ハイアットファンである私からすると、マリオット系列のホテルに滞在する機会というのはそれほどありません。しかし2019年から新しいロイヤルティプログラムである「マリオットボンヴォイ」がスタートし、日本国内はもちろん世界的にも最大規模のネットワークを誇る同系列のホテル群には常に関心を払ってきました。
今回リポートする「モクシー東京錦糸町」は2017年の11月にオープンして以来、首都圏にあるマリオット系列のホテルでもっともリーズナブルに宿泊できる場合が多いホテルであり、なおかつ前衛的なインテリアと相まって、無視できない存在感を放ってきました。
当日は、東京のホテルがどこも軒並み高いレートを掲示している日でした。しかし私は深夜にチェックインして、チェックアウトは早朝という短期間の滞在だったため、どこか手頃なホテルを…と探していました。最初は都心部でどこかないかと思っていたところ、ほどよいホテルは満室か通常ではありえないくらいの高額だったので、断念…しかしモクシー東京には空室があり、かつかなりリーズナブルだったので即決となりました。
バーカウンターでのチェックイン
深夜の錦糸町に到着…このエリアは城東地区でも有数の歓楽街であり、夜でも(夜こそ?)人の出入りがとても多く賑やかです。ただちょっとひとりで歩くとなると治安の悪さを感じるかもしれません。
私は例によって車でこのホテルまできましたが、こちらのホテルには駐車場はありません。あまりこのホテルは自動車の利用を前提にはしていないのかもしれません。周辺にはいくつか定額制の駐車場があるので、そちらに停めてホテルに向かうことにしました。
もっとも提携している駐車場などもなく、やや狭いことに加えて、酔っ払っている人がうろついていたので、安心して車を預けておくという点では、個人的にちょっとマイナスポイント。しかしこの点はホテル自体の評価とは当然のことながら分けて考えなければなりません。
ホテルのエントランスにいくと、いきなりこのような扉があり驚きます。こういうある種のけばけばしさを前面に押し出してくるのは、良くも悪くもマリオット系列の特徴と言えるかもしれません。ハイアット系列でもハイアットセントリックやアンダーズなどが前衛的なデザインを採用するものの、ここまで突き抜けられてはいません。個人的にはそれくらいの「節度ある前衛さ」が好きですが、やはり「W」や「モクシー東京」のようなハジける雰囲気には、どことなく圧倒されます。
ちなみにこちらのエントランスドアは深夜の時間帯は施錠されており、カードキーなしでは入れません。私はチェックインだったので、インターフォンを押して中に入れてもらいました。
中に入ると驚くのは、このホテルには「フロント」がありません。入ってすぐの右手にこのようなバーコーナーがあります。そしてこちらでチェックインを行うのです。合理的かつ前衛的だと思います。
このように面白いチェックイン自体は悪くないと思います。しかしBGMがややうるさいのに加えて、スタッフがバーカウンターのゲストの相手をしながらチェックインの手続きを行うので、対応が雑だと思いました。私は手続きを終えると鍵だけをポンと渡されたのですが、少なくとも「ホテルの案内はいかがでしょうか?」の一言くらいは欲しいものだと思いました。慣れてない人だと不親切な印象を持ってしまうかもしれません。
基本的にセルフサービスです
このホテルにはルームサービスや客室係によるサービスなどはありません。基本的にホテルのスタッフがゲストと関わるのは、バーカウンターを介してだけです。
客室:ゲストルーム(クイーンベッド)
続いて客室を見ていきましょう。このホテルはスイートルームやデラックスタイプなどがない、モノクラスのホテルです。すべての客室の設備は共通ですが、ただベッドがクイーンベッド1台か、シングルベッド2台かの違いがあるだけです。私にはクイーンベッド1台の方の部屋がアサインされました。
客室自体はかなり狭いです。黒いランプなどの雰囲気がどことなくハイアットセントリック銀座にも似たものを感じますが、こちらのほうが全体的なインテリアコードとしてはポップです。
ベッドまわりはこのようになっています。マリオット系列によくあるように割と高さがあります。ただし寝心地はさほどよくありません。東京にある同じようなライフスタイルホテルだと、設備面で似ていて比較してしまうのが「プルマン東京田町」ですが、あちらのベッドの寝心地は、深く沈み込むようなふわふわしたもので、本当に素晴らしいものでした。価格帯がやや異なりますが、少なくとも寝心地や部屋での安らぎという点では、どうしても見劣りしてしまうことは否めません(その他の設備・アメニティなどについても同様に)
さていきなりマイナスの評価をしてしまいましたが、カラフルな電話機が設置してあったり、おもちゃが置いてあるといったポップな雰囲気は、他のホテルにはない世界観がでていてなかなか楽しいものです。そして意外と客室のカラーコーディネートは落ち着いています。
壁は木目となっています。個人的には床がやや濃い木目なのに加えて、壁まで木目だと圧迫感を覚えてしまいます。以前にどなたかが「監獄みたい」と評していた記憶がありますが、まさに言い得て妙だと思います。手前側の業務用扉のようなシャワールーム側の壁もこうした雰囲気に拍車をかけています。
なお壁にかけられているのは、一番奥にテレビ、そして手前側にはこのように椅子や荷物台などが置かれていて、ゲストが適宜下ろして使うようになっています。こうすることで広くないスペースを有効活用しようというものです。
テーブルと椅子を下ろして、展開させてみました。まずまずの大きさがあります。ただし椅子は木製なので長時間の利用には向きません。したがってこのホテルはなにか仕事の作業をするのにはあまり適していないように思われます。一味違うビジネス需要を取り込めそうな余地があるところですが、そのあたりも割り切っているのかもしれません。
やや上の価格帯であるハイアットセントリック銀座東京やプルマン東京などは、このあたりの需要にも応えるだけの設備があるのですが、逆にいえば、そういう観点でみてしまうと、このホテルの設備が見劣りしてしまうのは仕方のないことなのかもしれません。
観光で使う場合で、しかもホテルでの滞在時間が極めて短いのであれば、特にこの設備で問題はないと思います。
バスルームではなくシャワールームです
次にシャワールームをみていきましょう。こちらのホテルにはバスタブなどはありません。最近のホテルではこのあたりの設備を省略するケースも増えてきているので、特にこうした割り切り方には不満ありません。
シャワールーム自体のスペースはそれなりに広くとってあります。水圧も別段の問題なく、椅子も置いてあって、まずまず快適に使えるようになっています。このあたりは好意的に評価できると思います。
バスアメニティはこれといったブランドのものではありません。ボトルがショッキングピンクで目を引きますが、内実はややお粗末を言わざるをえません。特にコンディショナーとシャンプーが別ではなく、コンディショニングシャンプーとなっているあたりはかなり割り切っているのだと思います。
いつもバスアメニティを気にする私としては、予想以上にこの内容の乏しさにはがっかりしてしまいました。またボディローションの用意もなく、ここもマイナスポイントです。ビジネスホテルであっても、必要最小限には用意してあるし、またバジェットホテルとはいえ、マリオット系列なので、なにかしらのバスアメニティが用意されていると思ったのですが…
なおセルフサービスが中心のこちらのホテルでは、バスローブも1階のバーカウンターでリクエストして、自分で部屋まで持ってこなければなりません。この点にも注意が必要かと思います。
シャワールームの手前側はこのようにベイシンがあります。スッキリしているのですが、逆に言えば用意されているアメニティの少なさを裏付けているとも言えます。ドライヤーがこれもショッキングピンクで目を引きます。本当にこのあたりの世界観の作り方は上手なのに…と思います。
朝食についてひとこと
以上までで部屋をみてきました。
不満な点はいくつかあったものの、宿泊価格がリーズナブルであることも考えると、世界観の面白さも含めて悪いとは言い切れないと思います。そして翌日に備えてそれなりに早く休むことにしました。
翌朝は、今回の宿泊には朝食がついてきたので、1階のバーラウンジに向かいます…すると、ある程度の人出は予測してはいましたが、かなり混雑していました。セルフサービス形式のブッフェをめぐる様々な国籍のスタッフと様々な国籍のゲスト…やはり国際的なホテルチェーンなのだと思わされます。
さて肝心の朝食なのですが、個人的にはいまひとつ…という評価です。まず全体的に「雑」なのですが、ここにはそのネガティブな側面が強く出てしまっているように思います。
混「雑」しているし、スタッフの対応も「雑」だし、また料理の味や補給のタイミングも食器も「雑」なので、あまり朝食を楽しめるような雰囲気ではありませんでした。個人的にこの金属プレートでサラダやパンやホットミールを食べると、なぜか惨めな気持ちになります。コーヒーも金属製のタンブラーにて…
全体を通して、今回は割合と辛口の評価になってしまいました。スタッフの方がもう少し丁寧に案内してくれたら多少印象も異なっていたかもしれませんが、残念ながらこちらも全体的に「雑」でした。
ホテルに対して私が求めるものが、このホテルのコンセプトと合わなかったのも大きな要因かもしれません。私はもう少しゆったりと客室で過ごし、ほどよくスタッフが気にかけてくれて、そして朝食は優雅な気持ちで取りたいと思うのです。いや、そのように落ち着いてなくても、もっと特別ななにかを感じさせる場所であって欲しいと思うのです。高級ホテルでは当然として、同じ価格帯でもコンセプトによっては、これをうまく実現しているホテルも数多くありますので、これは完全に好みの問題なのだと思います。このホテルのファンの方を含めた読者のみなさまも、どうかその点はご承知おきください。
ただこのようにホテル全体に対して否定的な評価をしていても、モクシー東京錦糸町のもつポップな雰囲気はやはりある種の非日常感があって素敵だと思います。そしてこうした世界観のつくり方にかけては、マリオット系列は本当に上手だな…と改めて感嘆しながらホテルを後にしました。