ハイアットセントリック銀座東京・シティービュースイート宿泊記〜銀座の町のカラフルな部屋で眠る

中央通りと晴海通りが交差する4丁目の交差点を中心点として整然とした道路が交わり、ひとつひとつの通り沿いには高級店や先進的な店が連なる日本でも屈指の華やかな街。その一方で、狭い路地が縦横無尽に走り、昔ながらの店や都会のエアーポケットに巡り合える下町としての姿もある街。そんな銀座の中心に滞在することの楽しさはあえて強調する必要はないでしょう。

ハイアットセントリック銀座東京は、このような立地を生かして、ホテルの機能としては必要最小限にとどめ、どんどんゲストが外へと繰り出すことをコンセプトとしていることで知られています。大都会東京が常に変化しているように、銀座の町も変化している。そうであるならば、このようなコンセプトをもつこのホテルも必然的に街に合わせて変化していくのでしょうか。その大きな流れの行く末は今後見ていくことにするとして、先日の滞在で私はこのホテルを肯定的に評価できるいくつかの変化を見つけることができました。今回はプレミアムスイートのひとつ「シティービュースイート キング」の様子と共にリポートしてまいりたいと思います。

チェックイン

久々に乗ったシルバーの車体に真っ赤な帯の丸の内線を銀座駅で降りたら、数寄屋橋交差点を地下で抜けて、東急プラザの中を通ってホテルまで向かいます。その日は朝早くから仕事があり、銀座に着いて時計をみると3時を回った頃でした。

ちょうどチェックインのゲストの多い時間に重なったらしく、スタッフが手続きに時間がかかりそうということで、こちらの色々な種類の椅子の並んでいるラウンジに案内してくれました。以前は立ったままで待たされた記憶があったのですが、このあたりの対応の良さを好ましく受け止めました。

もともと銀座のガイドブックや美術書、カルチャー&アートなどの本が並べられているラウンジ。最近ではSonyのaiboが待っていたり、このようなアーケードゲームが置かれていて、ますますポップな色合いを強めているようです。もちろんこれらは実際にプレイできるようになっています。以前に滞在したことのあるマリオット系列の「モクシー東京錦糸町」もこのような遊び心のあるホテルでしたが、こちらはハイアットらしく、あまり突き抜けた感じはありません。このあたりは好き嫌いを二分するところですが、個人的には、ビンテージ感あるインテリアコードにうまく合わせていて、好きです。

様々なロビーラウンジのおもちゃや本を眺めているうちにチェックインが終わり、スタッフに鍵を渡されてから客室へ。こちらはエスコートはありませんが、このあたりのサービスは割り切っているのは周知のことなので特に気になりません。また担当してくれたスタッフは丁寧かつにこやかだったことも印象的でした。

さらに今回のスタッフからは、チェックインに時間がかかったことのお詫びとともに、客室のアップグレードのお知らせがありました。最上階の…という言葉を聞いて、一瞬、最上級のNamikiスイートかと思いましたが、そこではなく、最上階の「シティービュースイート」となりました。エレベーターを降りると色鮮やかな壁に古紙や古本を利用したアート。

シティービュースイート

ご存知の方も多いかと思いますが、ハイアットのスイートの等級は上から順に、スペシャリティスイート・プレミアムスイート・スタンダードスイートとなっています。スイートアップグレードなどの特典に対応しているのは後ろのふたつですが、もちろん必要なポイント数などは異なります。

ハイアットセントリック銀座では、「シティービュースイート」がプレミアムスイートということになっています。しかし客室の内容に関しては、スタンダードスイートと同じで、違いは眺望のみ。しかも特に優れた眺望というわけでもないので、個人的には、わざわざ余分に払って(あるいはポイントを使って)までプレミアムスイートを選択する意味はさほどないと思います。しかしアップグレードされたのは率直に嬉しいものです。

リビングルーム

部屋に入るとまず左手にウォークインクローゼットがあり、そのまま進んだところがリビングルームとなっています。

ビビットカラーの黄色い壁や大判の市松模様の床。そして窓の近くはプルシアンブルー。非常に大胆な色使いの部屋です。これは同じ東京のハイアットでも、パークハイアットやグランドハイアットなどの雰囲気とは対照的な明るさがあります。壁際にバランスよく配された銀座の写真の数々がよいアクセントになっています。ちなみに窓際に置いてあるデイベッドは広さも十分にあり、硬さもほどよく、気持ちよく昼寝ができてしまいそうです。もっともホテルなのだから、デイベッドじゃなくても、昼寝に適した正規のベッドもありますが。

手前側にある様々な目的に使えそうな大型のテーブル。白と黒のボックスにはコンセントがついているため、例えばPCでの作業などもできますし、もちろんルームサービスの食事を取ったりもできます。壁にかかっているのは、この客室を象徴するようなカラフルで賑やかな絵。エントランス寄りのウッディなインテリアには思った以上に溶け込んでいて、デザインセンスのよさを感じさせます。

コンプリメンタリーのミネラルウォーターは十分に用意されています。またおなじみのネスプレッソも設置されていますが、高級ホテルと比較すると2種類と少なめです。

ベッドルーム

リビングルームの奥がベッドルーム。もちろん両方はスライド式のドアで隔てることができます。

反対のリビングサイドにも設置してある大型のテレビ。そしてカラフルなモザイク絨毯のうえに、ハイアットらしい真っ白なベッド。こちらのベッドはやや固めの低反発。枕の柔らかさも程よいセッティングになっていて、非常に寝心地は良いものです。読書灯がスタンドランプのような形となっていて、しかも左右で形が違うという遊び心もこのホテルらしいところですね。

私がこの部屋でも特に好きなのがこちらの窓に面したロングデスクです。回転椅子に腰掛けると、窓の向こうには銀座6丁目と奥の方に汐留の高層ビル群が見えます。圧倒的な、とか、迫力の、という枕詞をつけられるようなパノラマではありませんが、いかにも東京に滞在していることを感じさせられて気分が高揚します。テーブルランプを明るくして、あるいは持ち込んだPCや書類を広げて…不思議と進捗が生まれる気がします。

ベッドルームからさらに奥に進むと、ウェットエリアがあり、その奥がこのようなウォークインクローゼットになっています。さらにエントランスまで続いていて回遊性が確保されているのも好ましい点。バスローブやスリッパは複数サイズが用意されています。なおバスローブはフード付きのちょっとかわいらしいデザイン。前はもっとふかふかだった印象ですが、少しだけ経年劣化してしまったのかもしれません。

バスルーム&ベイシン

続いてバスルームとベイシンのあたりも見てみましょう。

ベッドルームとウォークインクローゼットの間にベイシンがあります。スイートルームの場合はダブルシンクで使い勝手は良好。またミラーにはメイクアップランプがしっかり備え付けられています。タオルの数も必要十分あり、シンクの大きさも使いやすいものです。

バスルームは独立式。レインシャワーとハンドシャワーが用意されており、水圧も特に文句のないものです。ウェットエリアに関する基本的な設備面ではまったく不満はありません。最新の高級ホテルの最低限の要件を満たしていると思います。またこちらのバスルームは、バスタブ以外の壁も床もウッディというなかなか不思議な空間。ライフスタイルホテルらしい遊び心をここまで貫徹しているところは評価できるところと言えましょう。

トイレも独立式です。ちなみにバスルームの近くとエントランスの近くの2箇所あります。どちらのトイレも基本的には同じですが、扉を開くと、このようにかなり明るい黄色い壁になっていて見た目にもインパクトは大きいものです。

バスアメニティは開業当時からおなじみの「BeeKind」です。名前があらわすとおり、はちみつが配合されていて、レモングラスやカモミールなどのハーブ成分と一緒になっています。使用感は決して悪くありませんが、個人的に香りはさほど好きなものではありませんでした。上質感とか高級感というよりは、軽やかで印象に残らないような香りと言いましょうか。

カラフルな部屋に眠る

チェックインして、しばしロングデスクで銀座の町の屋根の並びや遠くの汐留を眺めたり、持ち込んだ仕事などを片付けていました。しかしこのホテルにいるのに、外に出歩かないというのは、コーヒー専門店に行ってジュースを飲む程度にもったいないことです。特にアテもないけれど、しばし夜の銀座の街を散歩してみることにしましょう。

6丁目からすずらん通りを通って晴海通りへ。数寄屋橋の交差点から4丁目の交差点の方を見渡すとネオンサイン。戦前の銀座の映像をみてもこの街にはネオンサインが煌めいていました。多くの流行歌にも歌われた「淡い夢の街」である銀座。その片鱗を感じるだけでも、薄寒い冬の夜に外を歩いた意味があるというものです。

ちなみに手前に見えている全面ガラス張りのエレガントなメゾンエルメス。もともとその前にはレトロモダンなソニービルが立っていましたが、それもいまはありません。しかしいずれまたここに新しいビルが立ち、メゾンエルメスも数寄屋橋の交差点から見えなくなってしまうことでしょう。そもそも私の立っているこの場所だって、もとを辿れば、地名の通り、橋の上だったのです。変わりゆく東京。変わりゆく銀座の町。しかしこの街に漂うこの特有の夢のようなムードだけは変わらないでほしいと強く願うものです。

ホテルに戻るとターンダウンが終わっていました。欲しかったミネラルウォーターも補充され、一部は冷蔵庫の中にあり、一部は常温にしてベッドサイドに置かれています。私が事前に伝えたわけではないのですが、ゲストの希望を先読みして対応するサービス力がこのホテルには育ってきているように感じました。

そうしたことを感じたのはパーソナルなサービスだけではありません。こちらのホテルは23時を過ぎるとルームサービスの提供を行わないことになっているのですが、無料で提供するアイテムのなかに、このようにカップヌードル(しかも糖質・脂質50%オフ!)が用意されていました。

夜中に突然小腹が空くことがありますが、ホテルの外に買いに行くのは億劫なものです。そういう怠惰さをカバーしてくれるのがルームサービスなのですが、こちらでは、そうした要望をおそらく柔軟に吸収したのだと思われます。そのひとつの形がこれなのでしょう。個人的には、あとは、お風呂上がりのアイスクリームがあれば完璧なのですが、これは実現困難な願いかもしれません。

リビングルームに置いてあるモダンなランプの灯りをつけると、紺碧の壁にコミカルな絵が浮かびます。窓から遠く近く見える東京の夜の姿。照明も多くて明るく、また全体にカラフルで賑やかな雰囲気のインテリアですが、これが逆に堅苦しさを排除してくれて落ち着けます。またひとりで滞在していても寂しさを感じさせない効果もあるのです。窓の外の多様な表情と、このカラフルな空間に囲まれて、華やかな夢をみることを願いながら眠りにつくことにしましょう。

朝食&夜明けの銀座の散策

さてせっかく銀座に滞在しているのだから、早起きをして、朝食の前に少しこの町の寝起きの姿を覗きにいきたいところです。

ホテルの前の通りには人通りがまばら。夜のお店の営業を終えてすっかり気怠い表情の人がときどき歩いているくらい。GINZA SIXの前を通って、象徴的な時計台のところまで歩きます。昼になればたくさんの人の波。それが嘘のようになぎいて、冷たく青い冬の朝日の銀座はとにかく静かです。私にとっては見慣れたこの街の普段とは違った表情を見ることができました。

朝食はこのホテルのオールデイダイニング「NAMIKI667」にて。ブッフェ形式で様々なものが並べられています。スタッフがコーヒーを注がないなど一部のサービスを省略されていますが、それでも内容は充実していると思います。

野菜の種類も豊富だし、ジュースも定番のオレンジやグレープフルーツに加えて、アセロラなどの変わり種もあります。またパンもペストリーを中心にしっかりとしたラインナップ。個人的に嬉しいのはワッフルに様々なフレーバーのはちみつ(私は緑色のモヒートハニーを選びました)やシロップなどが用意されていたことです。非常に楽しい気持ちになる朝食と言えましょう。

ついついここのホテルの朝食は食べ過ぎてしまう傾向にあります。それは洋食のみならず、和食のバリエーションが豊富であるためでしょう。ちなみにこのカレーは、いわゆるフォン・ド・ヴォーの効いた西洋風ではなく、鰹出汁が効いた和風のカレー。なんということはありませんが、銀座の「下町」としての部分を感じさせる味わいだと思いました。

チェックアウト

朝食を終えたら、ほどなくしてチェックアウト。この日はこのまま空港に向かいましたが、ホテルの前にタクシーが停車していたので非常にスムースでした。

非常に明るい雰囲気のこのホテル。下に見えるのは「NAMIKI 667 Bar & Lounge」です。私が行ったときにはちょうど「いちご」のスイーツ盛り合わせをやっていましたが、今回は時間の都合でパス。フィッシュフライやサラダが美味しく、さらに前にあったココットに入ったアップルパイをはじめ、スイーツ系のレベルも高いので、近いうちにまた訪れたいものです。

ハイアットセントリック銀座東京の「シティビュースイート」ですが、最初に想像していた以上に快適な滞在となりました。その理由は、もちろんカラフルで快適な客室の魅力もあるのですが、このホテルが開業当初よりも「育ってきた」という実感を得られたところにもあるように思います。

正直なところ、ホテルのグレードにポイントのカテゴリーやレートが合っていないのではないかと思った時期もありました。やや厳しい切り口からすると、プールやスパもなく、24時間のルームサービスもなく、セレクトサービスという面もあるのに、グランドハイアット東京と同じくらいのレートで出ているときには疑問を持たざるを得ません。しかし特にフロントのスタッフを中心に、非常にゲストの方向を向いている方が多く、気持ちの良い滞在ができるホテルになってきている実感も今回得ることができたのです。近く開業が予定されているマリオット系列の高級ブティックホテル「エディション東京銀座」はまさに「ハイアットセントリック銀座東京」と類似するコンセプト。そうしたなかで繰り出すこのホテルの展開もまた楽しみなところです。

 

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