韓国の首都ソウルは中心を東西に流れる漢江を隔てて、南北に都市部が分かれています。北側は明洞などの繁華街や景福宮や仁寺洞に代表される歴史的な景観が連なり、アジアの都市らしい混沌とした雰囲気があります。もう一方の南側は現代になってから開発が急速に進んだ地域であり、ソウル市の新しいエネルギーが渦巻くエリアといえましょう。
ハイアットに関して言えば、北側にはグランドハイアットソウルがあり、南側にはパークハイアットソウルがあります。どちらも繁華街からは遠いところにあり、グランドハイアットに至っては、南山という山の中腹にあり、眺望はいいし周辺は閑静なのですが、どこにいくにもやや不便という印象が拭えません。
さてそうしたなかで2019年の9月に開業したのが、高級ブティックホテルである「アンダーズソウル江南」(Andaz Seoul Gangnam)です。日本でも東京の虎ノ門にすでに同ブランドのホテルがオープンしており、すでにこちらのページでもご紹介したことがありました。またその他のアジアの地域でも上海新天地やシンガポールにもあり、そのモダンかつどこかナチュラルな世界観をもって、個性的な存在感を放っています。
私は東京虎ノ門の「アンダーズ東京」は開業当初から大好きで頻繁に訪れてきており、日本からすぐにいけるソウルで同ブランドがオープンするということで、心待ちにしていたのです。8月の終わりくらいにオープン日が明らかになり、今回開業直後に弾丸旅行をしてきました。その様子をリポートしてまいります。
エントランスの雰囲気
アンダーズソウルは地下エントランスがソウル地下鉄の狎鴎亭駅に位置しており、雨に濡れずにアクセスすることもできます。私は空港からタクシーで…まだホテルの知名度は高くないようなので、狎鴎亭駅と指定した方が賢明なようです。
車寄せから入ると、左手にかなりモダンなフラワーショップがあり、正面にはスクリーンに大きく表示されるAndazの文字。このスクリーンには「アンダーズソウル」のイメージ映像が流れており、また大音響でクラブミュージックがかかっているなど、とても賑やかな雰囲気です。もちろん世界観の作り方などはまったく異なるのですが、ふと以前に滞在したマリオット系の「W」を彷彿とさせるものがありました。
エントランスから入るとすぐにバーカウンターのようになっており、奥の方には、アンダーズラウンジがあります。「アンダーズ東京」の場合とは異なり「ラウンジ」でのフリードリンクの提供は今のところないようです。その代わりにゲストは「レセプションカウンター」を利用することができるようになっています。
こちらがレセプションカウンターです。やや手狭な印象がありますが、これはオープン間際で見学客がそれなりにいたことと、壁面のほとんどで映像が流れているために、実際のスペース以上の圧迫感があるためだと思われます。このややもすると煩い演出は好き嫌いが分かれそうです。
モダンなホテルを作っても、他のホテルチェーンに比べると控えめな演出が多いHyattが、このような雰囲気に仕上げたのは意外性があって、個人的には悪くないと思いました。ただし同じソウルのHyattでもパークハイアットソウルのフロントエリアの方が、Hyattらしい洗練と落ち着きを同居させた高揚感が味わえるとは思います。
なおレセプションカウンターの上は2階まで吹き抜けになっており、2階にはレストランの「Jogakbo」があります。アンダーズソウルの唯一のレストランですが、朝食もこちらで提供されます。またフランス料理やグリル料理と韓国料理の技法をミックスしたフュージョン料理を楽しむことができるようになっているようです。今回は朝食しか利用しませんでしたが、ランチやディナーも面白いかもしれません。
なお天井にはこのようなオブジェがあります。アンダーズ東京のメインダイニング「タヴァン」を訪れた方はご存知かもしれませんが、似たようなオブジェが天井にあります。
チェックイン+グローバリスト特典
レセプションラウンジでチェックインに移りましょう。
ゲストにはこのようにウェルカムドリンクが提供されます。コーヒーや紅茶などの他には、ソフトドリンクの提供があります。私はペリエをお願いしました。スタッフの方たちは伝統的なホテルのスタイルと比べて、かなりフランクな雰囲気です。このあたりは他のアンダーズにも共通するところかと思います。
とても感じのよい方たちで、オープニング直後にありがちな混乱も特になく、スムースにチェックインを終えることができました。
グローバリスト特典は?
さてこのホテルのHyattグローバリスト特典ですが、以下のような内容でした.
- 16:00までのレイトチェックアウト
- 客室アップグレード(アンダーズスイートまで)
- メインダイニング「Jogakbo」での朝食
- スパ施設の利用が無料
もちろんボーナスポイントなども通常通りにもらうことができます。このホテルにはクラブラウンジがないので、その代替的なサービスの提供は特にありません。例えばパークハイアット東京だと「ピークラウンジ」でのカクテルタイムを利用できたりするので、こちらでもなんらかの代替的なサービスが提供されてもいいような気はします。
とはいえ、スパ施設へのアクセス権がもらえるのはありがたいものです。また後でご紹介しますが、Jogakboの朝食も充実しているために、特に不満はない内容かと思います。
次に客室の様子を見てまいりましょう。廊下もまだ新築のにおいがしました。
客室の様子:アンダーズスイート
カードキー式のエントランスを入るとパステルカラーのリビングルームです。
ムービースクリーンとクラブミュージックで煌々とした雰囲気のロビーエリアとは対照的な落ち着いたインテリアです。白木のフローリングも淡く優しい雰囲気を醸し出します。ソファも大きいのですが、テレビもかなり大型のもので迫力があります。
最初に「Wホテル」のような雰囲気を持ったホテルといいましたが、あちらが客室内までアップテンポな雰囲気であったのに対して、こちらはあくまでもナチュラルで落ち着く雰囲気。ホテルらしい非日常感はありませんが、案外ゆったりとくつろげるのはこういう空間なのかもしれません。
リビングルームの端にはぽつんと大理石の丸テーブルが置かれています。サイズもそれなりにあり、使い勝手は悪くありません。ただし部屋の端にあるので、すこし圧迫感を感じるかもしれません。
こちらはウェルカムスイーツのミックスナッツタルトです。
客室の雰囲気にも合ってると思います。味は特別に感動することはありませんでしたが、それぞれのナッツの持つ香ばしさや余韻がしっかりと残っていて、丁寧さを感じさせるものでした。
テーブルの反対側にはこのような収納式のコーナーがあります。アンダーズの特徴のひとつには、客室内のお菓子やソフトドリンクが無料ということが挙げられますが、このコーナーの左側のお菓子はすべて無料です。食べ終わるとしっかりと補充されていました。
冷蔵庫のなかのラインナップはこのような感じ。ビールやリキュールなどは有料ですが、ミネラルウォーターやソフトドリンクは無料。サンペレグリノやアクアパンナなどのミネラルウォーターが個人的には嬉しいところです。なおこれらに加えてホテルオリジナルの軟水のミネラルウォーターも用意されています。
紅茶はTWGのものが用意されており、コーヒーはネスプレッソ。陶器のティーセットやコーヒーカップ、また螺鈿が施された箱などその土地に根付いた文化的なものが上手に取り入れられています。こういうアイテムは浮いてしまいそうなところですが、このモダンな空間によく合うように選ばれていて、センスの高さを感じさせます。またスリーブのついた持ち出し用のカップもあります。
なお周辺マップもこのように手書き風のおしゃれなものが用意されています。ざっと狎鴎亭や江南エリアの雰囲気を掴むくらいしかできず実用性はほとんどありませんが、このような手書き風の地図も含めてアンダーズの世界観なのだと思います。
ベッドルームも見てみましょう
リビングルームの奥にはベッドルーム。
このようにテレビボードを挟んで、左右両方に扉があるというつくりのスイートルームは他のエリアのハイアットにも共通してみられるつくりです。このあたりは伝統的な客室の文法に則っているようです。
ベッドルームの背後はペールグリーン。カーペットやソファーが落ち着いたイエローやブラウン。またテーブルはビリジアン。パステルカラー調ながらかなり個性的な色合いのベッドルームです。ベッド自体はハイアットらしく清潔感の真っ白なベッド。
寝心地もハイアットの標準的な低反発のもの。固すぎず柔らかすぎないバランス感覚にすぐれたものです。ただしいかにもホテルらしい柔らかな寝心地を求める方には物足りないと感じるかもしれません。それから最新式の空気清浄機も置かれていました。
ベッドサイドの構成はハイアットの標準的な文法にしたがっています。マルチタイプのコンセントやUSBポートも十分な数が用意されています。
バスルームの雰囲気
ベッドルームの奥の方にバスルームがあります。
白木のフローリングに真っ白な楕円形のバスタブ。石の持ち味をいかしたツインシンクタイプのベイシンなどかなりおしゃれなバスルームです。この雰囲気には妻もとても感動していました。壁面はすべて鏡になっており、ライトもかなり明るいもの。座りながら身支度を整えられるように丸椅子も用意されています。
バスタブの右側には奥行きのあるガラス張りのシャワーブースがあります。栓や手すりがブラックなのもとてもおしゃれだと思います。
ハンドシャワーとレインシャワーの両方が備えられていますが、水圧はレインシャワーの方が強いです。これはレインシャワーの水圧がしっかりしているというよりも、ハンドシャワーの水圧が比較的弱いためです。特に不便を感じるほどではありませんでしたが、ホテルでは高圧洗浄のごとく髪や体を洗い流したい方には物足りないと感じられるかもしれません。
バスアメニティはChrisophe Laudamielというブランドのもの。ホテルの位置する「ソウル」をイメージした香りやハーブ由来の原料をつかったもののようです。フローラル系のやわらかな香りでリラックスできるのでなかなか優れた使い心地です。ただしシャンプーやコンディショナーの洗い上がりの感じは個人的にはさほどしっくりこなかったように思います。
その他のアメニティはこのように箱の中に綺麗に収められています。このあたりはアンダーズ東京にも共通しています。なおドライヤーは最新式のもので、風圧も強く使い勝手がすこぶる良かったのが印象です。
なおトイレは客室の入り口付近とバスルームの手前の2箇所に独立してあります。最新式のウォシュレットが用意されており快適そのもの。もちろんこれだけではありませんが、これだけでも高い評価をつけたくなるものです。
客室全体の印象
アンダーズソウルの客室は今回は運良くアンダーズスイートにアップグレードされたのですが、Webページを見る限りインテリアコードや備品などのアイテムは他の客室でも共通しているようです。この雰囲気であれば多少コンパクトな客室であっても十分に快適に過ごせるのではないかと思いました。
刺激的な雰囲気のロビーに対して客室の雰囲気はとても落ち着いていて快適です。ただし今回のスイートは高層階だったのですが、眺望は悪くはありませんがさほど満足のいくものとはいえません。一応周辺の高級住宅街や百貨店が見え、遠くに漢江や南山が見えますが、迫力のある景色とまではいかないと思います。同じソウルのハイアット系であれば、パークハイアットはフルハイトウインドウから眺める大きな通りの光景を見ることができ、またグランドハイアットは山の上からソウルの街を見下ろすことができるので、眺望を求める場合はそちらを選ぶ方が賢明といえましょう。
客室のインテリアの洗練度はやはりパークハイアットに軍配が上がると思いますが、おしゃれで落ち着くのは圧倒的にアンダーズの方だと思います。パークハイアットはロビーエリアなどが落ち着くのに対して客室は刺激的な雰囲気。他方でアンダーズはロビーエリアが刺激的なのに、客室は落ち着くというのが対照的で面白いところです。
アンダーズソウルの魅力は他にもレストランやプールなどもありますが、そのあたりについては次の記事でリポートしてまいりたいと思います。