2022年6月 ハレクラニホテル宿泊記

Blue Hawaiiな気分の夜を超えて、ロイヤルハワイアンをチェックアウトした私たちは、日中のからりとした太陽の下のワイキキの街を歩いていました。タクシーは呼ぶまでもないよね。パートナーと互いに先ほどまでいたピンクパレスの印象を語り合いながら、白亜のホテルまで数分の散歩。 私が以前から泊まってみたかったハレクラニホテル。数年前に沖縄恩納村にも同ブランドのホテルが開業し、アフタヌーンティーや食事に行ったことはあったものの、あそこに泊まるのは「本家」に行ってからと勝手に心に誓っていたホテル。もちろんハワイを代表する名ホテルのひとつとして存在は以前から知っていました。

エントランスにつくと、高齢の陽気なベルマンに荷物を預かってもらってそのままチェックインの手続きに進みました。東京でも見慣れたデニーズの看板(しかし内容はだいぶ違うようです)のすぐ横からこのホテルの外観を眺めた時に、正直なところ、なんだか高層の平凡なコンドミニアムのようだと思ってしまったのです。それほどまでにこのホテルに対する期待が高かったのかもしれません。ところがひとたびこの敷地に足を踏み入れるや否や、その外観から受ける凡庸さはまったく忘れ、その独特の空気感に圧倒されてしまいました。

壁ひとつを隔てて、ここまで優雅でゆるやかな雰囲気を感じたのはいつ以来でしょう。ラグジュアリーホテルにはこういう力があるものだと思い出しました。中庭の芝生の鮮やかな緑と椰子の木。そのなにげない場所にもハレクラニらしさが溢れていました。

今回滞在したのはオーシャンフロントタイプの客室。ハレクラニといえば「Seven Shade of White(7色の白)」をアイデンティティとしていて、まさにさまざまに織りなす白の清楚な美しさが常夏の空と海に映える部屋でした。ほどよい広さの部屋からラナイに出れば、目の前には卵型のプールの向こうに太平洋の穏やかな波音が聞こえてきます。前日まで滞在していたロイヤルハワイアンが「動」であるならば、こちらは「静」という言葉がしっくりくる気がしました。ものの数分とかからない距離にありながらもここまで雰囲気が異なるのも、ここワイキキの奥深さなのかもしれないと妙に感心してしまう自分がいました。

パートナーはリノベーションする前に家族とここを何度か訪れたことがあるといいます。他方ではじめてハワイを訪ねた私にとってはこのホテルも最初の滞在。ひと通り部屋でのんびりしたあとすぐに好奇心が私を客室の外へと誘いました。

最初はひとりで敷地内をふらふらと歩いてみたのですが、パートナーがラナイでくつろいでいる様子がプールサイドから見えて、自分の存在をアピールするように手を振ってみました。彼女はすぐに気がついて、やや恥ずかしそうに手を振りかえしてくれました。そのままなにか飲み物でも飲もうと言って、空席を確認するために海沿いのレストランで真昼間のカクテルタイム。ハウスウィズアウトアキー(House Without A Key)という名前に違わない、開放的で平和な気分になる海辺のオープンエアの席。穏やかな風にそよぐキアヴェの木の樹齢は100年を超えるといいます。

リリコイやシュガーケインを使ったモクテルを作ってもらい、シュリンプカクテルと合わせます。今日も空は気が遠くなるほど青い。私にとっては初めて見るブルー。彼女にとっては想い出を重ねていくブルー。

午後7時をまわってもまだ外は明るい。しかしそろそろ予約したディナーの時間です。フランス料理のラ・メールと迷ったのですが、もう少しカジュアルに海の料理を堪能したいということで、地中海料理のオーキッズで食事をすることにしました。

ロブスターのパスタや真蛸のグリル‥そして大変有名なココナッツケーキ。ここも窓はオープンエアになっていて、心地よい微風が海から室内を抜けていきます。次第に空の色が淡青から橙色を経て紫色へと変わってきました。ハワイに来てから数日ずっとこのような綺麗な夕暮れを眺められた。普段の天気がいかなるものか知らないのですが、それはとても幸福なことであると思えたのでした。思い出の話を聞きながら食事を終える頃にはすっかり外は暗くなっていました。

昼にゆったりとした時間を過ごしていたハウスウィズアウトアキーの方からは、フラに合わせた緩やかなハワイアンミュージックの演奏が聞こえていました。蘭の花が描かれた綺麗なプールはライトアップされて、星空の交信するようにきらきらと光を投げかけていました。色々なことがあったけれど、私たちはきっとまたここに来て、この気持ちいい夜風にあたることができるよね。そう断じるようにしてラナイのデイベッドに横になってもう少し今回のハワイ滞在最後の夜に浸りました。

太陽が昇りきる前。明るさに目を覚まして外を見る。誰もいない海。淡い桃色と蒼の空の下には変わることのない太平洋のさざなみ。私たちはあと数時間後にはここを発つけれど、また今日も多くの楽しい歓声で賑わうのだろう…旅の終わりに特有の情感が湧いてきました。そのある種の切なさが強ければ強いほどその場所が自分にとって特別なものであったという認識をあらたにするものです。とはいえまだ朝が早すぎる。朝食の時間帯までもうひと眠りすることにしました。

朝食はエッグベネディクト。スモークサーモンと合わせたスコティッシュスタイル。そしてカスタードクリームと焼いたバナナをくるっと巻いたリコッタパンケーキ。昨日と変わることのない穏やかな空気が朝の穏やかな陽の光の中にありました。早くも海上にはマリンスポーツを楽しむ人たちの姿がありました。特段の理由があるわけではないけれど、今日もきっと良い1日になるでしょう。そういう不思議な感覚がこのホテルにはいつも流れているような気がしました。

チェックアウトまでの時間はプールで泳いでから海を眺めて寝ていました。今日も青空。ダイヤモンドヘッドが綺麗に見えます。

ここハワイにも泊まってみたいホテルはまだまだたくさんあります。次回はカハラあたりにも?そういえば、ハイアットセントリックもあったのだっけ?今度はハレクラニにもう少し長く泊まろう…次の旅への構想を早くも膨らましながら、なぜか人生の有限性について考えます。いったいどれだけ人生に残りがあって、どれほどのホテルに泊まることができるのだろう。迷っている暇があったら…普段は基本的にものぐさであるにもかかわらず、こういうときは妙に行動的な気分になります。

さあ、そろそろ、飛行機に乗って、日付を超えて、東京の空の下へ。この太陽と空が愛しく想える場所に再び戻ってくることを心に誓いながら。

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