして真っ白な壁。シンプルモダンの多いハイアットの雰囲気とも異なる次元のシンプルさです。デスクにもテーブルにも何も置かれていません。しかしながら機能的には十分にラグジュアリーホテルの要件を満たしていました。

客室を貫くシンプリシティはウェットエリアにもまったく同じことが言えます。無駄なものはないけれど、とにかく使いやすくて居心地がいい。ダブルシンクに独立式のバスとトイレ。見やすい大きな鏡。ここまですっきりとして潔いほどまで飾り気がないのに、どういうわけか高級感を損わないのは、部屋の広さのせいだけではないと思います。素材やライト、そしてアメニティ、その数々の組み合わせ。改めてホテルの客室の表現について、その無限の可能性を感じさせられます。

バスルームはレインシャワーとハンドシャワーが備えられています。水圧も十分にあり、広さも合わせて使い勝手は良好です。ちなみに私自身はこちらのバスタブがかなり浅いように感じたのですが、滞在した方はどのように感じるのでしょうか?

バスアメニティはパークハイアットなどでもおなじみの「LE LABO」のもの。香調はエディションオリジナルのものです。階下で感じたアルデハイド系の香りはこのアメニティと同じでした。ロビーラウンジから客室に至るまで「自然+シンプル」というイメージでいたところ、いきなりモードの世界に連れて行かれるような、そんな香りです。その違いがまた面白い。

ちなみにアメニティはボディローションまでこのような大ボトルです。持ち帰り可能な小さなボトルとどちらが良いのだろう?とパートナーと話していました。部屋で使うには分量を気にしなくていいし便利だけど、ややもすると、使い回しという印象がしてきてしまう。私自身はホテル側の都合でどっちでも良いという曖昧な答えしかできませんが、気にする人にとってはきっと大きく好悪を二分することでしょう。

そしてこの客室をさらにユニークなものとしているのが、こちらのテラスでしょう。東京の空にせりだすような高層階の客室テラスには、テーブルと椅子が置かれ、蔦の絡まる壁に観葉植物の効果で開放感のなかにも落ち着きがあります。キャンドルランプのような照明も置かれていて、夜になると広がる夜景と相まって、とてもロマンティックな雰囲気。

天気がよければこれほど気持ちの良い都会のプライベートテラスはありません。実際に我々も滞在中に何度もここに出てしまったほどです。

この客室の面白いところのもうひとつには、IHヒーターや電子レンジのついたキッチンがついていることです。調理器具は特に用意されていなかったのですが、そのためのスペースはありました。食材を持ち込んで部屋で料理したりできるのでしょうか?もしかしたらレジデンスとしての利用も想定されている?

まったく調べたわけではないのですが、色々と気になるところが多いホテルですね。

テラスを満喫する〜東京エディション虎ノ門での滞在

チェックインしてからしばらくは特にすることもなく、ぼんやりと過ごしました。本でも読もうかと思いましたが、結局、この落ち着く空間に身を委ねることにしてしまったのです。

お茶でもいれようか、と重量感のある鉄製の急須に、SAYURIという香り高いほうじ茶と、EDITIONウォーターをケトルで温めた熱湯を注ぎます。なんだか甘いものが食べたくなったので、ミニバーにあった小さな羊羹も頂きました。ほっと一息。シンプルでユニバーサルな雰囲気のこの部屋が、一気に日本的な雰囲気に感じられてきました。

ディナーの前にもう少しこのホテルを探検しようとプールにも出かけてきました。私が行ったときには他に誰もいなくて、とにかくシンプルでありながらも、アップテンポなクラブミュージックにコバルトブルーの光を放つ水面が妖艶な雰囲気。眺望が開けていないことで、なんとなく内密なニュアンスが強まって、曰く言い難い落ち着きがありました。

ほどなく日が暮れてからディナーに出かけます。我々の間で一致したのはステーキが食べたいということ。バレーパーキングしている車を出してもらったらミネラルウォーターを車内に用意してくれていました。このようなサービスは東京だとパークハイアットを思い出させますが、ありがたいものです。

なんとなく最近車内のアンビエントライトをブラックピンクにしていたのですが、EDITIONのボトルデザインに妙にマッチしました。客室のシンプルさから考えるとまったく異なるのですが、私が当初、マリオットの最新のライフスタイルホテルと聞いたときにイメージした世界観は(Wホテルのことなどもあり)こちらのイメージに近いものでした。実際には、銀座に開業したアロフトなどがこういう路線で、こちらはプールやエントランス周辺を除いてはかなりナチュラル系でしたね。

ディナーは「BLT」でTボーンステーキを。さすがにボリュームがかなりあるので、ふたりでひとつをシェアします。こんがりと焼けていて、そのまま食べてもしっかりと実質あるビーフの味。そしてアクセントにチミチュリなどを加えても美味しい。和牛だと気持ち悪くなってしまうことも多いけれど、これくらいしっかりと食感がよくて、赤身のバランスが多い方が好みだとつくづく思います。

休日なのに客足はまばらで店の中は静かでした。いつものようにパートナーとあれこれ話をしていたらあっという間に2時間ほどが経っていました。

部屋に戻って、テラスに出てみると、冷たい風が吹き始めた東京の夜。遠くには東京スカイツリーのピンクの光が見えます。このところ急激にビルが増え始めた虎ノ門の街。見下ろすとおそらく新しいビルを建設している工事現場の灯りが目に入りました。この街はとどまることを知らないかのように動き続けて、新しいものを生み出し続けていきます。

このときホテルオークラ東京の別館のことを再び思い出しました。

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思い返せばあそこのペントハウスは、ある意味で、この部屋の先駆的な空間であったのではないか。あの刺激的でありながらも落ち着く雰囲気。時代もデザインもまったく違うのだけれど、どこかにつながりを感じ、なんだか懐かしい気持ちになりました。願わくばあの空間に再び足を運んでみたいものです。

何か飲み物でも飲もうか…そう言ってお願いしたのが橙色のジントニックと生姜ルイボス。実はルームサービスのスタッフが我々の注文をすっかり忘れていて、随分と時間が経ってから再確認したところ、慌てて持ってきたのでした。ふたつの健康的なモクテルを飲みながら、夜景を眺めようと思ったのですが、いよいよ寒い。

結局、室内のロングソファでリラックスしながら飲むことにしました。暖かい雰囲気のシンプルな部屋で懐かしい話を。そうこうするうちに眠気が襲ってきて、お風呂に入って早めに休むことにしましょう。

私はどういうわけか悪夢を見ました。様々な人から様々な理由で罵倒される悪夢。そして目を覚ましたときパートナーが横にいるのを見て、心を許せる存在がそばにいてくれることのありがたさを妙に感じたのでした。それはなにげないことだけれど、とても幸せなことなのですよね。

朝食はどこか外に行こうかと前日に話し合っていましたが、結局はルームサービスを取ることにしました。またしてもスタッフが注文を取り違えるというミスがあり、やたらと待った上での食事となりました。ストロベリーのたくさんのったブリオッシュフレンチトーストとポーチドエッグがふたつのったアボカドトースト。起き抜けからすっかり明るくなった、高層ビルの連なる東京の月曜日の朝は、なんだかとても気怠い。しかしこの爽やかなテラスで朝食を取っているとき、その気怠さからも自由になれるような気がしてきます。

それから午前中に部屋とテラスで少し仕事をしてからチェックアウト。今回も素敵な滞在でした。

正直なところ、サービス面での不手際が目立つこともありました。フロントのスタッフが冷たい印象を持っていたことやルームサービスを何度も間違えられたことは残念でした。しかし同時にそれをカバーするような行動を一生懸命に取ってくれたスタッフも多くいて、そういう人たちに牽引されてサービスの質が向上していくことが期待されます。また客室のシンプルな雰囲気や居心地の良さは特筆すべき点であり、また戻ってきたくなるのに十分な魅力がありました。

華麗なシンプル。一見何もないようでいて、実はとても個性が強い。そういうホテルのような気がします。今回の滞在だけでは計り知れない東京エディション虎ノ門。今度はテラスルーム以外の部屋にも泊まりに再訪したいと思っています。

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