リッツカールトン大阪・スカイビューデラックスルーム宿泊記

ホテルに何を求めるのか、ということは、ホテルのリポートをしながらいつも突き当たる問いなのですが、私にとってのひとつの答えは、なにかしらの課題を超えたときのひとときの心地よいひととき。そしてそのためにあえて仕事での滞在先に高級ホテルを選択するというのは、極めて合理的なことと思うのです。今回リポートする「ザ・リッツ・カールトン大阪」はそういう目的での滞在について、こちらの期待以上のものをもたらしてくれるホテルだと言えましょう。

大阪は日本を代表する大都市のひとつですが、2020年2月現在だと、最高級ホテルとして数えられるものはそれほど多くありません。前回滞在した「インターコンチネンタル大阪」もそうした中のひとつに数えられると思われますが、今回はリッツカールトン大阪を選びました。1997年の開業以来、大阪を代表する最高級ホテルとして君臨しており、2017年には開業20周年を迎えて全ての客室のリニューアルを終えました。私はリニューアル前に何度か滞在していて、そのときの良い印象を持ちながらも、ここのところは足が遠のいていました。大阪での仕事がちょうど重なったこともあり、今回は久々にこちらに滞在することにしました。

チェックイン

最近は飛行機ではなく鉄道でいくことが多い大阪。新大阪からタクシーでホテルまで向かいます。およそ15分くらいで到着しました。これみよがしに大きな通り沿いにエントランスがあるのではなく、むしろ少し奥まったところにひっそりとエントランスがあるのが特徴です。

黒と茶色がなんともいえないクラシカルな高級感を醸し出すエントランス。自動ドアをあえて設置せずにドアマンによる手動の開閉にこだわっています。ここからすでに「リッツカールトン」の世界観がはじまっています。このような空間演出の巧みさは相変わらず素晴らしいと思います。またスタッフの感じもよく、荷物をもってスムーズにチェックインに進みます。

マホガニーやノッティパインの壁面に大理石の床、そしてクリスタルシャンデリア。ジョージアンスタイルの非常に重厚感のあるクラシカルなインテリアコードは、高級ホテルを含む大阪の様々なホテルの中でも一線を画すものです。また敢えてひとつひとつの空間を広く取らずに、屋敷の中にいるような落ち着きを演出しています。日本で同じような雰囲気を感じるのは、東京の恵比寿にある「ウェスティン」ですが、こちらはより「邸宅」の趣を強くもつような気がします。モダンで快適な新しいホテルも素晴らしいのですが、20年を経過してもなお飽きのこない素敵なデザインだと思わされます。

チェックインはカウンターにて。スタッフの対応は特筆すべきことはありませんでしたが、高級ホテルとしては及第点と言えるものでした。

スカイビューデラックスルーム

ベルスタッフにエスコートしてもらって客室まで向かいます。今回はスカイビューデラックスルーム。高層階かつ角部屋になっており、2つの方向の眺望が楽しめる部屋となっています。

以前にも同じタイプの客室に滞在したことがありましたが、そのときの印象を基本的には変えず、しかしやや現代的にうまくリニューアルされた客室。このコーナーウインドウに置かれたデスクは非常によいものです。機能性にも優れており、なおかつ眺望も素敵です。

個人的にはモダンなインテリアのホテルを好む傾向にありますが、このようなコンサバティブかつ上品なインテリアは素晴らしいと思います。窓の向こうにはこのホテルとは対照的なモダン・スタイリッシュな雰囲気をもつコンラッド大阪が見えました。機会があればあちらにも滞在したいものです。

今回はツインタイプの客室でした。ハイアット系列に慣れているとベッドの高さが際立ちます。客室全体のインテリアコードとも相まっていかにも高級ホテルという感じがしますが、寝心地は個人的に期待したほどではありませんでした。もちろん特に不満のあるものではなかったのですが、マリオット系列のホテルには寝心地の良いベッドがあるという勝手なイメージを個人的に持っており、期待が異様に高かったせいかもしれません。

客室設備の色使いや調度品による空間演出はとにかく見事なものだと思います。たとえばこのベッドサイドランプひとつを取っても、客室全体の雰囲気と見事に合っているように思いました。ただしここまで世界観を徹底するならば、電話機ももう少し工夫があってもいいのではないかとも思いました(非常に細かいところなので、気にならないといえば気になりませんが)。

バスルームは大理石が用いられた「白」が非常に映える空間。このあたりも高級感があり、非常に好ましいものです。ダブルシンクのベイシンも嬉しいところですが、設備としてはバスルームが分離しておらず、シャワーブースはあるものの、今からみるとやや前時代的です。同じレベルの大阪の高級ホテルが独立式のバスルームを備えていることを考えると、このあたりは好き嫌いが分かれるところかもしれません。また写真にはありませんが、ドライヤーについても高級ホテルにしてはやや弱いものです。

前述のとおり、シャワーブースもこのように設置されています。しかしレインシャワーはなく、またハンドシャワーもないため、「痒い所に手が届かない」という印象を持ちます。バスルームまわりに関しては、手がつけにくいという事情があるのでしょうが、どうしても他の高級ホテルからは劣ります。しかし逆に言えば、バスルーム以外の場所になんともいえない魅力のあるホテルと考えることもできます。

ホテルでくつろぐ

バスアメニティはおなじみの「Asprey」です。

怒涛のように忙しい毎日だったのですが、この上品な香りをシャワーで流す時にとても優雅な気分になってきて、リフレッシュできます。洗い上がりの質感などは特筆すべきことはないのですが、とにかくリッツカールトンというホテルの体験には欠かせないものです。

ターンダウンされたベッドにはチョコレートとミネラルウォーター。アイスボックスにはしっかり氷も補充されています。大阪の夜景をみつめながら、氷で冷やしたミネラルウォーターで火照った体のバランスを整えていきます。このインテリアであれば、ハイドンの交響曲のひとつでもかけながら、眠気が訪れるまでのしばしのあいだ、ゆったりと静かな時間を過ごすのも悪くないものです。

電気を消してもカーテンはあえて開けておくと、夜中でも賑やかな大阪の光が遠くに見えます。この優雅な体験こそがこのホテルの魅力。もちろん夜景は他のホテルからでも見えますが、リッツカールトンという世界観の中でこの景色を見ることこそが、ひとつの悦びなのだと思わずにはいられません。

朝のプールとスプレンディードのブレックファスト

翌朝早く目が覚めたら、階下にあるプールにいきましょう。シャワーを浴びて、外の寒さと対照的に暖かい温水のプールで体を動かします。夜にムードの高まるプールは世の中に数多くありますが、リッツカールトン大阪のものは朝のこの雰囲気がなんともたまりません。

なお私はマリオットはゴールド会員なのですが、この会員レベルでは水着の貸し出しは有料でした。またゴーグルの貸し出しもないとのことだったので必要であれば持っていく必要があります。

プールから上がったら再びシャワーを浴びて、すっきりとした気持ちで朝食に向かいましょう。

重厚な雰囲気のあるこのホテルの中では比較的軽やかな趣のあるイタリア料理「スプレンディード」でブッフェ形式の朝食をとることができます。この日はさほど混雑していなかったこともあって、落ち着いて食事をとることができたことも好印象でした。またスタッフの対応もにこやかで非常に心地がよいものでした。

プール・フィットネス・スパ施設にしても、レストランにしても、このホテルにスタッフは非常に対応が柔らかくて感じが良いという印象です。私が親しんでいるハイアット・タッチの心地よさとはまた違った印象の感じの良さです。これはホテルのもつ色合いなのでしょうか。

朝食のバリエーションは和洋中を網羅していて、種類はそれなりに豊富です。またこのレストランのスペシャリティとしてエッグステーションが設けられていて、鉄板で卵料理を作ってくれます。私が滞在したときには「トリュフ・オムレツ」が提供されていたので頂いてみました。

ときどき同じくトリュフ・オムレツを謳っていても、実際のところ香り高さを感じない名前負けのものがありますが、ここのものは非常にトリュフの香りがしっかりでており、しかも卵の柔らかな味わいも損なっていない非常に美味しいものでした。

オレンジジュースやコーヒーにデニッシュ。朝食の定番のひとつひとつがしっかりとした品質のものが取り揃えられており、満足度は非常に高いものです。

チェックアウト

良いホテルというのはえてしてそうなのですが、チェックアウトをしたときにある種の余韻が残ります。それはある種のホテルでしか得られない体験をすることで、そのホテルの持つストーリーを生きたような感覚に似ています。そして今回のリッツカールトン大阪もそのような個性的な体験を提供できる能力をいまでも十分にもった素敵なホテルであると改めて感じました。もちろん世界には本当の意味でのクラシカルなホテルというのは数多くあると思います。しかしこの大阪という大都市の、それも高層ビルの中にこのような空間があるということに、ひとつの大きな意味があると思うのです。

日本のあらゆる都市がそうであるように、近年では新しいホテルが続々と開業していて、これまでの高級ホテルの概念を覆すような体験を生み出しています。それでは既存のホテルはただその価値が薄らいでしまうのかと思いきや、リッツカールトン大阪に滞在すると、必ずしもそうではないのだと思わされます。確かに客室については、バスルームまわりを中心に陳腐化している面も否めません。しかしホテルの支えるスタッフの方の対応も安定感があり、またこのホテルのもつ独特の重厚(濃厚?)な存在感は新しいホテルができた今でも色あせることはありません。むしろ新しいホテルができても、リッツカールトンはリッツカールトンだから、という強さのようなものさえ感じるのです。

私の中でも、やはり、リッツカールトン大阪はこの地の高級ホテルのイメージをいまも牽引する役割を担っている地位にあると思いました。またこの重厚な雰囲気に出会いに訪れたいと思いながら、このホテルを後にしました。

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