名古屋マリオットアソシア宿泊記2021・駅直結の高層ホテル、1年後にみた景色

去年の今頃も私はここに立っていました。去年はたしか七夕飾りがあったので正確にはまったく同じ時期とはいえないものの、ひっきりなしに人々が出入りするこの大きなロビーはなんともいえない安心感があるものです。駅直結のグランドホテル、名古屋マリオットアソシア。開業から20年を迎えて、この街を代表する高級ホテルのひとつとしての存在感をさらに強く感じさせるように思えてきます。今日はここにチェックインします。

豊橋に出張があり、せっかくだから名古屋に泊まろう。そういうわけでパートナーが一緒についてきてくれたのでした。彼女にとってははじめての名古屋での滞在。私にとっては…もう何回目か忘れてしまいました。

その日も蒸し暑い日でした。ここのところ忙しくなり、以前ほど頻繁に会えなくなった私たち。東京駅で待ち合わせ、というのもなんだか久しぶりのような気がしてきます。雑踏を抜けて、駅弁(というにはおしゃれな弁当)を買って、新幹線に乗り込みます。飛んでいくように過ぎ去っていく景色。彼女はいつも窓側の席を私に譲ってくれます。そういうところ、なんとなく好きだな、といつも思います。

東京から名古屋まではあっという間。いや、実際には、東海道線の普通列車で旅をすると、新幹線の速さが際立つほどのなかなかに長い距離を感じさせられるのですが、快適な座席に座りながら、好きなものを食べて、車内という制約とは裏腹に思い思いにくつろいでいると、やはりあっという間です。名古屋駅に到着。同じ日本の大都市ながら東京とは少し雰囲気が違う気がします。それはもしかしたらロマン的な妄想なのかもしれませんが、錯覚だったとしても、そういう細かな違いを見つけたり、感じたり、想像を膨らませたりできたほうが旅はより楽しいのではないか、と思うのです。

チェックインを済ませて部屋へ。数年前までのイメージではもっと欧風クラシカルな雰囲気を持っていた気がしましたが、いまはモダンですっきりとした印象の部屋。真っ白なシーツのシンプルなベッドや全体に寒色系のインテリアが空中を連想させます。窓の外はやや雲がかりの空でした。

初代の0系や2階建て車のついた車両と入れ替わりで、現在のような高速運転に最適化された車両が主流となる転換点となる20世紀の終わり頃。このホテルが開業したのもまさに2000年でした。いまも当時も鉄道での旅が好きな私は、変わっていく日本の鉄道に対する惜別感と期待感の混ざった気持ちと共に名古屋駅にできた新しい巨大な駅ビルを眺めていたのでした。

それから21年。そのとき一緒に旅した人はもうこの世にいないし、名古屋の駅前もすっかり変貌を遂げました。10年でひとつの世代、とするならば、ふたつの世代を隔てた名古屋のいま。もし10年後にここを訪ねたときに、どんなことを思うのでしょう。

もう時間だ。慌ただしくホテルをあとにして、至近の名鉄名古屋駅に向かいます。ターミナル駅なのに3面2線の狭い駅。そこにひっきりなしに長さも種別もさまざまな列車が往来する様子はなかなか楽しいものです。特徴的な甲高い声の「足元にご注意ください」のアナウンスと共に豊橋行きの特急に乗り込みました。

ひと仕事終えて、同じ列車でこんどは名古屋まで戻ります。岡崎、安城、知立…知らない街をいくつも超えて、夏らしくまだ明るい夕方を赤い列車は走ります。パートナーとどんな話をしよう。今日の夜ごはんはどうしよう。仕事のことはほとんど忘れて私的なことをあれこれ考えながらホテルに戻る途中、近くにいた学校帰りの高校生たちは楽しそうにずっと笑っていました。なんだか平和な光景。新幹線も好きだけど、なんだかこういう日常性の真ん中にある鉄道に乗りながら、あれこれと考えをめぐらせている時間がやはり好き。

懐かしい気持ちと、夏の夕暮れの雰囲気が重なるのはなぜか。それはたぶん明るい時間帯の楽しさを惜しみながら、それがなくなっていく悲しさに重なっているからなのではないだろうか。そんなことを考えながら夕食をして、ホテルに戻りました。堅いことを考えながら、なんとなくスターバックスのご当地フラペチーノが飲みたくなって、部屋に戻る途中で、つい飲んでしまいました。この光景も数年後に振り返ると懐かしく思えるのかもしれません。

ふらりと夜風に当たりたくなって、エレベーターを乗り継いで、桜通口の外へ。大した距離を歩いたわけではないけれど、大名古屋ビルヂングの方まで。以前の高度経済成長っぽい雰囲気のビルも好きだったけど、発展した駅前のいまの雰囲気も決して悪くないと思います。ミッドランドスクエアまで歩いてみると、ブランドショップが翌日の開店準備をしていました。そこから見上げれば高くそびえる名古屋マリオットアソシア。蒸し暑くなってきました。

外とは対照的にきりっとエアコンの効いたロビー。噴水が遠くに流れ、大理石調の絢爛な雰囲気のここは、欧風でありながら、どこか東南アジアのコロニアルなホテルのような雰囲気もあって、ことに夜の静かな時間になるとその空想はより広がるような気がしてきます。この非日常感こそホテルの醍醐味なのだと思わされる空間。ライフスタイルホテルの隆盛とか、コンテンポラリーに振り切ったホテルが登場するとか、色々と時代ごとのトレンドはあるものの、この醸し出される空気感の本質は変わることなく、私たちを異世界へといざなってくれるのでしょう。

シャワーブースもあるけれど、バスタブにお湯を貯めて、ゆっくり1日の疲れを取る。今から見ると少し古めかしさを感じさせられるバスルーム。THAANの爽やかでちょっとスパイシーな香りのバスアメニティも心地よい。お風呂の前にパートナーと一緒にテレビを見ていました。先日も思ったのですが、旅先でゆっくりふたりでテレビを見るリラックスした時間が最近なんだか気に入っています。

バスタイムを終えて、パートナーが寝付いたあとで、ちょっとだけ部屋からの夜景を眺めていました。もう新幹線の最終は出たあと、在来線もおそらく終電近くなのでしょうか、地上150m以上のここにもなんとなく気怠い雰囲気を伝えながら名古屋駅のプラットホームに列車が入ってきました。客が乗り込む様子は見えなかったけれど、かたかたとごく小さなレールの響きがここまで聞こえていました。私もそろそろ寝ることにしましょう。

そういえば去年の今頃もこの位置から名古屋マリオットアソシアを眺めていたっけ。朝食を済ませて、帰りの新幹線までしばらく時間がある我々は、駅周辺をふらっと散策して、土産物などを購入していました。今日も名古屋はすっきりとした夏の空。そびえるホテルの威容もまぶしく、今回の短い滞在の余韻に浸ります。しかし今日はあまりにも暑い。余韻タイムは短めにして、どこかの喫茶店でソフトクリームを乗せたコーヒーゼリーでも頂くことにしましょう。

本格的な夏は始まったばかり。ホテルのチェックアウトを済ませて、何もせずともじわりと汗をかくほどに暑いプラットホームで、東京行きの新幹線を待ちながら、それを嫌というほど感じました。でも、本格的な夏が訪れると、秋の気配を青空に感じるような気もする。そんなわけでこの暑さもまた魅力として味わえたらいいな、と、冷たいミネラルウォーターをエアコンの効いた新幹線の車内で飲みながら、しみじみと感じていたのでした。

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