私は海の景色が好きです。海の近くにいくと悲観的な気持ちになれないと言った人がいました。たしかに綺麗な海を見つめていると、身辺雑事に心を砕くことから解放されるような心地の良さを覚えます。想定外のことが起こるいまの時世にあって、もちろん想定外を乗り越えるための思考と慎重さを鍛えることは不可欠ですが、ある意味で必要なのは、時世に惑わされない楽観かもしれないと思うときもあります。
ハイアットリージェンシー瀬良垣アイランド沖縄の開業からもうしばらくが経ちますが、私はこのホテルにこれまで行く機会を得ませんでした。しかし2週間ほど前にまとまった時間を利用して、この綺麗な海にたたずむ国内のハイアット唯一のマリンリゾートを訪ねてきましたので、リポートしてまいります。
チェックイン
羽田空港に足を運ぶのもしばらくぶりでした。飛行機に乗り込んで普段とは違う場所に行くというのは、やはりなんともいいものだという感慨を覚えながら、沖縄・那覇空港まで向かいます。
那覇に着いたらオープンカーを借りて、ただひたすらにホテルを目指します。いくつもの魅力的な観光地に恵まれた沖縄ですが、どこにも出かけないで、ホテルで過ごすというのも良いものだと思います。その土地の空気や雰囲気をささやかに感じながら。
ハイアットリージェンシー瀬良垣アイランドは、その名前の通り、沖縄本島と道路でつながっているごく小さな島に位置しています。島丸ごとホテルの敷地というのは珍しいのではないでしょうか。その立地によって、周囲に遮るものなく、ただ綺麗な沖縄の海がどこからでも眺められるようになっています。
今回はキャンペーンによって、グローバリストはバレーパーキング料金も無料となっていたので、ホテルのエントランスで鍵を渡して車を預かってもらいました。通常は沖縄本島側に位置する駐車場に停めて、同じあたりに位置する「ビーチハウス」からホテルのトゥクトゥクに乗って、本館まで移動するのが一般的なようです。窓のない解放的な乗り物から海風を感じるのもそれはそれで魅力的かと思いました。
チェックインはリージェンシーラウンジにて行います。リゾートホテルの常で、チェックイン時間帯のフロント周辺はかなり混雑しますし、この日もかなりの人たちで賑わっていましたが、ラウンジはさほど人も多くなくて、穏やかな雰囲気でした。ちょうどカクテルタイムだったので、飲み物と軽食もついでに頂くことにしました。ひとつひとつのアイテムの質も高くて、満足度は高いと感じます。
クラブプレミアムルーム
ほどなくして客室までエスコートしてもらいます。今回は窓2面が海に向いている客室タイプの「クラブプレミアムルーム」を用意してもらいました。
客室に入ってみて真っ先に感じるのは、窓の外に海が広がる開放感とインテリアコードの明るさ。それでも全体的にすっきりと機能的にまとまっているのは、最近の国内のハイアットリージェンシーのスタイルとの連続性を感じさせられます。ベッドタイプもハイアットらしい程よい硬さを持っているホールド感の高いもので、安心感があります。
木材が多く使われているのに加えて、天井のシーリングファンが涼しい風を攪拌するのが、じつにリゾートらしい情緒を感じさせてくれました。
ベッドルームとの連続面にあるすっきりとまとまったリビングスペースはデイベッドも置かれていて、快適性は高く、なによりも目前まで迫る海の景色に癒されます。晴れていれば、本部半島や個性的な形の伊江島の島陰を望むことができて、夜でも名護市の明かりが遠くに見えます。
他方でビジネスデスクも都市部のホテル並に使用に堪えるものになっていて、デスクライトの使いやすさやパソコンを広げて作業する十分なスペースが確保されているなど、重宝します(私は夜の空いた時間などに原稿を作成していました)。
外のベランダに出ると、小さなテーブルとウッドチェアが置かれていて、ここから水平線を眺めたり、潮騒を聞いたり、あるいはどんどん表情を変えていく空と海の様子を見つめることができるようになっています。朝早く目が覚めて、ひとときここでコーヒーを飲みながら過ごすのもまた楽しく、気怠さを覚える夕方に頭をからっぽにしながら佇んでいるのもまた素晴らしい。
ウェットエリアは独立式のバスルームとベイシンとなっていて、エントランスの近くにこれも独立式のトイレがあります。このように機能的なところもこの客室の魅力のひとつでしょう。いわゆるラグジュアリーホテルらしい豪華さにはやや欠けるインテリアコードですが、個人的には使いやすくて、好ましいタイプのバスルームです。またさりげなくビューバスとなっているところも積極的に評価できるところだと思います。
バスアメニティはおなじみのファーマコピア。以前のシトラス系の香りのものではなく、最近ではARGAN OIL COLLECTIONというものを見かけることが増えました(先日滞在したハイアットリージェンシー横浜もこちらでした)。香りはやや甘さが際立ちながら、瑞々しい余韻を残すもので、万人受けしそうだと思われます。洗い上がりの質感も特筆するほどではありませんが、決して悪くないものです。
ハイアットリージェンシー瀬良垣アイランド沖縄を満喫する
客室を抜け出して、プールエリアまで足を運ぶことにしましょう。海と連続したラグーンプールや、石垣の上に作られたグスクプールなどがあり、朝から夜までたくさんの人で賑わっています。
リゾートといっても、このような明るい雰囲気のリゾートホテルはなかなか来る機会がなかったのですが、楽しそうに過ごしている人たちが集まっている場所に身を置くと、こちらまで妙に活力を得るような感覚になりました。近くには珊瑚礁を反映した綺麗なセルリアンブルーの海。そして遠くは深く鮮やかなマリンブルーの海。
ラグーンプールの近くまで来るとむっとした熱気を帯びる島の風に潮の匂いが混ざります。プールサイドのデイベッドやリクライニングチェアで寛ぐこともできるし、海を間近に眺める円形のシートにもたれていることもできます。この日はやや風が強くて、雲はじつにダイナミックに動き、その隙間から乱反射するかのような太陽の光が漏れて、海の姿の複雑さに拍車をかけていました。この穏やかな夕暮れ時はなんとも言えない心地良さと、悲観的にならない切なさを残していきました。
改めて訪れるロビーエリアの雰囲気は、いかにも最近のハイアットらしいモダニズムを感じさせます。スクエアを強調した直線的なデザインコードは、柔らかなリゾートの空気感にあって、とてもシャープな感じがします。このような絶妙なコントラストの打ち出し方がもしかしたら私のようなハイアットファンを惹きつける所以なのかもしれないと妙に納得させられました。
シャープな感じはありますが、あくまでも全体的な雰囲気が明るいのは、やはりこのホテルに集う人たちの楽しそうな様子のせいかのか、それともいまの自分が妙に清々しいからなのか。ふとそんな自分との対話を始めそうになりましたが、ここではあまり深く考えるのはやめましょう。
ホテルの規模もそこそこに大きいため、選べる料理の選択肢もそれなりに多いのですが、せっかくハイアットリージェンシー瀬良垣アイランドに来たら頂きたいものを何かひとつ聞かれたら、私は和食の名店「かんだ」とコラボレーションしている炉端焼きのコースを挙げます。一品一品に工夫がみられ、とりわけこちらの「ふわとろゴーヤチャンプルー」は、常識的なゴーヤチャンプルーの概念をどこか別の次元へと飛ばしてしまうような意外性と深い味わいを持っていると思いました。
朝の光が差し込むオーシャンビューの朝食もこのホテルの魅力のひとつでしょう。いつも私は朝食はスコーンやクロワッサンにコーヒーというシンプルなものですが、せっかくなので手の込んだ和朝食を頂いてみることにしました。なんだかとても爽やかな気持ちになって、そのまま外をふらりと歩いて、もう一度、海のすぐ近くまで行ってみました。この日は風が少し強くて、熱気と海の匂いを強く攪拌していました。
現実を忘れるようなひとときを過ごす
海を眺めたり、夏の風を感じたり、普段はしないようなマリンアクティビティをしながら過ごしていたら、ゆったりと時間がながれるような場所にいるのに、逆説的なことに、時間の流れをとても早く感じてしまいました。
本当に久々に、いやもしかしたら、はじめてこんなに純粋に、リゾートホテルらしいリゾートホテルを満喫したのです。沖縄を去る前の日に、紫色とも深青色とも言い難い色に染まった夕暮れを眺めながらしみじみと思いました。まだ心の中には、昨年末くらいの重苦しい気持ちで過ごしていた日々の記憶の断片もあるけれど、純粋に楽しむ気持ち、生きている実感、そうしたものに対する感性を持ち続けることで、過去は自ずと相対化されていくのかもしれません。
現実を忘れるひとときのなかで、今を生きることを取り戻していく。そんな確かな感覚を持ちながら、心地よい潮風の余韻と共に帰路に着きました。