ウェスティンホテル東京に来るのも久々です。そもそもなぜこのホテルに滞在することになったのか、ということから話を始めることにしましょう。
クリスマスシーズンには様々な定番と言えるものがあります。オペラであれば、フンパーティングの「ヘンゼルとグレーテル」であったり、プッチーニの「ラ・ボエーム」だったり、あるいはバレエでいえば、やはりチャイコフスキー作曲による「くるみ割り人形」はすぐに連想されるでしょう。今回は新国立劇場でのバレエの公演チケットが入手できたので、せっかくだから、その雰囲気に似合うようなホテルに泊まりたいという話が持ち上がり、恵比寿のウェスティンの部屋を取ることにしたのでした。華やかな舞台を観て、そのムードに浸って、その余韻をホテルで味わう…そういうホテルステイのあり方も決して悪くないものだと思うのです。
年の瀬のウェスティンホテル東京。恵比寿ガーデンプレイスの絢爛な雰囲気を横に眺めながら、ホテルでゆっくりしながら、バレエ鑑賞の感想を語り合いました。
チェックイン
新国立劇場で「くるみ割り人形」の公演を見終えた我々は、ひとまずホテルに向かうことにしました。今回はマチネーだったので、車でホテルに着いたのは夕暮れが迫る頃のことでした。
ホテルの車寄せに停めると、スタッフが案内してくれたので、バレーパーキングサービスをお願いすることにしました。日曜日ということもあって、ロビーにはチェックアウトする人たちとチェックインする人たちが入り混じり、クリスマスの装飾がなされたガーデンプレイスを観にきたと思しき人たちもホテルに足を伸ばしてきていたようで、かなり混雑していました。
2年前の年明けに、ひとりでじっくり観ていたアンピール様式のロビーも、今日はクリスマスの飾り付けがなされて、その華やかな色合いをさらに強めていました。ああ、あれから2年経ったのだな…と、人々の喧騒の中に、静かに自分の声が響いていました。
スタッフはてきぱきと手続きを進め、我々にカードキーを差し出します。さっそく部屋に向かうことにしましょう。
デラックスルーム
重厚な雰囲気のエレベーターホールを抜けて、高層階へ。今回は東京タワービューのデラックスルームです。
デラックスルームという名前で誤解されるかもしれませんが、このホテルの標準的な客室です。全体的にヨーロピアンクラシカルとでもいうべき重厚な雰囲気。現代的なビルの中に、このような「こってり」とした世界観を作り上げているのは、一周まわって新鮮な感じさえします。バレエの演出もおそらく様々なアプローチがあることでしょうが、今回は、非常にクラシカルな雰囲気のものであり、そのことを考えてもこの客室やホテル全体の雰囲気ともよく響き合っているように思われました。
ウェットエリアはやや狭く、バスルームも独立式ではなく、シャワーブースと分離されて置かれています。もっとも使い勝手はそれほど悪くなく、ブラックタイルとメープルウッディな調度品など客室全体との統一感に優れていて、ムードを崩されることがないのは特筆すべきところです。水圧はやや弱めでした。
以前にもリポートしたことがありましたが、バスアメニティはウェスティンオリジナルのホワイトティの香り。非常に上品で大好きな香調です。
公演の余韻に浸り、ヘブンリーベッドに安らう
部屋に入ってほどなく、私は無性にチョコレートケーキが食べたくなりました。しかしロビーエリアの混雑からも推測されるように、すでに1階のペストリーショップでは売り切れ。そこですぐ近くのガーデンプレイスに入居しているジョエル・ロブションのショップで、キルシュ漬けのチェリーの入ったモンブラン型のチェコレートケーキを買ってきて、部屋で食べていました。
夕暮れの迫る東京の街並み。付近は閑静な住宅地ということもあって、あまり高層の建物もなく、開放感のある景色が部屋の窓の向こうに展開します。我々はソファに腰掛けながら、ひとつのケーキをふたりで分けながら夕食までのおやつにしました。
私はホテルステイをすると、しばしば午後から夕食の前くらいまで持ち込んだ仕事をすることがありますが、今日はふたりでゆっくりお茶をしながらおしゃべりしています。今日の公演のことや演奏のこと、前にここに泊まった時のこと、最近あったこと…色々な話をしていたらあっという間に夜が迫ってきました。
まだ人で混み合うロビーからタクシーに乗り込みます。今夜はバレーサービスで預けた車は置いて、ふたりでお酒を酌み交わすことにしましょう。南青山のビストロ・ブノワへ。かわいらしいインテリアの中で気軽なフランス料理を味わいながら、乾杯。デザートまでひたすら語り合うディナー。ほどよく酔いがまわってきたところで、ブランデーがひたったババに、バニラクリームをもりだくさんにかけて締めます。
あたたかな夕食のあとに青山に吹き抜ける風は冷たくて、どこか寂しく、それがいっそう誰かと一緒にいることのあたたかさを際立てていました。
ガーデンプレイスのイルミネーションを見るとこもなく、部屋に戻ります。あたたかい部屋の向こうに寒色の夜の東京タワー。窓の向こうの喧騒をイメージしながら、部屋の中はひたすらに静かでした。
このコントラストにあくびをひとつ。
ゆったりとしたあたたかな空気に包まれました。
お風呂に入って、ほどなくしたら、柔らかなベッドに横になりたくなってきます。窓に目を向けると、ガラスはくもっていて、夜の光がぼんやりとしていました。
Twitterなどでときどき見かける名高きヘブンリーベッド。横になり、今日あった様々なことに思いをめぐらします。そういえば前にもこのベッドで横になって、随分と心地よく寝られるベッドだな、と孤独な気分で思ったな…メロディーと共に華やかな舞台の様子が脳裏に浮かんでくるころには、夢かうつつかという気分。
今日は本当にパートナーと一緒に過ごせて嬉しかった。
灯りを落として眠ることにしましょう。
朝食はホテルの1階のブッフェに行くということも考えました。しかし、やや混み合っているような気がしたし、ちょっと外に出かけて美味しいパンケーキを食べたいと思って、車でちょっと走って代官山のアイビープレイスへ。ランチタイムやティータイムともなるとそれなりにたくさんの人で賑わっている店ですが、朝のこの時間は、程よく静かで落ち着きます。
ミルク感たっぷりのパンケーキに甘さ控えめのメープルシロップをかけて、熱いコーヒーと一緒に頂きます。絶妙に火を入れられたベーコンとソーセージが良いアクセントになっていました。
食後は隣接する蔦屋書店で本を買います。読書家のパートナーと一緒に本屋に行くと、彼女が私では思いつかないような素敵な本を見つけ出してきて、感嘆させられます。
買ってきた本を部屋で読みながら、午前中から昼のひとときをゆっくり過ごします。今日は少し早めの時間にチェックアウト。今日も徐々にホテルに人が集まってきているようでした。
バレエ鑑賞をして、ホテルに泊まるという楽しみ方。もしかしたらウェスティンである必要性はなかったのかもしれませんが、やっぱりウェスティンでよかったという気もします。そういう曖昧な気分になったのは、こうして思い返せば、なんだかすべてが夢のような時間であったからでしょうか。不思議なストーリーのバレエの余韻と共に、このホテルをあとにしました。