東京の恵比寿に1994年にオープンしたスターウッド系の高級ホテル、ウェスティンホテル東京。かつてのビール工場跡地の再開発で登場した「恵比寿ガーデンプレイス」の一角をなしており、ハイソな雰囲気のなかに佇んでいます。ウェスティンホテル 東京は、同時代に登場した「フォーシーズンズホテル椿山荘東京」(現・ホテル椿山荘東京)と「パークハイアット東京」と並んで「東京の外資系ホテル御三家」としてもてはやされました。今年で開業から25周年を迎えるこのホテルの「いま」に触れてきました。
ホテルに到着
恵比寿ガーデンプレイスの最も奥に位置するこのホテル。居酒屋などが立ち並ぶ庶民的な街並みから煌びやかなイルミネーションが印象的な、整然とした恵比寿ガーデンプレイスへと歩いていくのもいいですが、自動車で乗りつけてバレーパーキングサービスを利用することもできます(¥1,500〜)。
石畳で広めに取られたエントランス部分が伝統的なグランドホテルの雰囲気を感じさせます。
エントランス入り口にはこのように馬車が置いてあります。これは上部を取り外すことで儀式などにも使えるようになる「ランドー馬車」といわれるものです。こちらではウェディングに主に使われており、トランペットによるファンファーレとともに、漆黒のフリージアンホースが牽引してパレードを行うとのことです。
エントランスを入ると、黒い大理石の床にマホガニーウッド、パルテノンスタイルの柱などかなり重厚なインテリア。この記事の冒頭では正月向けの飾りがなされていましたが、通常はこのようなフラワーアレンジメントが設置されていて、まさに華やかさにアクセントを加えています。
毛足の長い絨毯にグランドピアノ…ここまでわかりやすく「高級」を打ち出しているホテルも逆に珍しいかもしれません。ややマニアックな話をすれば、このようなスタイルは帝政様式(アンピール様式)といわれるもので、19世紀初頭のナポレオン帝政期のフランスで流行したものです。
ナポレオンが好んだ「壮大さと格調高さ」というこの様式のモティーフは、時代を下ってもしばしば流行したスタイルであり、20世紀初頭や1980年代の建築様式にも積極的に取り入れられたものです。ウェスティンホテル東京が開業した当時、このロビーに来て「ニューヨークの名門ホテルの洗練」を感じたという人がいたという話を聞いたことがあります。それもそのはずで、19世紀末から20世紀初頭に完成したニューヨークの高級ホテル(プラザ・ウォルドーフアストリアなど)にもこのアンピール様式が取り入れられているのです。
なおフランスからイギリスにこのアンピール様式を持ち込んだ重要人物の名前は「シェラトン」といいます。その彼が推進したのが「リージェンシー様式」。もちろん現在のホテルチェーンとは一切のつながりをもたない人物ではありますが、名前だけみると、なんだか因縁めいたものを感じますね。
評価: 4今回のチェックインはアメックスプラチナの特典でSPGゴールド特典を得ていたこともあり、なかなかスムーズでした。ただし客室のアップグレードは角部屋にアサインされた以外には特になく、さほどメリットを感じませんでした。またチェックインを担当してくれたスタッフに笑顔がなかった点はやや不満が残りました。
客室紹介:トラディショナルキング
今回アサインされた客室は「トラディショナルキング」と呼ばれるカテゴリーの角部屋。通常客室であるものの、広さも十分にあり客室全体の質感も高いものです。
客室のインテリアは全体的に白系です。同じ「外資系ホテル御三家」でいえば、「椿山荘」にもどことなく雰囲気が似ています。こちらのワーキングデスクは窓に面していて、外の景色を眺めながら作業できるようになっています。使い勝手も決して悪くありません。
客室の奥の方にはベッド。ここまで重厚感のあるベッドは東京に数あるホテルでもなかなか見ることができません。ウェスティンホテルの特徴である「ヘブンリーベッド」といわれるものです。その実力やいかにと思っていましたが、マットレスはほどよくホールド感があり、また枕の硬さも適切に沈み込むようになっており、とても気持ちが良いものでした。
個人的な印象ではスターウッド系列の高級ホテルのベッドはレベルが高いと思います。昨年に宿泊したW台北もとても快適だったことを思い出しました。
バスルームもみてみましょう
以前はオレンジ色のタイルが設置されていましたが、最近このような黒い大理石調のタイルにリニューアルされたようです。なおバスタブとトイレは独立式とはなっておらず、同じ部屋にあります。しかしシャワーブースは独立しています。なおベイシンはシングルシンクです。
2000年代になると、独立式のバスルームやトイレが導入される例もちらほら見られるようになってきますが、このホテルが出来た当時はまだありませんでした。それでも、このようなゆとりある配置と質感の高さは驚きをもって迎えられたようです。
アメニティはどのようになっているのでしょうか
アメニティ一式を並べてみました。ホテルに必要なものは一通り揃っていると思います。バスアメニティや石鹸はウェスティンで同じもの「ホワイトティー」です。上品かつ華やかなとても良い香りだと思います。また香りといえば、ベッドサイドには「Sleep Well ラベンダーバーム」が置かれています。これをこめかみや首筋に塗ることでほのかにラベンダーが香り、心地よい眠りを誘うというものです。
こちらのホテルはかなり「眠り」にこだわっているという印象を持ちますし、実際に個人的には快適な睡眠を取ることができました。
評価: 2.0かなり上質な空間のホテルですが、今回の滞在はスタッフの対応には不満が残るものとなりました。「ターンダウン」を知らない客室係、電話の応対で「はっ?」と聞き返すコールスタッフ、そして朝食時のレストランで部下を叱るマネージャー、など。ゲストの視点からみたらどのように見えるか、という意識に欠ける方が複数人いたことであまりよい印象を持てませんでした。
ウェスティンホテル東京は、世界各地にあるウェスティンの中でも「特殊」なホテルだと言われています。それは日本各地のウェスティンと比べてみても明らかだと思います。なにしろ天下に冠たる「パークハイアット」と「フォーシーズンズ」に並べられて「外資系御三家」と呼び慣わされてきたのですから。
「ウェスティン」は「シェラトン」の上位ブランドではあります。そして実際にそれなりに質の高いホテルも多いのですが、少なくとも最高級とまではいかないものです。同じスターウッドで比べるならば、大阪には最上位の「セントレジス」があり、このレベルではじめて「フォーシーズンズ」などと肩を並べる格式というのが一般的です。しかし「ウェスティンホテル東京」は、東京の外資系ホテルの隆盛に先鞭をつけました。そして上質かつ他にはない重厚感を持った個性的なホテルでもあります。そのあたりが「特殊」と言われる所以なのでしょう。
しかし「外資系御三家」はその後、リッツカールトン東京・マンダリンオリエンタル東京・ペニンシュラ東京という超高級ホテルで構成される「新・外資系御三家」の登場で、ややその存在感が薄くなりました。個人的にパークハイアット東京だけは、この新参なホテルに対抗できる十分な実力を備えていると思います。しかしウェスティンホテル東京は、残念ながらそれらの水準には達していないと思います。それを裏付けるように、最近では割安なレートもよくみられます。
このホテルがアッパーミドルクラスに転落したのか、それとも東京のホテル全体のレベルが高くなってきたのか、あるいはその両方か。いずれにしても今後はさらに厳しい競争を強いられることになりそうです。そうしたときにこのホテルのもつ「個性」だけで生き伸びていけるのかは疑問です。最終的にはスタッフの質がその生存競争を支えるのだと思います。
先日ホテルオークラ東京(こちらは帝国・ニューオータニと並んで「元祖・御三家」といわれる)に宿泊してみて、私のようなモダニズム建築好きや極度のホテル好きはともかくとしても、一般的にみたらどのようなホテルとしてみられるのだろうということを考えました。少なくとも「和」を前面に打ち出した空間の美しさは目に入るものの、客室などは標準的で、やや古めかしくさえあります。しかしこのホテルは今後とも大丈夫だと思いました。どのスタッフも気持ち良いほどの笑顔で、また引き締めるところはしっかり引き締めており、またきっとここに足を運びたいと思わせてくれたからです。
ウェスティンホテル東京もあと10年経った時にどうなっていくのか。その未来を決めるのは、やはり「人」なのではないかと思います。