シェラトングランドホテル広島宿泊記〜瀬戸内海を遠くに望む駅前の明るいホテル

春霞の東京の空はぐずついた雲に覆われて、黄味がかった鈍色の空。どこかの違う色の空のもとにある都市に行きたくなって、天気予報を調べてみたら、山陽地方から九州にかけて快晴だったので、自ずと私の目的地は絞られてきました。福岡ならば何度でも行ったことがあるから安心して行けるし、様々な美味しいものを堪能することもできるし、あの那珂川沿いを散歩するのも悪くない。しかしせっかくだったらまだ行ったことのない都市にも行ってみたい。そうこう考えを巡らすうちにいろいろな街が頭の中に浮かんできて、私の優柔不断に拍車がかかってしまいました。

いったいどこの街を訪れよう…しばらく決めかねていたときに、ふと頭の中に浮かんできたのが、中国地方最大の都市である広島。日本の八大都市圏のひとつに数えられながら、私が唯一行ったことのなかったこの街を訪ねてみたくなったのです。早速、航空券とホテルを取ったのは、旅行のために確保しておいた日の前日の夜でした。

目指すホテルは広島駅前にあるマリオット系列のシェラトングランドホテル広島。今回は急遽決めたこのホテルでの滞在の様子についてリポートしてまいりましょう。

チェックイン〜広島空港から遠回りして

今回の旅立ちも羽田空港から飛行機で。

B767に乗って雲の波のその向こうの青空へと抜けていきます。空の上から雪を戴く信州の山が見えて冬の名残を感じつつも、飛行機は西へ西へと進み、降下していくと穏やかな春の瀬戸内海の沿岸の街並み。おそらく三原と思われる街が目に入ると飛行機はファイナルアプローチ。小高い丘の上にある広島空港に着陸しました。

通常であれば、リムジンバス(50分程度で広島駅まで行ける)を利用するところでしょうが、私はここで路線バスと鉄道を乗り継いで広島市街地へ抜ける「白市ルート」を取ることにしました。

バスに揺られること15分弱でJR白市駅に着きました。小川の流れる長閑な駅でしばし電車を待ちます。このときに私とTwitterで相互フォローをしている広島在住のる〜とさんから歓迎の言葉をもらって、せっかくなので急遽夜にお会いすることになりました。急な来訪にも関わらず、そのように声をかけて頂けたことが非常に嬉しく、とても楽しい気持ちで広島の街まで向かうことになりました。

しばらくするとシルバーの新しい電車がやってきました。この周辺の言葉で会話を取り交わす様子もまた趣深く、車窓には鉄道好きにはよく知られた「瀬野八」(瀬野駅〜八本松駅間の山間ルート)が展開します。急勾配の山道をすぎると住宅街が広がりはじめ、海田市、向洋、天神川と来て、広島市民球場を超えると電車は目的地の広島駅に到着しました。

駅をでるとホテルはペデストリアンデッキを渡ってすぐの場所にあります。フロントまわりはこのように太陽の光が差し込む明るい雰囲気。このホテルは全体的にマリオットらしい明るさがあるように思います。フロントのスタッフの対応は、淡々と必要な内容を説明してくれて、過不足のない印象を与えるものでした。今回は客室アップグレードとしてコーナールームへのオファーがありましたが、ちょうど反対側の駅前の交通の様子が見える部屋に滞在したかったために断りました。

デラックスキングルーム

特にエスコートもなく自分で客室まで向かいました。このホテルのスタンダード客室である「デラックスキングルーム」ですが、高層階を割り当ててくれたようです。

客室は特に無駄な要素がなく、見通しの良い、すっきりとした印象でした。ベッドはほどほどに柔らかくマリオットらしい安定の寝心地。ただしデスクのチェアは個人的にはやや座りにくく長時間の作業には向かないように思いました。ウェットエリアもベッドエリアと一体化していて客室の数値上の広さよりも広く感じられます。

フロントでの対応と同じように、これといって感動的なものはないけれど、過不足なく欲しいものが揃っているというバランス感覚に優れているのが好ましい客室。とかくホテル好きにありがちのは、様々な期待をホテルに対して持つことですが、本来の宿泊する場所としての機能を考えると、案外使いやすくて快適のはこういう部屋なのかもしれません。

窓の向こうからは期待したように広島駅に出入りする電車やバスなどが見えて、この地を取り囲む緑とも青とも形容しがたい山の連なりや、市街地の向こうにぼんやりと瀬戸内海まで見渡せました。この景色だけでもこのホテルを選んだ甲斐があったと思うものです。

窓の横にあるこのオットマン付きのソファがこの部屋で過ごす主な場所でした。窓の外に見えるはじめて訪れる広島の街はなんだかとても新鮮で、同じ日本に住んでいても、まだまだ知らない景色がたくさんあるのだと思い知りました。そしてこの感慨は今回の旅を通じて、何度も繰り返し私の心の中に蘇ってきた感情でもあります。

バスルーム

この部屋はベッドルームとウェットエリアが一体的な作りになっていると述べましたが、トイレとバスルームは独立式になっていて、そうしたところも機能的かつ優等生的。

特にレインシャワーなどの設備はありませんが、このような独立式のバスルームというのはやはり快適に利用できるものです。色調も明るくこのホテル全体のトーンに合致しているように思います。

この客室で個人的に面白いと思ったのは、バスアメニティがスモールボトルではなくて、このように備え付けのメタリックなボトルに入っているということです。内容はおなじみの「le grand bain」で、シトロンとありますが、比較的トップにくる匂いは甘く、そのあとにさらっとした爽やかな香りへとつながっていきます。洗い上がりの質感は特筆すべきところはありませんが、万人受けしそうなものです。

その他のアメニティもコンパクトかつ過不足なく用意されていました。全体的に感じた、圧倒的な高級感はないのだけれど、非常に機能的で快適なホテルという印象はこういうところまで通底するものだと思います。

広島の「エキニシ」を歩く

夕方くらいになって、急遽会う約束をしたる〜とさんとホテルで会いました。共通の趣味であるホテルの話題も交わしたのですが、同時に彼は、生粋の広島の人で、この街について非常に詳しく、雄弁かつ丁寧にその魅力を語ってくれました。

やはり現地に暮らす人から聞くその街の話というのは、単純に得られる情報よりも、どこか生き生きとしているものです。知識としてその街について知っていても、そこに実際に足を踏み入れてみなければ、感性としてそれを理解することはできない。そんなことを考えていました。

楽しく会話をしていると、せっかくだから、ということで、る〜とさんは私を駅の近くにあるちょっと面白いところに連れて行ってくれることになりました。

路面電車も発着する広島駅の南口は再開発もあり、すっかり現代的な街並みとなっていました。そこから歩いてほんの僅かに西に行ったところに、まるでそこだけ時間が止まったような空間がありました。非常に単純に駅の西側にあるから「エキニシ」というこのエリア。狭い路地に様々な居酒屋さんや料理店が立ち並び、ローカルの方がのんびりと飲食を楽しんでいる様子が見えました。

街路によって、赤提灯が優勢になっているところ、白熱電球が優勢になっているところ、夜の街が様々な光に彩られていました。そしてそう遠くない距離には駅前の高層ビルも見えていて、そのコントラストがまたなんとも趣深い。

広島といえば、平和記念公園で平和について学ぶとか、厳島神社で知られる宮島の景色を訪ねることなどが観光の柱になる傾向があると思います。あるいは瀬戸内海の自然が育んだ美食を堪能するということも考えられます。しかし何気なくこの街を歩いてみて、そこにしかない空気を感じてみる、それだけでもこんなに楽しいものなのだと改めて気づかされたような思いでした。

このような素敵な体験をさせてくれたる〜とさんには改めて感謝申し上げます。

翌朝早く目が覚めると穏やかな朝日に照らされる広島の街。昨夜の楽しい語らいの時間など思い出しつつ、このホテルをあとにします。すっかりこの街のことが好きになっていました。

機能的で快適なホテルステイは魅力的ですが、それ以上に、旅先での思いがけない出会いは尊いものだと改めて感じた滞在でした。そもそも私はこのように自分のホテルステイを宿泊記として公開していますが、こうした活動を通じて知り合った方とお話できることは、そうした宿泊の体験を超えた悦びであることに違いありません。原点には人がある。そんなことを改めて感じさせられました。

また世界には様々な面白いところが数えきれないほどある。しかし日本でも、どんな街であっても、そこに独特のリズムのようなものがあり、特有の色合いや匂いがある。それはどこか自分の知っている街の景色に似ているようでいて、実際に足を運んでみると、まったく違うものであるという認識も新たにしました。知らない街への好奇心を満たしたくて、知らないそのリズムや色合いや匂いへの感動を求めて、私は今日もまた次の旅を心に思い描いているのだと思います。

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