このホテルはひとつの美しい夢であり続けてきました。
パークハイアット東京…日本のラグジュアリーのあり形を変え、開業当時から基本的な雰囲気をほとんど変えずに30年間も最高峰のひとつであり続けた伝説的なホテルです。2024年5月7日。この日のチェックアウトをもって全館休館となり、およそ1年半の改装に入ることとなりました。
改装といえば、前向きな進化への期待として受け止めて、たいていの場合は好意的に捉えられることが多いのではないかと思います。実際、パークハイアット東京も客室の水回りや内装の一部などに経年によって見劣りする部分がなかったといえば嘘になるし、2020年代に開業したような最新のホテルに比べると、やや前時代的な側面(エレベーターにセキュリティが設けられていなかったり…)もなくはなかったのです。そうしたものの「改善」は進められていいでしょう。ただ一方で、このホテルに慣れ親しんだファンには、この改装を単に好意的にだけ受け止めず、ある種の不安を感じる方も少なくないのではないでしょうか。というのも、このホテルはある意味ですでに「完成」されていて、これ以上に手を加えることが余計となったり、場合によっては、改悪になってしまうかもしれない。足すことも引くこともなく、ただ今のままの姿や世界観やコンセプトが(少なくとも目に見える範囲では)ずっと続いていくことが望ましい、と思う。私はそんなふうに考えていたひとりでした。
1990年代。現代からは想像をつかないほどにラグジュアリーホテル(とりわけ外資系)が東京にはまだ少なかったその時代に、綺羅星のごとく西新宿に誕生したパークハイアット東京。同時代に誕生した恵比寿のウェスティン、目白のフォーシーズンズ椿山荘と並んで、新御三家と称されもしました。それはもともとの御三家である日系(帝国・オークラ・ニューオータニ)とは対照的な外資系のラグジュアリーホテルとしてひとまとめとされていたわけですが、そのなかでもパークハイアットだけは異質とも言える雰囲気であったと思います。ウェスティンも椿山荘も一棟ごとホテルという従来型のグランドホテルの文法に則したものであったのに対して、パークハイアットは超高層ビルの上層階に入り、客室数を絞ることでプライベート感を高める。それに古典的な豪華絢爛さとは一線を画した芸術的でコンテンポラリーな雰囲気のインテリア。21世紀になってから東京に登場してきた数多くのラグジュアリーホテルの多くがパークハイアットと同じスタイルであることを考えると(もちろんそれは経済的な側面や空間的な制約などさまざまな要因があるわけですが)、その先進性は同時代的にも際立つものでしょう。しかしそれと同時に特筆すべきは、そうした21世紀に開業したホテルに比べてもなお、一見すると分かりにくいけれど、非常に贅沢な空間の使い方や透徹した世界観に特徴づけられる、やはり時代を超えた特別なホテルであると私は思うのです。わざわざ滞在しなくとも、ただ2階の玄関から入って、エレベーターに乗って41階のピークラウンジに降り立っただけでもその特別感はすぐにわかることでしょう。
そんな特別な世界観がどのように変わってしまうのかという不安、あるいは、うまくいけば、ここがどれほど魅力的な場所になっていくのかという期待。改装のニュースが知れ渡って以来、このホテルのファンの間ではおそらくそのふたつの気持ちのせめぎ合いが起こってきたに違いありません。
休館前の最後の営業日は2024年5月7日。私は即座に予約を入れました。そして、できる限り、いつも通りの滞在をしたいと考えていました。
2024年5月6日。午後の1時すぎ。いつものようにランチタイムの少し後に車でホテルの玄関に。顔見知りのスタッフに鍵を預けてそのままチェックインの手続きへ。私は新宿中央公園のまんなかをハンドルを切りながら、このユニークな高層建築が見えてくるだけでなにか特別な気分になります。何十回と泊まってみてもいまだにそうなのだから、なにか特別な空気がここにはあるのに違いないといつも思うほどです。
ウッド調のあたたかさと鏡ばりのクールな扉と芸術的な像…エレベーターの話です。そんな特徴的な高速のエレベーターが風を切る音を立てながら41階に到着すると、暗い世界からすぐにぱっと明るい光のラウンジに至るのです。そこには植物があり、楽しそうにアフタヌーンティーで会話する人たち、冬であれば富士山を照らし出す鮮やかな夕焼けなども見える、そんな美しい空中庭園が待っているのです。
今日はやはり混んでいますね。
そんな話題を交わしながら、チェックインへと進みます。オールデイダイニングのジランドールはいつになく混雑していてさすがに満席でした。ライブラリーを抜けて、淡い落ち着く緑色のコンシェルジュカウンターで座りながらチェックイン。もうここに来るまでにこのホテルの魔力にかかって、すでに俗世のことは忘れ始めてしまう。本当に見事だな、といつも思います。思い返せば、いつだったかPCを持ってくるのを忘れて、この裏にある小さなビジネスセンターにこもって文書をひたすら作成していたこともあったな…などとしみじみとなつかしいような気持ちになりました。
チェックインの手続きはスムーズに終わりました。しかし、まだ部屋は準備できておりません…どちらかでお過ごしになりますか?(と、聞かれるのも、よくあることで、それを見越して、私は毎回少し遅めの昼食をホテル内のどこかのレストランで取ることにしています)
今日はあそこにいきましょう。やはりパークハイアットで昼食といえばあれが食べたい。
パークハイアットで昼食といえば…と書いてみて、ふと思い出したのですが、じつは定番がいくつかありました。数年まであればジランドールでパニーニを食べたい、と思ったはずですが、最近は和食の梢に来ることが増えた気がします。4月8日の改装前最終日は朝食のジランドール以外のレストラン営業はしないことになっていたので実質的に今日が最終営業日。夜にいくところはすでに決めていたので、ここで昼食を取ることはほぼ確定していたのです。
うなぎの名店は数多くあります。でも私の中ではやっぱりこことは比べられない。どうしてこんなに美味しいのだろう。うなぎの焼き加減も味付けもごはんの柔らかさも山椒の効かせ方もすべてにおいて私の好みのど真ん中にくるのです。最近やや少食気味でごはんも少なめに盛ってもらうようにリクエストすることも多いのですが、梢の鰻丼に関しては例外です。最後の最後まで徹底的に味わいたい。今日は改装前最終日ということでゲストにはスパークリングワインなどが振る舞われていましたが、私はお酒が飲めないので、いつものやつをリクエスト。そうノンアルコールビール。これがまた絶妙に合う。ちなみに「ニューヨークグリル」で気に入っているモクテル「ヤンキースタジアム」もベースにはノンアルコールビールが使われています。
さて…書いていて困りました。よく考えたらこの鰻丼も次にいつ食べられるかわからない。記憶を振り返るうえで欠かせない瞬間のひとつではありますが、言い知れない虚しさが。。
とても美味しい昼食でした。いつも親しくしてくれたスタッフの皆さんにも会えて改装前の挨拶ができて嬉しかった…やはりこのあたたかさ。きわめて素晴らしい。食後に梢の店内をふと見回しながら、この空間やコンセプトも改めてとても斬新なものだと思いました。和食のお店だけれど、決して無国籍でコンテンポラリーなホテル全体の雰囲気を崩さず、うまく溶け込んでいる。それでいてしっかりと「和」を感じることができる。ニューヨークバーと梢と同じデザインコンセプトなのに、ここまで違って見せることができるセンスの高さには驚きます。果たして改装後にはここはどうなっていくのだろう。そんなことがふと頭に浮かびました。
そうこうするあいだに予定されていた部屋への案内の時刻が来たようです。
1年半なんてきっとあっという間ですよ…またお会いできることを楽しみにしていますね。そんな言葉で見送ってもらいました。
今回の部屋はここと決めていました。絶対にここが良かった。そう思える好きな部屋。
私はこれまでに幸運にしてパークハイアット東京のすべての部屋タイプに泊まる機会に恵まれましたが、おそらくこのパークビュールームが最も多く泊まった部屋でしょう。そしてこのホテルに泊まるとなると大抵の場合は部屋でゆっくりと過ごすので、おそらくこのホテルで最も長い時間を過ごした場所とも言えるでしょう。カテゴリーとしてはデラックスルームよりも上に位置づけられていましたが、ぱっと部屋に入ったときの広さはこちらの方が狭く感じられます。というのも、ベッドルームの背後にビューバスを含むウェットエリアがあり、回遊性を持たせている分やや複雑なつくりだからだと思います。でもこの空間。なんとも気分が高揚するし、それと同時に落ち着く。そんな両面性がたまらなく良いのです。とりわけ45階の南向きの部屋が好き。
ぼんやりとビューバスから昼でも夜でも外を眺めていたり、小さなテレビをみてリラックスしたり…湯船に季節のバスソルトを浮かべて、イソップやル・ラボの香りに包まれるシャワー。ここは都心にありながら、どこかのリゾート地以上にリゾートに来た満足感があるのです。晴れている日も好きですが、じつは雲に閉ざされている日も好きでした。外が白く何も見えない分さらにこの洗練された空間が幻想的な感じがしたからです。そうそう、水回りがちょっと古めかしい、なんて書きましたが、水圧(バスタブにお湯を張るのにかかる時間やシャワーの当たり方を含めて)は理想的でした。まったくストレスがないどころか心地良さを感じられるほど。最新のホテルと比べてもまったく遜色がありません(むしろ最新のホテルであっても、よくわからない環境対策と称して水圧を弱めているケースが散見されることを考えれば、30年前にできたここの方がよっぽど快適)。
今回もゆったりとしたバスタイムを楽しみながら、いよいよ、どうして改装する必要があるのか疑問に思い始めたほどです。確かに最近のハイアットの標準となりつつある独立式のバスルームではないし、シャワールームにレインシャワーもないけれど、デザインも設備も全然問題ない。
ホテルオークラの旧本館が取り壊されることになったとき、閉館直前に泊まり、たまたまリノベーションした部屋に泊まって、極めて快適なので取り壊す必要性をまったく感じなかった…ということを思い出しました(もっともパークハイアットの場合は閉館ではないのですが)
イサム・ノグチの照明。クリスタル調のくるくるまわる調光。落ち着ける低めのベッドに全体のトーンを引き締める黒い家具…ひとつひとつのアイテムへの愛着があります。改めて、ひとつとして規格化されたものがない空間に驚かされます。あらゆるものがこの場所のために設られています。いまはなき坂本龍一がこのホテルのためにTimelessという曲を書き下ろしています。そう、世界に知られる音楽家が手がけた音楽までもがこのホテルのために設られている。東京中のホテルを見回してもこんな場所は他にありません。ブルガリ東京の開業に象徴されるように、いわゆるウルトララグジュアリーホテルが東京にも続々とオープンしています。それでも私はある種の確信をもって、このホテルを超える世界観を持ったホテルは生まれてこないと思うのです。
あまりひとつのホテルにこだわりすぎるのは狭隘な感覚だとは思います。もちろんどのホテルにもそれぞれの魅力があり、その感じ方もまた人それぞれです。
私はこのホテルを誰かに強く勧めることはしません。私はここが世界一のホテルだと思っていますが、その感覚が共有されるかどうかわからないし、なによりも私がここまで熱っぽく書いてみても、その魅力はあくまでも私の中の感覚に過ぎないものであることも重々自覚しているからです。
そうした前提をおいて、しかし思うのは、世界のいろいろなホテルをめぐってみても、やはり私にとってはこのホテルが世界一だということです。
そんな空間で最高の贅沢をしました…なにもしないこと。気づいたときには外は真っ暗に。そのままゆったりと静かな音楽に耳を傾けていました。
夜の21時…そろそろあそこに行きましょう。
ちょうどXの相互フォローの方と合流することになっているのでした。
ニューヨークバー。このホテルの象徴的な場所のひとつです。最終日ということもあってエレベーターを降りたところには行列ができていました。今日は相互フォローの方とバーの特等席とも言える場所で談笑。かつてはよくひとりでカウンター席に座ったものでしたが、こうしたホテルステイを通じたつながりを持てたことに心から感謝したい気持ちでいっぱいです。
大好きなモクテル「ヤンキースタジアム」は、ノンアルコールビールにレモングラスとりんごの入った非常にすっきりとしていて個性的な味わい。バーと一体となっているニューヨークグリルでも美味しい肉料理と一緒によく飲んだものです。ひとりで泊まるとふらりとここにきて、ジャズの演奏を聞きながら食べたものを、今日も同じように注文することにしました。ロブスターがごろっと入った贅沢なマカロニチーズ。これが絶品なんです。そしてキューバンサンドやペリペリチキンも捨てがたい。しかし今日はこれに加えてスモーキーなバーベキューソースが香るポークリブトルティーヤを。どのメニューを選んでも満足度が高いのはさすがですが、困ったことは、ここでしか食べられないものが多すぎる。東京都内のレストランを探しても、あるいはホテルバーを探しても、このようなメニューはなかなかない。
いままで思いたったら来られると思っていた場所に来られなくなるとは…と、何度も、そんな気持ちが浮かんでは消えていきました。
それにしても本当にここは日本離れした空間ですね…そんなことを話しました。
ニューヨークバーというお店の名前。それがどういう経緯でそう名付けられたのかは知りません。ある人はこの場所を「東京がどんなに模倣してもニューヨークにはならない」から偽りのニューヨークではないか、と思うかもしれません。憧れの裏返し。でも私は思います。ここはニューヨーク以上にニューヨークではないか、と。つい2週間ほど前にニューヨークから帰ってきて改めてその思いを強くしました。もちろん東京はニューヨークではないし、このバーも当然その東京に根ざしているのです。でもなんだかニューヨークのあの華やかさと賑やかさがもつエネルギー…それが純化されて濃縮されてこの無国籍なホテルの最上階に花開いている。だからこそニューヨークバーという名前は実にオーセンティックではないかと思うのです。おそらく生粋のニューヨーカーがここを訪れてもそう思うのではないでしょうか。そう、まさにソフィア・コッポラやレディー・ガガがこのバーから大きなインスピレーションを得たように。
夜の11時を過ぎるといよいよ最後のジャズの演奏が始まりました。客席は満席。カウンター席で和気藹々とお酒を楽しむひとたち。窓際で景色と演奏に酔いしれるカップル。ひとりでゆったりと時間の流れを楽しむひと…立ち上がってカメラをかまえるひともちらほら。思い思いにこの世界観に浸る人々の口からは様々な国や地域の言葉が話されていて、生まれも肌の色も性別も超越してみんな幸せそうな表情。これだ。この圧倒的な幸福感こそがこのホテルのもつ魔力なんだ。私も興奮を抑えきれない思いでした。
Time after timeが流れます。ピアノもベースもドラムも演奏に熱が入り、歌手の歌声が響き渡ります。談笑する大きな声を包み込むように東京の空にジャズの音色が溶けていくようでした。Time after time…このホテルに、そして今夜この場所に、なんとちょうどよい曲でしょう。誰ともなくそのフレーズに声を合わせて歌い始めました。歌手もそれに合わせて手招きして、徐々にバー全体が歌声になりました。とても心揺さぶられる景色でした。曲が終わると大きな歓声と割れんばかりの拍手。
そして…フランク・シナトラのTheme from New York, New York…これが素晴らしい。だってこの場所はニューヨーク以上にニューヨークなのだから。広く知られて親しまれているニューヨークをテーマにした華やかで煌びやかな曲。この曲をバーの客全員があたたかく分かち合っているとき。この心地よいグルーヴ感がホテル全体に通底している、まさにこれがこのホテルの魅力。ある人が話していましたが、いろいろなことに疲れたとき、ここに来ると、元気が出て、また明日からがんばろうという気持ちになる。シビアな現実から離れてなにか生き返るような気持ちになってそのシビアな現実に戻れる。そんなホテルステイの魅力。ここには常にそれがありました。
I wanna wake up, in a city that doesn’t sleep…I’ll make a brand new start of it…It’s up to you, New York.
こうして最後の曲が終わる、と思いきや、鳴り止まない拍手とアンコール。こんなにエキサイティングな時間が開業以来果たしてあったのかと思うほどに誰しもが白熱していました。年末のカウントダウンも盛り上がるのですが、今回は間違いなくそれ以上でした。そしてアンコールの曲。Stand by me!
声の限りに歌った歌手も、力の限りに演奏したバンドも、この素晴らしい世界を毎日作り上げているホテルのスタッフたちも、そして幸運にもこの場所に居合わせた私たちゲストも、この音楽に合わせて歌っていました。パークハイアット東京という場所が引き寄せるなにか。それに対する愛を感じました。
バーから部屋に帰ってきました。興奮が冷めなくてなかなか寝付けそうにありません。
とりあえずシャワーを浴びることにしましょう。そしてお気に入りのストロベリーアイスクリーム。金属製の容器に大きなアイスクリームが入っていて、それをガラスの器に移して、ゆっくり夜景を眺めながら食べるのです。この至福のときにこれまで何度救われたか。そのまま1時間くらいはぼんやりしていました。この特別な世界観が必ず残って欲しい。単にジョン・モーフォードのデザインだけではなく、この世界観なんだ。デザイナーだけではなく、建物や立地だけでもなく、スタッフだけでもない。このホテルを愛する人の想いによって築き上げられてきたこの贅沢な時間と空間。これです。
夜の2時くらいまで寝られなかったのに朝の6時には目が覚めました。不思議と眠くありません。5月7日の東京の空は雲に覆われていました。
朝食はインルームダイニングと迷って結局ジランドールに行くことにしました。私は朝一番でここの窓側の席に座って朝食を取るのがとても好きなのです。幸運にも今回もそれを叶えられました。
フレッシュオレンジジュースとカットマンゴー。焼きたてのマドレーヌ。ふわりとしたフレンチトーストにたっぷりとメープルシロップをかけて、少し添えてもらったソーセージの塩気がアクセント…そして熱々のフレンチプレスコーヒー。定番になっている内容。そしてある種の私の理想的な朝食の形。
今日は改装前最終日の朝ということで各テーブルにキャビアとシャンパンが提供されていました。私はお酒が飲めないのでシャンパンは飲まず、代わりにノンアルコールのスパークリングで改装が順調に進むことを願ってひとり乾杯。
何度となく訪れたジランドールでの食事もしばらくは食べられない(ふと思ったのですが、場合によっては、ジランドールではない別のレストランになることだって可能性としてはあるわけです)。そう思うと途端に名残惜しい気持ちになりました。今日はホテル内のレストランは営業しない。そのせいかホテルのすべてのレストランからスタッフが今朝はジランドールに集って接客をしていました。ジランドールはもちろん、ニューヨークグリル、梢、ピークラウンジ、ペストリーブティック、デリカテッセン…なじみの顔がたくさん揃っていて、それぞれ挨拶ができて本当に嬉しかった。このホテルで長く働いているスタッフも多く、以前はここのレストランに新人でいたあの人が…というようなこともよくあり、それだけ愛されているホテルなのだと改めて思うのです。
朝食を終えてここを去るときにスタッフもゲストもみんな口々に言っていました。また来年!
私ももちろん同じように言いました。
昼までは再び部屋でなにもせず過ごして、それから最後にクラブ・オン・ザ・パークに行きました。幸運にもスパトリートメントの予約が取れたのです。トーキョーマッサージ。パークハイアットオリジナルの精油を使ったリズミカルなオイルトリートメント。マッサージのBGMがジャズであるところにこのホテルらしいセンスの良さを感じます。
トリートメントを終えて部屋に戻る時、クラブ・オン・ザ・パークでは会員同士で挨拶が交わされている光景をよく目にしました。またしばらく。この独特な社交場のような雰囲気もまたこのホテルの魅力のひとつでしたね。
チェックアウトの前に部屋でスパイシーなカレーを食べました。じつは最後の最後までナシゴレンやクラブハウスサンドと迷いました。どれも私の中ではここのインルームダイニングでの定番でした。カレーはジランドールの横を通ると無性に食べたくなったものです。家族と全員でカレーを食べにきたこともありました。様々な思い出が蘇ります。このホテルとの最後の別れというわけでもないのに。なぜかとても寂しい気持ちがしました。さてそろそろこのホテルをあとにしなければなりません。
チェックアウトの手続きをしていたら、しばらく会えていなかったコンシェルジュにも会うことができてこれまでの感謝と来年の再開(再会)を楽しみにしていることを伝えられました。また来年!ここでも何度も繰り返し交わした挨拶をしました。
午後4時。正面玄関にもたくさんのスタッフが見送りに出ていました。その人たちに囲まれるようにバレーパーキングで預けた車に乗り込んでホテルをあとにします。
…またお待ちしております。その声がとても頼もしく聞こえました。
このホテルは美しい夢でした。
これまでにもたくさんの夢を私に与えてくれました。
それは単なる宿泊ということを超えた唯一無二の体験であったと言えます。1年半の空白を経てまたこのホテルに新しい色が加わるとき、私たちにどのような新しい夢を見させてくれるのでしょう。
それではまた来年。