メズム東京レストラン「シェフズ・シアター」でランチ〜夏の兆しを感じる昼下がりの東京湾に面したライフスタイルホテルで昼食を

夏の兆しを感じる季節には晴れやかな気持ち良さを覚えるものです。とりわけ梅雨入り直前のわずかな天気の穏やかな季節というのは、その日照時間の長さと合わせて、毎年、わけもなく明るい気持ちになったりするものです。昨年末からずっと鬱々とした出来事が続いていた私は、徐々に外に目を向けるようになった春先、今度はコロナウイルスの感染拡大とそれによる社会不安が重なり、どことなく重たい気持ちで過ごしてきました。

ホテルについても休業(場合によっては閉業)が相次いだり、開業予定だったところも延期となったりと大小様々に影響を受けたことは間違いありません。そうしたなかで、おそらく多くのホテルファンにとって注目の高い日系のライフスタイルホテルが当初の予定通りに開業しました。それこそが、JR東日本ホテルズの高級ラインであり、またマリオットが展開する「オートグラフコレクション」の日本国内2番目のホテルでもある「メズム東京」です。場所は、北に浜離宮を挟んで汐留の高層ビル群や東京スカイツリーなどが望める東京湾に面したウォーターフロントエリアである竹芝地区。

Tokyo Wavesをキーワードとして、「五感で感じる」ホテルというコンセプトを打ち出したその世界観は以前からとても気になる存在でありました。さらに様々な企業とのタイアップも果たしてどのような形になっていくのかということも注目すべきところといえましょう。しかしそうは言いつつも、やはり社会情勢がある程度落ち着くまでは外出を控えていたので、当然こちらのホテルに足を運ぶこともせず、さらにこちらのブログも更新することのないままでいました。

緊急事態宣言(こんな言葉を昨年の今頃誰が想像したでしょうか)が解除された5月25日からほどなくして、ある知人からこのようなお菓子をもらいました。ペコちゃんといえばよく知られた不二家のマスコットですが、どういうわけかとてもスタイリッシュな格好をしている…これこそまさにメズム東京と不二家のコラボレーションのアイテムだったのです。

かわいらしくてかっこいい。

このホテルのサービススタッフのユニフォームは「Y’s BANG ON!」とのコラボレーションということもこのとき初めて知りました。いよいよここを訪ねてみたいという思いを強めた私は、もちろん感染拡大防止には最大限配慮しながら、この新しいホテルに足を運ぶことにしました。さて、今回は宿泊はしていませんが、ランチライムのリポートをしてまいりたいと思います。

エントランスでの体験

自宅より自家用車で向かいます。芝大門の交差点から、世界貿易センタービルの方面に進み、浜松町駅のガードをくぐって竹芝埠頭の方面へ。すぐ近くにはインターコンチネンタル東京ベイも見えます。真新しいビルに回り込むと、メズム東京・オートグラフコレクションの看板が見えます。

エントランスに車をつけると、黒いスタイリッシュなユニフォームのスタッフがすかさず駆け寄ってきます。自走での駐車も可能だけれども、有償でバレーパーキングサービス(レストラン利用の場合は¥2,000)も行っているとのこと。これは私だけかもしれませんが、新しいホテル(特に世界観の面白そうなホテル)に来たときや、ちょっと特別な滞在をするときには是非ともバレーパーキングを利用したいと思うのです。ベルスタッフの出迎えによってそのホテルの持つ世界観の中により深く進入していく感覚がするし、そこでのささやかな交流がそのホテルを知るひとつの手掛かりになっているように思うからです。

バレーサービスをお願いして降り立つエントランスマットは、Tokyo Wavesを意識してか、水の波紋のよう。スタッフにレストランを利用したい旨を伝えるとエレベーターホールまでエスコートしてくれました。

エントランスからエレベーターホールまでのアプローチは雪のようでもあり、滝や繁吹のようでもあり、いずれにしても水を連想させられる意匠。ここを通る僅かな時間に、スタッフはこのホテルのコンセプトについて語ってくれました。もちろんレストランの案内もこなしながら。

ここで私はスタッフとの距離感の近さ(物理的にではなく)を感じさせられました。それというのもエレベーターに乗るまでずっとつきっきりで案内をしてくれたからです。もちろん何度も来るようになったら、ここまで詳細な案内はされないだろうと思いますし、そう期待しますが、はじめて来た方であっても安心感をもって利用できるように感じました。

エレベーターホール。最近のホテルらしくデジタルサイネージでこのホテルのイメージが流れています。こうした演出の仕方は、例えば、しばらく前に行った「インディゴ箱根」あたりにも見られましたし、インテリアの雰囲気などは、このホテルからもさほど遠くない「プルマン東京」にも近いものを感じました。したがって個人的に新鮮さはさほど感じないのですが、同時に、こうしたインテリアの方向性が、最近のライフスタイルホテルの文法のようなものとして定着しつつあるように思います。数年後に振り返ると、2015〜2020年くらいのホテルの特徴的な雰囲気として見えてくるかもしれません。例えば、ウェスティン東京とホテル椿山荘にどこかしら類似するものを感じとるように。

エレベーターを降りると、開放的なラウンジが広がりますが、ここの写真は割愛。これはパノラミックな景色で一枚に収めるのが難しかったということもありますが、エレベーターからレストランまでスタッフがつきっきりで案内してくれて、天気の話や、ここ最近のこのホテルでの出来事などを含めて、途切れることなく会話していたということも理由です。このホテルのスタッフは良い意味で話好きな印象を受けました。

レストラン「シェフズ・シアター」での体験

14階のフロント・ロビーエリアから連続した西側にメズム東京のレストラン「シェフズ・シアター」はあります。

ゴールドではなくてブロンズの天井と証明の効果がゴージャスになりきらず、どこか気の抜ける雰囲気を演出します。またこちらのレストランは「シアター」という名前に表されるような様々な特徴的な演出があります。視覚的に分かりやすいのは、キッチンが仕込みの部分からすべてオープンになっていて、まさに「料理というショーを見せる」という意味合いがあると思われます。実際に気さくなスタッフの方が、「もしよろしければ立ち上がってキッチンをご覧になられてください」と自信に満ち溢れた表情で語っていたほどです。

虎ノ門方面の見える席につきます。群青色のナプキンやブロンズの食器がエレガント。私が行ったときには、ランチコースは1種類のみ。メインディッシュは肉か魚を選べるようになっていましたが、車を降りるときに東京湾の潮風に当たったせいか、この日は魚を食べたい気持ちが勝りました。

またノンアルコールの飲み物もいくつか選択肢があり、私は「キミノユズ・スパークリング」を頂くことにしました。

まずはアミューズブッシュ。真っ黒な溶岩プレートにかわいらしく乗った4品。左端はチーズのエスプーマを閉じ込めたさくさくした食感。季節もののホタルイカは食感もよく、さわやかな酸味が余韻をつくります。イカ墨のコクのある味わいに浸ったあとで、紫蘇の花がほのかに香る真鯛のカルパッチョを頂きましょう。もちろん順番はどれからでも。あくまでも私の好みが、左から右へ、という流れを作っていたにすぎません。

蛤と百合根を使ったクリームスープが次に運ばれてきます。百合根のさくっとしたあとにほろりと溶ける感じ、そして、蛤のぷりっとした奥の方から抜けてくる磯の香り。クリーム特有のまろやかさに貝の味わいが深みを加え、見た目とは裏腹に、かなり主張の強いスープでした。

今回のメインディッシュは北海道産の鮎魚女(あいなめ)のグリル。ここに季節の野菜が添えられてきます。視覚に訴える鮮やかさが印象的ですが、この一皿は、なによりもまず、味覚への直球的な挑戦。野菜それぞれがしっかりとした甘みを備えていて、特に人参は大地のあたたかさを連想させるものがありました。中心にある鮎魚女は、こんがり焼かれた皮に旨味が凝縮されていて、同時にまったく嫌味のない清楚な後味。実感のある白身の部分の深い味わいと合わせて最後まで満足感の続く仕上がりになっていました。

有機レモンとエクアドル産のカカオを使ったデザート。こちらは耳で楽しむというコンセプトがユニークですが、ナイフで真ん中を切ると、パリパリとした音とともに、コーティングが崩れ、レモンのゼリーが溶けるように広がります。そしてさらにその奥の方からは、とろけるようなエクアドルチョコレート。私は甘いものに目がありませんが、しばしば冗長な甘みにうんざりしてしまうことがあります。しかしこちらの一品は、チョコレートの甘さをレモンの酸味が程よく緩和して、非常にバランスが取れている印象。さらにぱりっとしたコーティングの音や、意外性をついたセロリの食感が醸し出すメロディアスな効果によって、最後まで飽きがくることがありませんでした。

見た目のかわいらしさと同時に、実質のともなった、まったくよくできたデザートだと思いました。

最後にプティフールとともに猿田彦スペシャリティコーヒー。抹茶の味が強く出るチョコレートはコツコツという硬さのある外側ととろけるような内側の違いが楽しいのですが、カヌレのしっとりとしていながらも、軽やかな口当たりは特筆すべきものがありました。そして猿田彦コーヒーが監修しているというこちらは、世界各国のコーヒー豆をブレンドしたもので、東京という世界都市だからこそ集まってくる味の交わりをイメージしているということです。全体に酸味や苦味の強くない優しい味わいが印象的でした。

 

 

さて、ひとしきり食事を終えたあとで、久々にホテルでゆったりと食事をした感慨に耽りました。すると改めて鬱々とした日々が続いたあとで、ホテルという場所が持つ魔力の大きさを感じさせられました。

様々な人によって構想され、維持され、素晴らしいスタッフによって作り上げられている空間やそれが持つ雰囲気、そしてもちろんそこに集う様々なゲスト。その魅力の大きさを感じずにはいられません。もちろんまだ完全にコロナウイルスによる様々な困難や社会不安が解消されたわけではありませんので、十分な注意が必要なことは言うまでもありませんが、ホテルという場所(もちろんそれ以外の数多くの世界も)が賑わいが取り戻すことを願ってやみません。

そういえば、このホテルのスタッフの方のグリーティングの言葉と所作はかなり特徴があり、印象に残るものです。その独特の所作とともに、笑顔で「良い一日をお過ごしください」という言葉でレストランを送り出されるとき、ここに来たときよりも少しだけ明るい気持ちになっていました。

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