【パークハイアット東京宿泊記2021】雨の都心の花見、ディプロマットスイートにて

今年も春が巡ってきました。去年の今頃はどうしていただろう?そんな内省的な問いを振り払うように家を出て、今日も彼女を車で迎えに行きます。春の嵐の首都高速を駆け抜けていくとパートナーの自宅に。雨を避けるように足早に車に駆け込んできた彼女はカジュアルな装い。珍しくナビゲーションに目的地を入れて、降り頻る雨の中で窓についた水滴は後ろに流れていきます。

某国大使館の近くにあるマンションの前で車を停めると、パートナーの友人がさっと後ろの席に乗りました。今日はこのまま3人で西新宿へ。我々の大好きなパークハイアット東京へ。今回は事前に少し広めの部屋と弁当とケーキを手配しておいたのです。降り止まない雨と強い風の中、外ではなく部屋のなかで花をみない花見をしよう…せっかくだったらパークハイアットのディプロマットスイートで。今日はそのときの滞在についてリポートしてまいりましょう。

チェックインは事前に済ませておいたのですが、部屋の準備がまだ整っていないとのことで、ウェイティングルームを用意してもらって待機。しばし3人で談笑していたら電話が鳴って、部屋の準備が整ったとのこと。スタッフにエスコートされながら高層階に向かいます。観音開きの扉を開くと大きな空間。残念ながら外の景色は見えないものの、雨雲の中に存在している部屋のようで、それはそれで神秘的な雰囲気を感じるリビングルームでした。

我々はしばらくこの広い部屋を眺めて回りました。部屋の奥にいけばベッドルーム。セミダブルサイズのベッドをくっつけて、ひとつの大きなキングベッドを整えてもらいました。ジョン・モーフォードのデザインセンスが光る真っ黒な本棚と淡い緑色のインテリアコード。高度に洗練されていながらも、なんとも言えない落ち着ける雰囲気の共存は、他の客室にも共通しています。しかしディプロマットスイートにはより空間的な余裕があります。

ベッドルームの奥には開放的なビューバスタイプのウェットエリアがあり、数段の階段に隔たれたふたつのベイシンやボディシャワー付きのシャワールームなで備え付けられています。以前このホテルのプレジデンシャルスイートに滞在したこともありましたが、バスタブからの眺望という意味では、決してディプロマットスイートも引け目を取らないと個人的には思います。なおアメニティはお馴染みのAesop。スタンダードルームよりも少し大きなものが用意されています。

再びリビングルーム。グランドピアノの置いてあるホテルの客室というのはかなり個性的ですが、本棚に並ぶ洋書の数々と相まって、とても知的な雰囲気のする空間です。やや雲の薄くなったときに僅かな陽の光が差して真っ白になった窓。そこに映える植物の緑。このどこか浮世離れした雰囲気こそがパークハイアット東京らしさだと改めて思います。

さて、そろそろ、このリビングルームのダイニングテーブルに移ることにしましょう。

今回は事前に予約して、このホテルの和食ダイニング「梢」の手毬寿司入りの弁当を用意しておいたのでした。スタッフにお願いして、ダイニングテーブルに食器と一緒にセットしてもらいました。分量もちょうどよく、色とりどりで、春の味覚をふんだんに取り入れている。今日は少しシャンパンも飲むことにしましょう。

音こそ聞こえないけれど確かに外は雨が振り続けている。この部屋でパートナーと彼女の友人の3人でゆっくり語り合う午後も愉しいものです。

お弁当を頂いたら、せっかくなのでデザートも。春らしく「サクラ・サントノーレ」をペストリーブティックにお願いしておきました。昨年の12月に着任したペストリーシェフのジュリアン・ペンネ氏によるこの季節ならではの華やかさを感じさせる新作。チェリークリームやラズベリージャムの爽やかな甘さ、バニラシャンティーのふわりとした甘さ。そしてもちろんさくっとした生地の食感。

これまでのことや、これからのこと、色々な話題を交わしながら、コーヒーとサントノーレを味わいました。

パートナーの友人が帰ったのは夕方の16時半を過ぎていました。しばらく部屋でくつろいでいたのですが、昼食とデザートでまだ程よくお腹はいっぱい。もしある程度空腹であれば夕食の営業を再開した「梢」でなにか食べようか、と話していたのですが、結局、ニューヨークグリルに。いつものフィンガーフードが運ばれてきたら、コスモポリタンとダイキリで乾杯。前に来たときよりもさらに人が多くいたように思います。徐々にかつての賑わいを取り戻していくのでしょうか…?

ふたりきりになって、ふたりきりの話をしていたら、あっという間に時間は流れてもう20:00。ひとり、また、ひとりとゲストが帰っていき、人もまばらになっていました。以前であれば、このくらいの時間帯がジャズライブのゴールデンタイムとでもいうべき盛り上がりだったのですが、いまはまだ静か。我々もそろそろ席を立って部屋に戻ることにしましょう。外の雨風は止んでいました。

ベッドルームの窓の向こうには雨上がりの夜空。ルーバーの向こう側から溢れる都市の灯り。華やかでありながらも、どこか静かな感じがしました。そこかしこで点滅する赤い光が綺麗。食事から帰ってきて、部屋でパートナーと無言で景色を眺めたり、思い思いにソファに座って自分のことをしているひとときが私は好きです。静けさがなんだか落ち着くのです。

小1時間くらいゆっくりしていたでしょうか。そろそろバスタイム。部屋の灯りを少し落としてバスタブから東京の街並みを眺めます。複数あるボディーシャワーで一気に洗い流すAesopの香り。分厚いタオル。

「今日はいつになく長風呂だったね」

パートナーは私に言いました。パークハイアットのバスタイムは時間を忘れるような没入感があるように思いますが、ディプロマットスイートは特にそれが強いように感じました。

暖かい色合いの照明。リビングルームに至る少々重たい扉を閉めて、そろそろ寝ることにしましょう。冬に泊まるときと異なってリネンが少し暑く感じるようになってきたことにも春の訪れを感じさせられます。

目が覚めると少し霞んだような春の朝日。私は二度寝。パートナーも今日は少し早く目が覚めていたようです。柔らかな日差しが降り注ぐ朝の新宿駅南口を眺めながら身支度を整えます。今朝は正月以来のジランドールで朝食を取ることにしましょう。

部屋にルームサービスもいいけれど、やはりジランドールのちょっとぴりっとした雰囲気の朝食もいいものだね。そんな会話をどちらからともなく交わしながら、すっかりお馴染みのメニューとなっているエッグベネディクトにフレンチトーストを頂きます。フレッシュフルーツやフレンチプレスコーヒーもお願いして、ゆっくり時間をかけて朝食を取ることが多いように思います。

このゆったりとした時間はやはり彼女と一緒のときならではと改めて感じます。この穏やかな時間が続いてくれることを願わずにはいられません。

朝食後にしばらく新宿中央公園を散歩。ずっと進むと「茶色」ことハイアットリージェンシー東京のあたりまで行き当たります。公園を彩る花が開き、色々な人たちが散策していました。子どもたちも走り回る平和な春の日。満開とまではいかないまでも、桜の木もいよいよその淡い色の花を咲かせていました。思い悩んだりした日々もありましたし、これからもあるでしょうけれども、いまはひととき、このあたたかな時間を。彼女と手を取りながら、公園を巡って、ホテルに戻りました。

それなりに朝食も食べたはずですが、なんだかまたお腹が空いてきました。

デリカテッセンでなにかをテイクアウトしてもよかったのですが、せっかくだからと梢に行くことにしました。ホテルの西側には高層ビルがあまりなく、ずっと東京西部から多摩方面が広く見渡せます。私は天丼を、パートナーはそばを。まだ祖父が存命だった頃にここにときどきふたりで昼食に来たことを思い出しました…昼食での利用はおそらくそのとき以来数年ぶりのことです。あのときも私は天丼、祖父はそばをよく注文していました。

天に近いこのホテルからふと問いかけてみたくなります。果たして祖父は我々の姿が見えているのだろうか、と。きっとうらやましく思っているよ?そんなことを冗談めかして言ってみると、彼女はにこにこ笑っていました。

あるひとつの時代を超えて好きなホテル。しばしば感じるのですが、そういう好きでよく足を運ぶホテルにこれからどのような思い出を紡いでいくのでしょうか。そんなことを想像するだけでもなんだかいとしい気持ちになるものです。

今日はいつもよりはちょっと早めにチェックアウトしますが、部屋に戻ってしばらく休憩。霞んだ空から光が差し、昨日とはまた異なる表情のディプロマットスイート。また戻ってこよう。素晴らしいホテルステイのあとはいつも決まってそのような想いで部屋をあとにします。もちろん今日も。

次の滞在を予約してからチェックアウト。ライブラリーの絵も春のものに。今度晴れたら広い公園にお花見でも行こう!パートナーの明るい笑顔の提案。深く頷きながら、ラグジュアリーホテルの滞在も、気楽な散策も、どちらもふたりで楽しめることのありがたさを噛み締めました。いつもこういうゆったりとした時間を過ごすことができるかどうかはわかりません。でもこういう時間をいつも大切にしたい、さりげなく、しかし強く、そう思っています。

バレーパーキングで預けている車を出してもらい、車寄せまで高速のエレベーターで。徐々にエレベーター内の灯りが暗くなっていきます。次にこのエレベーターに乗って、また徐々に灯りが明るくなっていく様子を眺める。あの高揚感をもってチェックインする次の滞在を思い描きながら、今日もこのホテルをあとにしました。

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