翠嵐ラグジュアリーコレクション京都宿泊記・秋の迫る嵐山で温泉付きの客室でくつろぐ

京都市の西に位置する風光明媚な嵐山。夏に行ったときにはその温度と湿度の高さにすっかりまいってしまいましたが、秋口になると、桂川を駆け抜ける風が爽やかで気持ちの良い場所です。この地に開業以来ずっと気になっていて、宿泊したことがなかったのがマリオット系列の「ラグジュアリーコレクション」である翠嵐。

日本の伝統的な立派な門構えのエントランスを見るだけでも、旅情を誘うこのホテル。これまでカフェの「茶寮八翠」に行ったことはありましたが、ようやく先日滞在する機会を得ました。今回はそのときの様子についてリポートしてまいりましょう。

チェックイン

新幹線で京都駅について、普段だったらそのままホテルに向かってしまうところですが、今日は駅周辺でランチ。1時間半ほどのんびりと食事をしてから山陰本線の普通列車で嵯峨嵐山駅へ。少し京都駅で時間を調整したのは、午後2時半くらいに人力車を手配していたからなのでした。

そうこのホテルの面白さのひとつは、ホテルまでの交通手段として、人力車に乗れること。京都駅からホテルまでタクシー代を片道サービスという選択肢もありますが、せっかくなので、やはり秋風を感じられる人力車に乗りたい。

丁寧で陽気な感じの良い車夫。ゆっくりと駅前の賑わいを抜けたときに人の波はそれなりに多かったのですが、渡月橋を右手に進み、桂川沿いまでくると落ち着いた雰囲気。空も青くて、風も冷たく気持ちいい。そうこうするうちにあっというまに翠嵐のエントランスまでたどり着きます。

つまづかないように気をつけて人力車を降りて、伝統的な日本建築のカフェ「茶寮八翠」の横を抜けて、モダンな建物へ。ここでチェックインを行います。

てきぱきとした女性スタッフは、明るい声で、温泉露天風呂付きの客室を楽しまれてください、と部屋を案内してくれました。モダンな建物から再び庇が印象的な、伝統的な日本建築を思わせる通路。フロントレベルからそのまま客室へ…格子戸を開けると、オートロックのドアがあります。現代的と伝統的とがめまぐるしく交錯するのがまた面白い。

柚葉デラックスキング

さっそく客室に入ります。今回は柚葉(ゆずのは)という名前が付けられたデラックスルーム。

玄関を入ると、通常イメージされるようなホテルの雰囲気とは異なり、和洋折衷のフローリングと畳の組み合わされた空間が広がります。新鋭のラグジュアリーホテルのような刺激はないけれど、なんだかほっとするあたたかさを感じられます。ベッドもさほど高さがなく、また客室もあまり飾り立てられていないためか、全体に広々として見えました。

おなじみのネスプレッソ、そしてこのホテルらしい和風のティーセット。

玄関から入って左手にあるのがウェットエリア。さほど広さはないものの使い勝手は悪くありません。室内にバスタブは備え付けられていませんが、シャワーブースが用意されています。個人的にはまったく気になりませんが、室内でしかお風呂に入りたくないゲストはこの部屋タイプを選ばない方がいいだろうな、などと考えていました。

この客室の最も特筆すべき点はやはりこの客室露天風呂でしょう。山の稜線や自然の美しさで知られる嵐山で、このような心地の良いバスタイムを利用できるとしたら、それを楽しまない手はないでしょう。浴槽には十和田石と芳しい檜が使われているようです。石灯籠の置かれた小庭を眺め、また夜には月を眺めたりしながら、じつに気持ちのいい時間を過ごせます。

バスアメニティはバイレード(BYREDO)のもの。甘さが最初にきますが、あくまでも上品かつ爽やかに、香りはふわりと消えていきます。使用感も決して悪くありません。

翠嵐での嵐山ステイを満喫する

じつは京都に来る前日あたりに、また愁いの気分になったりしていたのです。そんなことを話していました。でもこんなに気持ちの良い場所にきて、好きな人と会話して、おおらかな自然に触れたりしていると、なんだかあたたかい気持ちになるものです。

琉球畳の上に、朱色のテーブルと黄金色の座椅子が、どこか牧歌的な素朴さを感じさせるリビング。すっかり気持ちがあたたかくなった私たちを照らし出すように、燭台をモチーフとしたフロアスタンドが柔らかな光を投げかけていました。少しだけ書類の整理をしてから…お茶でもしに行こうか。ここのところ、私はパートナーに敬語を使わなくなりました。それは、より親しくなったということ以上の、なにかやさしいものを感じたがゆえのように思います。

茶寮八翠でお茶とカクテルタイム

ホテルの中には、歴史的建造物を生かしたレストランとカフェがあるのですが、我々はとにかくなにか甘いものとお茶を頂きたいと思ったので、カフェの方に向かうことにしました。

茅葺き屋根が印象的なカフェは、茶寮八翠という名前が付けられています。伝統的な日本庭園を横に見て、エントランスまでの細道を歩いていると、俗世間的な面倒臭さからまったく隔てられてしまったような安らぎを感じます。京都の街に漂うムードにはどこか東京のような動的なものから切り離された余裕を感じますが、嵐山にあるこのホテルもまた、そのようなおおらかさを心に芽生えさせてくれる場所だと思いました。

お店に入ると、低めの天井に頭をぶつけそうになり、相変わらずそそかっしくて、あぶないあぶないと自笑。それを見ていた私のパートナーも、お店の人も心配しながら、もらい笑い。あまり堅苦しくないのもここの魅力だと私は思います。

この日は天気もよかったのでテラス席でお茶をすることにしました。

軽く生菓子に煎茶を。桂川を往来する小舟を眺めたり、気ままに散策する人たちの声を聞いたりしながら、ゆっくりと時間が流れていきます。

そういえば前にここに来たときは、夏の真っ盛りでした。付近の蕎麦屋で昼食をとって、汗だくになりながらこの店までたどり着いたのに、席はこのテラス席しか空いていなかったので、ふたりでバテそうになりながら、あんみつを食べながら水を飲み続けました。そのあとで室内の席が空いたので案内されたのですが、エアコンという文明の利器のありがたさを噛み締めたものです。

いまはもうすっかり涼しくなりました。

部屋に戻って、小一時間ほど過ごしてから、ここ茶寮八翠に戻ってきました。夕方からここではフリーフローのカクテルタイムを開催しているのです。六角形の容器にケークサレと豆菓子。淡麗な味わいの濁酒とシャンパンで乾杯。さっきは静かだったここもいまは少し賑わっています。

夜には近辺の料亭を予約していたので、さらっとここを去って、日の落ちかけた桂川沿いを歩いて店まで向かいました。

夜の嵐山を散策する

多すぎず少なすぎずの夕食を取って、店の外に出ると、すっかりあたりは暗く静かになっていました。

夜の嵐山は初めてでしたが、こんなに静かで、また夜の散歩がこんなに気持ち良いとは知りませんでした。

川の向こうにいくつかの旅館や料亭の灯り。そしてそれを映し出しながらよどみなく滔々と流れる桂川。青白い光に照らされた渡月橋を渡りながら、黒い影の山の上にのぼる秋の月を眺めると、神秘的な気分になってきます。ふたりで見とれていると、川のおもてを渡っていく冷たい風が吹き抜けていきました。

ホテルに戻ってきました。神秘的な夜の散歩を終えて、なんだかほっとしました。部屋に戻って、とろりとした泉質の温泉露天風呂に使ってみる星や月はまた外で見るのとは違った趣がありました。

京翠嵐での朝食

少し夜更かしをしたぶん、少し遅い目覚め。朝食はこのホテルが誇る明治時代の伝統的な建築を生かしたレストラン「京翠嵐」で頂きます。

事前に和食か朝食かと聞かれたのですが、今回は和食を選択。金の市松模様の盆に載せられて、色とりどりの小鉢とジュースが運ばれてきました。トマトジュース、オレンジジュース、キャロットジュース、野菜のミックスジュース…4種類が並んでいると、なんだかかわいらしいですね。

一品一品の質も高く、量も我々には適量でした。

少しの時間差で炊き立てのご飯と銀鱈の西京焼き、そして肉豆腐に温泉卵に味噌汁。普段はもっぱら洋朝食を好む私であっても、やはりこのような空間で頂く和朝食の誘惑には抗えません。

食事を終えたら、コーヒーを。日本庭園の見える窓側の席でしばしゆっくりしました。

散策をしてから人力車で出発

今回は京都でホテルをはしごするのですが、嵐山では特にすることがありません。そこでなんとなくふらりと散歩に出かけることにしました。

有名な竹林の道もいまはそれほど混み合っていません。少し急な坂をのぼりながら、すれ違う人にもなんとなく挨拶。清々しい朝の時間でした。しばらく進んで蓮の池のあるあたりまでたどり着いたら、行きにきた道とは別の道を通って、ホテルに戻りました。

昼過ぎくらいにチェックアウト。往路の人力車があまりにも快適だったので、帰り道も人力車をお願いしてしまいました。前から気になりつつ、滞在するとなると他の場所(主にハイアット)に行くことが多かった京都。しかし翠嵐の居心地の良さにすっかり魅了されてしまい、またしても、マリオット系列のホテルに対して「隣の芝生」状態になっている私でした。

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