グランドハイアット東京に2020年のクリスマスに宿泊するということ

サプライズプレゼントを贈る、ということについて、私はいつもドキドキするものです。

ある日、友人のひとりにそんなことを話したときに、「どうせ、自信たっぷりの表情で堂々と(察しのとおりキザっぽく)プレゼントを渡してるんでしょう?」と言われたことがありましたが、そんなことはありません。むしろついつい相手の反応が気になり、もし彼女のそれほど好きなものじゃなかったらどうしよう、とかあれこれ余計なことを考えてしまいがちです。でも同時に、うまくいったら、彼女は必ずや喜んでくれるに違いない、という確信をどこかに抱きながら、どこかのお店で素敵なものを見つけるたびに、彼女の顔が浮かんできたりするものです。それは普段の会話とか表情に出てきてしまうようで、すぐにバレてしまいます。

思い返せば、毎年のこと、クリスマスといえば、私は自宅で特にあてもなく、適当に過ごすことが多かったのです。これまでに付き合った人がいないわけではありませんが、でもなぜか距離や相性やタイミングなどの様々な問題もあって、恋人と一緒に過ごすクリスマスという経験はこれまでしたことがなかったのでした。

2020年の12月24日…私はパートナーとグランドハイアット東京にいます。しばらく前に、ふたりが好きなフランス料理を食べて、好きなホテルで一緒に過ごそうと予約を入れておいたのでした。グランドハイアット東京は、私にとって、色々な「はじまり」を連想させる場所なのですが、果たせるかな、これが私にとってはじめてのクリスマスステイとなったのでした。

私はパートナーとの待ち合わせよりも少し早くグランドクラブにてチェックインを済ませます。スタンダードスイートはほぼ満室のようでしたが、私が着いたときにはラウンジにあまり人がいませんでした。ささやかなクリスマスの飾り付けもかわいらしく、いつもより少しだけ華やかな気持ちで手続きを進めます。

事前に用意しておいたフラワーアレンジメントとキャンドルを部屋に入れておいてもらうことにして、部屋の段取りをお願いしたところで、パートナーがロビーに着いたという連絡をもらいました。

部屋の準備が整うまでのあいだ、ディナーのことも考えて、軽めのランチを取ることにしました。今日は和食の「旬房」でカレーうどんを頂きます。ロビーには早くも待ち合わせをしている人たちがたくさんいた…そんな話をしながら、開放的な空間で食事をしていると、スタッフが「部屋の準備が整いました 」と、席まで鍵を持ってきてくれました。

現代的なデザインのスタンダードルーム。この部屋に来るたびに、東京に数あるホテルのなかで最も好きなスタンダードルームはどこかと聞かれたら、私はここの部屋と答えたいと思います。ラグジュアリーホテルとしてはやや狭めなのですが、落ち着いた雰囲気やベッドの心地よさ、そして機能性の高さにおいて実に快適に過ごせると思います。またさりげなく、高すぎない高さから六本木ヒルズの向こう側に眺める東京タワーも好き。

相変わらず居心地の良い部屋だよね、とパートナーと話していました。

ここで私は事前に買っておいて、スタッフに部屋に置いておいてもらったプレゼントを「サプライズ」として渡しました。ニコライバーグマンのフラワーアレンジメントとディプティックのアロマキャンドル。ルイ・ロデレールは一緒に飲もうと、前に音楽会にふたりで出かけたときに買っておいたものでした。

実を言うと、本当のプレゼントを別に用意しておいたのですが、思うところあって、いまこのタイミングでは渡しませんでした。最初に書いたように、私はどうもサプライズが苦手なのです。というか、かなり顔に出てしまうために、うまく誤魔化すことができないのです。そこで本当のプレゼントは渡さずに、ライトなものを事前に渡すことで、会話や私の表情にプレゼントのことが出てこないようにしたのでした。

彼女は心からの嬉しそうな表情を浮かべてくれていました。私はその表情をみて、嬉しい気持ちと同時になんだかちょっともどかしい気持ちでした。窓の外にはいつものようにこの部屋からの午後の東京タワーが見えていました。

しばらくしてからグランドクラブに戻ります。今度はパートナーと一緒に。ホリデーシーズンの特別メニューとして出されているシュトーレンとマシュマロを入れたホットチョコレート。まだあまり人も多くなくて、ゆっくりとしたムード。馴染みのスタッフにも挨拶をして、ほっと一息つきました。

部屋に戻ってからしばらくすると日がだんだんと暮れてきました。展望台のあたりにハートマークが点灯した東京タワー。何度となくこの部屋から眺めるこの光景ですが、クリスマスイブに見るのは初めてです。去年の冬などは夜景を眺めるような精神的余裕がなかったことを考えると、なかなか感慨深いものがあります。もちろんいまは社会情勢が余談を許さない状況ですが、来年には状況も落ち着いてくることを願わずにはいられません。そして再びこの綺麗な景色を心置きなく眺めたいものですね。

パートナーと共に乾杯!

いま、この瞬間をふたりで過ごせることに感謝しながら。

ちなみに今日はルイ・ロデレールがこのラウンジにも用意されていたのです。我々が買ったものは、またどこかのホテルに滞在したときの楽しみに取っておくことにしましょう。今日はここであまりたくさん食べるわけにはいきません。前からずっと行きたいと思っていたフランス料理のディナーコースを予約してあるので。

今日はタクシーで代官山へ。今宵は「メゾン・ポール・ボキューズ」のフランス料理を頂くことにしましょう。ゴー・ミヨによるヌーヴェルキュイジーヌの旗手のひとりとして知られ、2018年に亡くなるまで50年に渡ってミシュランの3つ星を維持した名シェフの名前を冠したレストラン。現在この店は「ひらまつグループ」との提携となっていて、同グループのファンで、なおかつフランス料理が好きな我々も、一度は行ってみたいと思って、今回のクリスマスディナーの予約を取ることにしたのでした。

モダンな外観の建物の階段を降りていくと、いきなりアール・ヌーヴォー調のロマンティックなインテリアの空間が広がり、時代と場所に対する認識がどこかに行ってしまうような感覚を得ます。丁寧であたたかい応接のスタッフに誘われて席へ。

アミューズに出されたトリュフを盛り込んだヴィシソワーズ。平目とオマール海老にほうれん草とモリーユ茸のフリカッセを添えて、ソース・アメリケーヌで仕立てたリッチな一皿。赤ワインソースと林檎のキャラメリゼで濃厚な味わいの牛肉にさっぱりとした余韻を持たせたメインディッシュ…そうした全体的にクラシカルな印象を持たせるコースの内容でしたが、我々がもっとも感動したのは、こちらのスープ。

1975年にエリゼ宮にてV.G.E.に捧げたトリュフのスープ。

当時のヴァレリー・ジスカール・デスタン大統領に捧げられた、ポール・ボキューズ氏の極めて有名なスペシャリテですが、やはりその名声に違うことのない美味しさでした。じっくりと丁寧に深みのある味わいに仕上げられたコンソメ。そのなかに牛肉、フォアグラ、角切りの野菜、そして黒トリュフの豊かな風味と香りが閉じ込められていました。上に載せられているパイ生地を取ったときに昇ってくる芳醇な香りを楽しみながら、生地をスープに浸して味わうとき、とても満たされた気持ちにさせられます。

ピスタチオやホワイトチョコレート、そしてカシスのソルベを使ったデセール・ド・ノエル。ハーブティーや小菓子と一緒にこれを味わうとき、あたたかい空気感に浸ることができました。ふと、まわりを見渡すと、年齢の幅は様々ですが、カップルがそれぞれの時間を楽しんでいる様子でした。

レストランをあとにして、部屋に戻ってきました。日頃の感謝の気持ちや今日を一緒に過ごせることの喜びを感じていたら、彼女から思いがけずサプライズプレゼントを貰ってしまいました。本人は「本当にささやかなもの」と言っていましたが、私がちょうど欲しかったもので、前日に「いいな、これ」と思っていたものでした。

一体どうして私の欲しいものを探り当てるのかわかりませんでしたが、とにかく嬉しくて、うっすらと涙が浮かんでくる感覚がありました。東京タワーの光が華やかに、でも、もうすぐ幸せだった1日が終わってしまう。そのあたたかな気持ちと切なさのあいだを心は往還していました。彼女はいったいどんな気持ちでこの景色を眺めていたのでしょうか。

クリスマスの朝が訪れました。少し早起きをした窓から眺める空の向こうに日の出がみえて、とても爽やかな気持ちになりました。ここで隠しておいた本当のプレゼントをさりげなくパートナーの枕元に置いておきます。気づいてくれるかな、喜んでもらえるだろうか…などと思いながら、寝ぼけた目線を天井に投げていました。

小一時間ほど静かな時間が流れました。ようやく彼女が目覚めて、プレゼントに気づいてくれたとき、とても驚いて、また表情豊かに嬉しさを表現してくれました。私はそんな様子を眺めて、またうっすらと涙が浮かんでくるような嬉しい気持ちでした。

朝食を取った後は、ふらりとウインドウショッピングなどをしながら過ごしました。時間が経つのが早い。今年は特にそう思うことが多いような気がします。彼女と一緒に過ごせる時間の短さを想像します…そうすると、つまらない意地を張ったり、好きな気持ちを押さえて出し惜しみをしたり、過ごせる時間を限ってしまったりすることなどはあまりにも勿体ない気持ちになってきます。もっと素直に…いつもそう思うのです。

グランドクラブでチェックアウトを済ませて、ふたりでアイスクリームを食べながら、今朝と同じように太陽が空を赤く染めるさまを眺めていました。年が明けたらまた絶対にここに来よう。そう話しながらこのホテルをあとにしました。

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