パレスホテル東京宿泊記2021・こんなに夕陽が綺麗に見える部屋だったんだ

こんなに夕陽が綺麗に見える部屋だったんだ。夏至も近いある日の午後4時近く、チェックインしたパレスホテルのバルコニーから広がる東京の景色は、午前中に済ました雑務のことを忘れさせるには十分すぎるほどでした。そして以前泊まったときのややほろ苦い思い出も…

そんなに時間が経ってしまったことがやや不思議に思えるほどですが、前回ここにパートナーと泊まったのは昨年の秋のはじめ。そのときは、季節の変わり目の愁いの気持ちが込み上げてきたことと、付き合い始めてしばらくしてから直面する距離感のわからなさが混じり合って、なんだか寂しい気持ちの残る滞在となってしまったのでした。なおそのとき滞在した部屋は内堀通りに面した西側に位置し、このホテルの特徴ともいえるバルコニーがついていないパーシャルビューの部屋だったのでした。

だんだんと夏に向かって暑くなってくる毎日、なんとなく、あのテラスでの朝食や凛とした空気感に心惹かれていた私は、彼女にしばらくぶりにパレスホテル泊まらない?と提案したところ快諾。この滞在も(いつものように?)気まぐれで決まったのですが、前のときには心の余裕のなさゆえに気づけなかったこのホテルの魅力を再発見することになりました。今回はそのときの様子をリポートしてまいりましょう。

GoToトラベルという言葉もすっかり久しいものになってきた感覚がありますが、そう、あのときはまさに東京も対象に加えられたばかりのときで、たくさんの人がこのロビーに訪れていたのでした。たしかあのときはバレーパーキングのサービスについては休止していたように思いますが、今日は再開しているようです。モダンで直線的な石垣が印象的なエントランスに車を横付けしてから、ベルスタッフのエスコートでチェックインに進みます。

クリスチャン・トルチュの手がける都会的でありながら、どこか野趣を感じさせる大胆な装花が出迎える明るいロビー。少しピリッとした香りが漂う凛とした雰囲気が心地よく感じます。速やかにチェックインを済ませると、新人研修を兼ねてスタッフ2人が部屋まで案内してくれます。先輩の方はやや過剰ではないかと思われるほどの丁寧さで我々に部屋の説明をしてくれました。なんとなくほっとします。

グレージュの内装にひらりとした暖色の照明が落ち着きます。そして今回は南向きのバルコニー付きの部屋に案内してもらうことができました。奇をてらったところのないすっきりとしたインテリア。この清楚な雰囲気はホテル全体のテーマであるように思います。前に滞在したときは部屋の雰囲気をゆったり味わうことがあまり出来なかったね、とふたりで話していました。

ウェットエリアは、バスタブ、トイレ、シャワーブースが分離したスタイル。あたたかい雰囲気の照明はここにも貫徹されており、ストーンの冷たさをうまく緩和して、優雅さを演出していました。シャワーは水圧もしっかりとあり、バスアメニティはアンヌセモナン。タオルの質やレプロナイザーのドライヤーなど置かれているアイテムも欲しいところを心得た内容だと思わされます。

部屋の椅子に座って外を見渡すと梅雨らしい湿気の高そうな曇り空。外が蒸し暑いから何か冷たいものでも飲みたいとどちらからともなく言い出して、ミニバーからスパークリングウォーターを取り出して飲みました。テーブルの上にあるおかきは結局最後まで開けなかったのですが、どんな味だったのか試してみればよかったと今更ながら思います。

スパークリングウォーターのグラス越しに見えるのは、皇居前広場の松の木のあおさに加えて、遠く日比谷公園に至るまで初夏の色。自然豊かな熊野生まれの親戚が、東京にはじめて来たときに、意外と緑が多いんやね、と言っていたことを思い出します。遠く見渡す高層ビルの林立に、近くにはたくさんの車が行き交う景色。外にいると気づかないものだけれど、部屋に入ってドアを閉めたときの静けさに、複雑な都会の音の大きさに気づきます。

いつもより遅めのチェックインだったこともあり、少し周辺を散策しながら夕食に出かけよう。そうして我々はしばらく夕暮れの丸の内を歩くことにしました。

行きは丸の内仲通り。帰りはお濠端の道。お互い行ってみたかった広東料理の店で点心をたらふく食べたあとの夕暮れの風はなんだか心地よく、こういう天気がずっと続いたらいいのに、とふとこぼしてしまうほどでした。和田倉濠のすぐ近くにさしかかるとホテルを望む位置に紫陽花が。しばらく前に鎌倉を歩いたときにも満点の青い花を咲かせていたけれど、今日もまだその鮮やかな色合いを放っていました。

夏至近くの夕暮れの空は、夏の明るさと春の終わりと、梅雨特有のじめじめした気分が混ざり合って、美しくも複雑な切なさがあります。ふと下を見ると、濠を動き回る1羽の白鳥がいました。春にはオホーツク海の沿岸へと飛び去ってしまう渡り鳥がなぜこの蒸し暑い中でもここにいるのだろう、と不思議に思いながらも、なんだか呑気そうに泳いでいる様子は癒されました。

あとでホテルのスタッフに話を聞いてみると、どうやらあの白鳥はこのお濠で世話をされている個体らしく、もともとはカップルだったとのこと。相方が死んでしまって、いまはひとり。なんだか切ない話だと思いながらも、むしろ水中を漂う姿にたくましさを覚えて、愛らしく思えてもきました。

東京の空をピンク色に染めていた太陽も沈み、そろそろバスタイム。ピンクのかわいらしいバスソルトを入れた浴槽に浸かり、アンヌセモナンの上品で爽やかな香りを強めのシャワーで流すと、すっかり整った気分になります。こういう気分になれるところもラグジュアリーホテルたるところだと妙に納得しながらバスローブを羽織りました。

冷やしておいたミネラルウォーターを飲みながら、再びバルコニーに出ます。メガシティといえる東京の中心は緑豊か。夜であっても内堀通りを行き交う車は絶えることなく、皇居の静けさと対照的な姿を見せていました。都市の光の美しさ。なんだかほっとするよね、とパートナー。寄るべないところも、縛られない自由があるのも東京らしさと言えるでしょうが、このバルコニーから広がる夜景を見ていると、自由で開放的なイメージを強く持ちます。夜風に触れながら感じているこの安心感もそんな印象から派生しているものに違いありません。

少し早く目が覚めた、と思っていたけれど、決してそういうわけでもないくらいの朝。身支度を整えてからグランドキッチンでの朝食に向かいます。なんだか今日は甘いものが食べたい気分なんだ…そう言って私が注文したのがワッフル。なめらかで甘いクリームや甘酸っぱいベリーソースが美味しい。対してパートナーが注文したのがエッグベネディクト。いつもだったら反対の注文をしそうだね、だなんて言いながら、結局、お互いに半分ずつ分け合って食べることにしました。

昨日の夕方にお濠にいた白鳥がすぐ近くの水面をすいすいと過ぎ去っていきました。

朝食を終えたら周辺に買い物に出かけました。ここのところ色々と慌ただしくて、こんなゆっくりとした滞在をしたのも久々のような気がしてきました(いわゆるホテラーと言われる私たちにとっての常識が、世間の感覚と一致しないことは、この際、棚に上げておくことにします)。

買い物から戻ってきたらプールに行こうと思っていたのですが、思った以上に空腹だったので、結局昼食を取ることにしました。ラウンジバーのプリヴェ。じつは私はここに来るのは初めて。客室同様の開放的な景色。やや尖ったモダンでクールな雰囲気のラウンジのほとんどは女性客でした。

バーフードといえば、サンドイッチとかフィッシュ&チップスとか、そういうものを想定しそうなところですが、今日ここにきた目的は、パートナーが見つけたこの三段弁当を頂くことでした。ホテルの和食レストラン「和田倉」が手がける上質な弁当。量は控えめではありますが、一品一品の主張がしっかりとあって、満足感のある昼食となりました。

昼食を取りながら色々と話していたら、だんだんと店が混んできて、見渡すと、アフタヌーンティーの時間のようでした。我々は会計を済ませて部屋に戻ることにしました。

ほどなくしてチェックアウト。にこやかなスタッフに荷物を預けて、この部屋をあとにします。手続きを済ませていたら、チェックインのときに担当してくれたスタッフも丁寧に挨拶してくれました。

もちろんこうした括り方に意味はさほどないのですが、私自身は、帝国ホテル、ホテルオークラ、ニューオータニ、キャピトル東急、そしてここパレスホテルを合わせて五大日系ラグジュアリーホテルだと考えています。そのなかでも、同じくらいに前身のホテルができ、同じくらいの時期に建て替えがなされたキャピトルとは、どこか似たような伝統に裏打ちされた空気感があるように思います。しかしキャピトルが黒っぽい、深さや渋いかっこよさを感じさせるのに対して、パレスホテルは白っぽい、きらきらした明るさや華やかさを感じさせます。

パレスホテルが以前の姿から想像もつかないほどにモダンで美しくなってから、来年で10年目。時の流れの早さを感じながら、すっかり安定したラグジュアリーホテルとしてこの地に君臨する頼もしさを感じました。部屋からのダイナミックな眺めや上品なインテリアはもちろんですが、このホテル全体に漂っている凛とした清楚な雰囲気に触れに、また戻ってくることにしよう…そう思いながら、エントランスから夕方の都心へと車を走らせました。

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