ベーシックス福岡宿泊記・リージェンシーの名残、そしてグランドハイアットへ

ちょっと前の九州の福岡の中心部にはふたつのハイアットがありました。今もキャナルシティ博多に位置するグランドハイアット福岡、そして博多駅の筑紫口にも程近いハイアットリージェンシー福岡がそれです。リージェンシーの方は、2019年にハイアットとの契約が切れて、一時閉館となりましたが、2020年にザ・ベーシックス福岡へとリブランド・オープンしました。

思い返せば、かつて福岡を訪ねたときには、ひとりで「リージェンシー」から「グランド」へとはしごするというスタイルの宿泊を何度かしたこともありました。さらに記憶を辿ると、はじめて家族と九州を訪れたときに、はじめて福岡で滞在したホテルもこのリージェンシーでした。

今回はパートナーと一緒に、ベーシックスからグランドハイアット福岡へとはしごする福岡ステイ。いまとむかしをめぐる旅の様子についてリポートしてまいりましょう。

ベーシックス福岡に滞在する

昼過ぎに福岡空港に降り立つと、そのままタクシーでホテルまで向かいます。

市街地をかすめるように着陸したことからもわかるように、この街の中心部から空港までは極めて近いのです。親切におすすめの店を勧めてくるタクシーの運転手のさりげない博多弁にあたたかさを感じて、10分少々でホテルに到着。

見上げると、実にアイコニックなビリジアンで円筒形のビル。ポルトモダン建築家であるマイケル・グレイヴスの手によるもので、手前側の直角的なビルの雰囲気と合わせて、ここだけ地域性から切り離された空間のような気がしました。

特にベルスタッフのエスコートもなく、そのままエントランスを入ります。外観とおなじく、目を引く美しいアトリウム。リブランドによって本棚が飾られるようになりましたが、基本的な空間美はそのままに残されていました。フロントスタッフはいるもののチェックインは基本的に機械で行います。地味なところですが、このホテルがいまは「ビジネスホテル」なのであるという印象を抱きました。建物が素敵であり、そのギャップゆえのことかもしれません。

機械からカードキーがでてきて、それを受け取ったらエレベーターへ。

客室に入るとやや広いスペースがあり、大きめのソファと、印象的な形状の椅子が置いてあります。このひとりがけの椅子はかつてこのホテルがハイアットリージェンシーだった頃を思い出させます。ベッドの質感はさほど悪くありません。

正直なところ、個人的に、この部屋のインテリアはそれほど洗練されたものではないように思います。また予想以上に全体的に照明も暗く、最新のビジネスホテルにある心地よい軽快感にも欠ける気がします。外観やアトリウムが美しいだけに、もっと質感の高い客室のリノベーションだったらよかったのに、と期待した分、少し残念にも思いました。

もっともハイアットリージェンシー時代の雰囲気に浸ることができて、なおかつ価格帯もそれなりに手頃というのは、それはそれで悪くないものかもしれません。

ウェットエリアはユニットバスで以前とさほど変わっていません。全体的に無機質な感じがしてしまうのは仕方がありません。

バスアメニティはCO BIGELOW。ペパーミントとラベンダーのアロマティックで落ち着く香りです。洗い上がりの質感も高くて、個人的にはハイアットリージェンシーでおなじみのファーマコピアよりも好きです。もっとも小さなボトルではないところがまたビジネスホテル的な合理主義を感じさせます。このあたりも好みが分かれそうな点ではありますね。

illyのコーヒーメーカーやコンプリメンタリーのミネラルウォーター。このあたりの設備はなかなか充実しています。またささやかながらウェルカムフルーツも用意されていて、ちょっと嬉しいものです。

ベーシックス福岡で「いま」を思う

チェックインして部屋で一息ついてから大濠公園のあたりまで出かけました。私は会議がありホテルまで戻ってきたのですが、パートナーは私を待つ間に博多駅周辺で過ごすことになりました。

ひとりホテルまで戻ってくると、以前ここに泊まったときの日々を思い出しました。ひとりで泊まっていたときのこと、家族で泊まったときのこと…こうしていまの時間も思い出になっていってしまうのかな。普段とは違う街で、いつも一緒にいる人とほんのひととき別行動を取った夕暮れにふいに訪れた、過ぎていく時間の流れを惜しむ感情でした。

いまを、このときを、生きよう。

最近強く思うことであったりします。

朝食付きの宿泊プランではなかったので、翌朝は結局ホテルに隣接する「ローカルカフェ」で簡単に食事を済ませました。コーヒーは酸味が比較的強くでてきて、外から吹き込んでくる冷たい風と相まって、秋らしい爽やかな朝を印象付けました。

グランドハイアット福岡にはしごする

朝食を済ませた我々はそのままチェックアウトに進み、タクシーで次の滞在先を目指しました。ぶんぶん飛ばすタクシーに乗って着いたのがグランドハイアット福岡。

相変わらず重厚な中にもポップな雰囲気が漂うロビー。大きな窓の向こうではキャナルシティの噴水がダイナミックな水の動きを演出していました。かつてひとりでハイアットホッピングをしていたときに、このホテルに来ると、妙に華やいだ気分になったものですが、その感覚はいまもって同じものでした。

チェックインはいますぐでも出来ると言われたけれど、我々は荷物だけを置いて、ちょっと出かけることにしました。

博多駅から新幹線で小倉駅へ。そしてそこから鹿児島本線の鈍行列車で門司港駅までわずかな鉄道旅。415系の唸るような懐かしいモーター音を聴きながら、工場と海との立ち並ぶなかを走って行きます。しばらくすると煤けた色の木材の屋根のプラットホーム。門司港駅に到着しました。

かつて僅かな時間ですが、ここに降り立ったことがありました。今日は少しだけこの街を歩いて、それから海上を風を切るように走る関門連絡船で下関の唐戸港に渡ります。潮風を感じ、地のものを食べて、ふらりと街を散策する。その思いがけない楽しさを見つけました。海を東へと進めば広島に至るのでしょう。彼女がかつて暮らした街。

その時期は必ずしも幸福な思い出ばかりではなく、むしろ辛い記憶もあったようですが、いつかふたりで行きたいね、と私に言ってくれました。たしかに、私もいつかふたりで訪ねてみたいと改めて思いました。

それにしても私のパートナーも、よくこのようなマニアックな「はしご」に付き合ってくれた(それから鉄道&船の小旅行にも!)ものです。人によっては、もしかしたら同じ福岡なのに、わざわざ宿泊するホテルを変えるなんて馬鹿らしいし面倒臭いと思う人もいるでしょう。また彼女に感謝したい気持ちでいっぱいになりました。

グランドハイアット福岡に戻ると、笑顔のあたたかいフロントのスタッフから、前に泊まられたときとそっくりそのまま同じ部屋をご用意しました、とカードキーを渡されました。

確かに以前ひとりで滞在した、このホテルの最も奥の方にある部屋。シンプルで照明もやや暗いけれど、ベーシックスに比べると(あまり比較に意味はないかもしれませんが)質の高さを感じる部屋です。透明のシンクと前面ガラス張りの前衛的なウェットエリアにグランドハイアットらしさが現れているように思います。

そうそう、あのときも、この部屋からキャナルシティの夜の賑わいを眺めていたのでした。昼になれば、勇壮なクラシック音楽に乗せて水が様々に姿を変える噴水の様子も見て取れます。

あのときと同じ部屋からの景色。でもいまはあのときと違う気持ちで眺めています。

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