ゼンティス大阪宿泊記(Zentis Osaka)・パレスホテルの手掛けるユニークなコンパクトホテル

ラグジュアリーホテルというのは、それ自体がひとつの目的地になるほど魅力的なものですが、ホテルステイの楽しさというのはそれだけにとどまるものでないということは繰り返し考えることです。いわゆるビジネスホテルというカテゴリーに括られながらも、様々な個性を持ち、コンパクトでも快適な空間を実現しているようなところは数多くあることは言うまでもありません。

大阪は最近ではラグジュアリーホテルも増えて、今後も数多く計画がされていますが、その一方で、とても個性的なビジネスホテルも続々とオープンしていることも注目しておきたいところです。すっかり日系ラグジュアリーホテルとしての地位を固めた東京の大手町にあるパレスホテル。そのパレスホテルが手掛ける新しい宿泊特化型のホテルが「ゼンティス大阪」です。先日出張で(もちろん昨今の情勢に配慮しながら)大阪に行く機会があり、開業したてのここを滞在先に選びました。夜にチェックインして翌朝すぐに東京に戻ってきてしまうという僅かな滞在ではありましたが、今回はこのホテルをリポートしてまいります。

チェックイン

大阪駅の桜橋口から歩くこと15分程度(本当はもう少し早く着けるのかもしれません)に位置する堂島エリアに今回滞在するゼンティス大阪はあります。JRの北新地駅や京阪中之島線の渡辺橋駅だとより近かったかもしれませんが、今回は大阪駅周辺に用があったため、そこから歩いていくことにしました。長引く梅雨のこと、今回も途中で雨が降ってきてしまったけれど、大阪は本当に地下街が広く整備されていて、さほど濡れずにホテル周辺までたどり着けたのは運が良かったと思います。

ホテルの位置する場所は、大阪駅からみて、北新地をさらに南にいったエリアで、あまり歩いている人も多くなくて、静かなものでした。ただでさえもわっとした湿気のある中で、雨が降って、なんともいえない気持ちになりました。エントランスに集う人の影はなく、開業したばかりの華やかな飾り付けとは裏腹に、実にもの静かな雰囲気のなかでチェックインへと進みます。

ホテルに入ると、暖色系の暖かな色合いのなかに木目やベージュの落ち着いた雰囲気を漂わせるロビー。チェックインは不慣れなスタッフが担当したこともあって、説明不足や手際の悪さはやや気になりましたが、控えている他のスタッフがうまくカバーしていて不快感はありません。いや、むしろ、全体的にはとても心のこもった応対をみせてくれて、雨の中を歩いてきたときに、少しほっとしたような感覚を覚えたことを思い起こします。

ロビーラウンジのところはフリースペースとなっていて、奥にあるカウンターには有料のアルコール飲料の他に、コーヒーメーカーが用意されていて、ゲストはセルフサービスで頂けるようになっていました。さりげないけれど、少し嬉しいサービスだと思いました。

ゼンティス大阪・Studio

今回滞在したのはこのホテルで最もコンパクトなカテゴリーの「Studio」タイプ。特にスタッフのエスコートもなく、ひとりで荷物をもって、客室まで向かいます。

エントランスを入るとこのような客室の構成。タラ・バーナード率いるデザインチームが手掛けた内装は、全体的にロビーエリアと同様の木目とベージュが多用された落ち着いたインテリアコード。かなり狭い作りの部屋なのですが、圧迫感を感じることはなく、むしろ「心地よい狭さ」という印象を持ちました。

テレビの前のテーブルの使い勝手も決して悪くありません。ちなみに手前の椅子は、以前に住んでいた家のリビングに置いてあったものと同じもので、個人的にはちょっとした懐かしさも覚えました。

ベッド自体の質も決して悪くありません。難点は枕が個人的に少し厚すぎるということですが、このあたりは個人の好みの問題なので、あまり気にするほどのことではないかもしれません。

この客室のもうひとつの特徴はウェットエリアがかなり簡素であることです。バスタブはなくシャワーブースのみ。トイレとシャワーブースは分離されていますが、ベイシンはトイレの中のものと一元化されています。ゆったりと過ごすような性質の部屋ではないと思いますし、今回のように仕事での利用など、基本的には寝るだけ、ということであれば、このような割り切った作りであってもさほどの不満はありません。また実際に客室のレートも(少なくとも今回は)リーズナブルでした。

ブティックホテル・ファシリティ

今回は出張の関係でさほど長い時間ホテルに滞在したわけではないのですが、ふと飲み物を買いたくなり、階下まで降りていきました。このホテルの2階には「Room001」というユーティリティースペースがあり、ゲストは誰でも利用できるようになっています。

この「Room001」はかなり凝った作りになっていて、ラグジュアリー路線を明確にしたパレスホテルの矜持を感じさせられるところになっています。ソファーやヴィンテージ調の家具の奥の方に、電子レンジや流し台、そして自動販売機が隠れるように置かれていて、インテリア全体の雰囲気を壊さない配慮がなされています。今回は利用しませんでしたが、時間帯によっては、シューシャインのサービスも受けられるようでした。

こちらの「Room001」のフリースペースの反対側にはコインランドリーも併設されているのですが、カフェのような雰囲気を感じさせられるところになっていて、デザインに対するこだわりを強く感じさせられました。ホテルの外の観光をメインに滞在する長期滞在のゲストがこのランドリーを利用するならば、なかなか快適に利用することができるかもしれません。

レストラン・バー・ラウンジ「UPSTAIRZ」にて

ここゼンティス大阪をさらに魅力的なホテルとしている要素が、併設のダイニング・バー・ラウンジの「UPSTAIRZ」の存在だと言えましょう。

天井が高くて、意匠性の高い証明と大きな窓があり、それでいてカジュアルな居心地の良さも兼ね備えている空間は、朝でも夜でも利用価値は高いものだと言えましょう。そして特筆すべきは数名担当してくれた女性スタッフが非常に朗らかで親切だったことです。白を基調とした清楚な雰囲気のワンピースタイプのユニフォームも全体が醸し出す雰囲気によく合っていました。

なおカウンターに立っているミクソロジストの男性もまた非常に気さくに飲み物をアレンジしてくれました。今回はひとりだったこともあって、時間は短いものでしたが、すっかり「UPSTAIRZ」に好印象を持ちました。

時間も少し遅かったので、簡単なバーフードでディナーの代りとすべく注文したのが、先ほどのスタッフが強く勧めてくれたフィッシュアンドチップス。酸味を効かせた万願寺唐辛子の香味と食感が面白く、淡白な白身魚にも絶妙に合います。ここにレモンを絞ってもいいし、かなり軽やかな味わいが特徴のタルタルソースを添えてみても悪くない。今宵は生のパイナップルとアーモンドを使ったフルーツカクテルと一緒に頂くことにしましょう。

部屋で少し書き物をしましたが、深夜0時を少し回ったくらいには疲れて寝てしまいました。

朝食もおもしろい

翌朝は雲が大阪の空を覆っていて、ときおり雨が降ったりしていましたが、少し待っていると、わずかに晴れ間も見えるようになってきました。身支度を整えたら昨日と同じ「UPSTAIRZ」にて朝食を頂くことにしましょう。

室内もあったけれど、今日は気温もさほど高くなかったので、せっかくだからとテラス席にて朝食を頂くことにしました。特に周辺にめぼしい景観があるわけでもなく、シティスケープを満喫するというわけでもありませんが、やはり外で食事をするというのはなんとも心地よいものです。

そういえば東京のパレスホテルのオールデイダイニング「グランドキッチン」にも、なんとも気持ち良さそうなテラス席がありますが、ここゼンティス大阪もどこかそのつながりを感じさせられました。

食感の楽しい大きなクロワッサンは焼き立てを提供してくれます。そしてウッドプレートに載せられた8品の鮮やかな前菜はどれもとても丁寧に作り込まれていて、一口ごとに満たされた味わいをもたらしてくれます。基本的には洋朝食なのですが、どこか和風な趣を強く持っていて、それが端的に現れているのが、8品の前菜とは別に提供されるだし巻き玉子でしょうか。オムレツやスクランブルエッグではなくて、あえて出汁をしっかり効かせた和風の卵料理というところに、日系ホテルらしい機転と工夫を感じられます。コーヒーも美味しいもので、満足度の高い朝食でした。

 


昼前にはホテルをチェックアウト。非常にスムースに対応してもらいました。

まだ開業したばかりのゼンティス大阪ですが、東京のパレスホテルらしいラグジュアリー感とは違った世界観を持っているホテルという印象が強いです。広い視点から見るならば、いわゆるライフスタイルホテルに分類されそうな気がしますが、そのカテゴリーにしてはやや中途半端な感を否めません。むしろこれはビジネスホテルの枠組みに対して、デザイン性やホスピタリティの高さをもって対抗するという方向性で考えるとすっきりする気がします。もちろんホテルの性格や客室設備の充実度などは異なりますが、どことなく以前に滞在した「ザ・キタノホテル東京」と似ているようにも思いました。

特筆すべきことはあまりないけれど、落ち着いて快適に過ごすことができるコンパクトなホテル。滞在自体を楽しむためには利用しないかと思うけれど、ちょっとした用事があったときに、泊まりに来ても、またきっと安心して快適に過ごすことができるだろう…そんなことを考えながらこのホテルをあとにしました。

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