羽田空港の国内線ターミナルに行くとなぜか無性にカレーを食べたい気がしてきます。そうして考えてみると、この空港にはカレーを出すお店が数多くあることに気づきます。
すべてをくまなく調べたわけではありませんが、国内線が発着する第1・第2ターミナルには2019年1月現在で116のカフェとレストランがあり、そのうちカレーを提供しているお店はざっと30店舗は超えています。つまり全体の4分の1以上ものお店がカレーを提供しているという計算になるのです。
赤いボウルがかわいらしい「カレースマイル」、出汁を効かせたカレーうどんの「Cuud」などの有名店がいくつもあるなかで、第1・第2のどちらのターミナルにもある「アビオン」のカレーは、そのルーツをはるか成田空港開業以前の旧・東京国際空港時代にまで遡ることができる、知られざる伝統の一品なのです。
幻の東京エアターミナルホテル
2010年に新・国際線ターミナルが完成してから著しい拡張を続け、現在ではこれまで専ら日本の世界への玄関口として確固たる地位を築いてきた成田空港を脅かすほどの重要性をます羽田空港。2019年現在、ここには「羽田エクセルホテル東急」と「ザ・ロイヤルパークホテル東京羽田」の2つのエアポートホテルがあります。
今回は「比較宿泊記」をお届けしたいと思います。
ご存知のように羽田空港の国際線ターミナルと国内線第2ターミナルには、それぞれエアポートホテルがあります。すなわち国際線には「ザ・ロイヤルパークホテル東京羽田」が、国内線には「羽田エクセル[…]
このうち「羽田エクセルホテル東急」は、2004年に営業を終了した「羽田東急ホテル」の後進にあたります。この「羽田東急ホテル」は1964年の8月に開業時から、ほぼそのままの姿を最後まで留めており、かつての空港の雰囲気を色濃く残した建物でもありました。
しかし羽田空港にはかつてもうひとつ幻のホテルがあったのです。時はまだ1978年の成田空港の開港以前、パンアメリカン航空やノースウエスト航空といった航空会社で賑わっていた時代のこと。羽田東急ホテルに先行する1963年に羽田空港の2代目ターミナルビルが増築を行いました。そのときにターミナルビルの3階に客室数わずか50室の「東京エアターミナルホテル」が開業しました。
当時のパンフレットには、「サウンドプルーフを備えた近代設備のホテル」という文言があります。また客室もアバンギャルドな真っ赤なインテリア。どこか未来的な趣のあるホテルだったようです。
客室の割にはバーとレストランの数が多く、バー・カクテルラウンジに加え、和食の「大和」と中華料理の「彩鳳」そしてフランス料理の「アビオン」という3店舗が営業していました。さて、ここで羽田空港の国内線第1ターミナルを頻繁に利用する方ならピンと来たかもしれません。現在同ターミナルには、同じような名前のレストランがあります。
わずか15年ほどで羽田空港は成田空港に国際線ターミナル機能が移行され、東京エアターミナルホテルも営業を終了することとなります。しかしこれらのレストランは、時代を超えてこの空港に蘇ることになりました(中華料理の「彩鳳」は2018年7月にオープンしたばかり!)。
アビオン伝統のビーフカレー
今回は羽田空港第2ターミナルの方の「カフェ&ビアレストラン アビオン」を訪ねてみました。かつてのフランス料理「アビオン」は本格的なコース料理などを出していたようですが、いまはどことなくファミリーレストランのようなカジュアルな雰囲気です。
場所はターミナル2階の北側。ちょうど羽田エクセルホテル東急のエントランスの少し手前あたりに位置しています。時間帯によっては混雑していることもありますが、私が行ったのは昼過ぎだったためか、かなりのんびりした雰囲気が漂っていました。
メニューをみてみると、ハンバーグやカツサンド、また「ビアレストラン」を名乗るだけあって、ソーセージやフレンチフライなどのおつまみもラインナップにあります。価格設定も手頃なものです。
さっそくビーフカレーを注文しましょう
注文するのは「クラッシックビーフカレー」(¥1,480)。
もはやお店にもかつてを知る人がいないのか、東京エアターミナルホテルについての言及は特にありませんが、「50年前に人気を博した」とだけ書かれています。
古式ゆかしいステンレス製のカレーポットに入れられて運ばれてきます。
カレーソース自体は極めて甘みが強調されたフルーティなもので、スパイスはかなり控えめに香り立ちます。刺激を求める人には向きませんが、優しい味わいともいえます(ただし個人的には塩気が足りないと思いました)。
また特筆すべきはごろごろとたくさん入っている牛肉でしょう。カレーを食べているというより、カレー味のビーフステーキを食べているといいたくなるほど、牛肉がふんだんに使われています。またしっかりと煮込まれているためか、ひとくち頬張るだけでとろりと溶けていってしまいます。
洗練されているわけでもないし、奇をてらっているわけでもない。羽田空港に少し早く着いてしまったら、オーソドックスながらも優しく懐かしい味わいのカレーを食べながら、かつての空の旅を思い起こしてみるのもよいものだと思います。