今回のホテルステイのきっかけ、私が仕事上でちょっとした良いことがあったので、そのお祝いにパートナーがサプライズでアレンジしてくれたランチタイムでの会話でした。
パークハイアット東京のニューヨークグリル…夜はときどき行きますが、ランチタイムはお互いに行きたいと思いつつ、なかなかその機会を持てずにいたこのお店。4月も中旬になって段々と毎日の生活リズムが固まってきたある日のこと、私の仕事の空き時間についにふたりで行くことが出来ました。久々に再開したランチブッフェ。ここは本当に料理の質が高く、それでいて、好きなものだけを選べるので、好き嫌いの多い祖母や母でも満足できる。そんなわけで家族でよく出かけていたのですが、彼女とふたりで行くのはどこか新鮮な感じがしました。
好きな人と好きな場所で好きなものを好きなだけ。もちろんコース料理なども素晴らしいのですが、この適度にカジュアルな雰囲気も心地よい。彼女は食後に特別にプレゼントとデザートを用意してくれていました。少し表現が抑制的ながらもとてもあたたかい、いかにも彼女らしい書き方の手紙も渡してくれて、とても心を打つものがありました。
慣れない新しい環境でも前向きに頑張ろうという気持ち。そして、ふたりで会える時間を大切にしたいという気持ち。
そうしたなかで、実に自然な流れで、今度空いている時間にホテル予約してゆっくりふたりで過ごそうということになりました。
デザートと紅茶を飲みながらあれこれと候補を出し合っていましたが、最終的に行き着いた結論は、フォーシーズンズに泊まろうということでした。丸の内という選択肢もありましたが、まだメインレストランが開いていないこともあり、大手町の方に泊まることにしたのでした。また、久々にレストラン「ピニェート」でイタリア料理を食べたいということでも、ふたりの意見が一致しました。
思い返せば今年になってから初めてのハイアット以外の都内のホテルステイ。今日はそのときのことについてリポートしてまいりましょう。
チェックイン
昼前に彼女を家まで迎えに行きます。外は小雨が降っていました。今日はあまり油っぽいものは食べられそうにない。彼女はそう言います。そこで今日は久々のホテルオークラの和食「山里」で簡単に寿司を頂くことにしました。
少なめにおまかせで握ってもらいます。ぴりっとした清潔な雰囲気。天気のせいなのか、平日の昼だったせいなのか、店内はかなり静か。ひとつひとつをしっかりと味わいながらも、さらっと食事を終えました。この速やかさもま良いものです。
昼食を終えると、そのままホテルに向かうことにしました。この頃には雨足も強まっていたし、どこかに寄り道するよりも、ホテルでゆっくりと過ごした方がいいだろうと思ったのでした。バレーサービスに車を預けてからロビーへ。ベルスタッフが前に我々が泊まりに来たときのことを覚えていて、にこやかに「おかえりなさいませ」と言ってくれたのも、なんだかあたたかい気持ちになりました。
賑わうロビーラウンジを横目に見ながら、ダイナミックな天井とこの季節らしい青々とした飾り付けが印象的なフロントでチェックイン。落ち着きと躍動感が見事に同居する雰囲気はさすがと思わされます。思えば私は、開放感と安心感の両立がうまく行っている場所が好きなのかもしれません。
スタジオルームに泊まる
今回の滞在は、角部屋にあたる「スタジオルーム」という部屋。チェックインのときに、北向きの高層階の部屋か、南向きの低層階(とはいえ高層)の部屋の希望を聞かれたのですが、後者を選びました。北向きであれば、周囲にさほど高層の建物もないので、東京スカイツリーを綺麗に眺められるということでしたが、なんとなくビルが林立しているあたりを眺めたい気分だったのです。
扉を開けるとやや眺めの通路があり、その奥がベッド&リビングルーム。フルハイトウインドウが二面に大きく展開していて、開放感は抜群。なんだか高層ビルの林立するなかに浮いているような感覚を覚えます。春らしく外には非常に粒の細かい雨が降っていて、見通しは悪いのですが、それがむしろ神秘的な雰囲気に感じられてきました。
デザインは大きなブルーの布を広げたような大胆な壁面。カーペットの柄も含め、全体的に流動的な雰囲気があります。一方でベッド下のライトは暖色でなんだか落ち着きます。寒色と暖色。開放感と落ち着き。本来相容れないように思われるものが同居する空間。それこそがこのホテルの際立つ魅力のひとつといえるでしょう。
オットマン付きの椅子。ロングデスクに乗った大型テレビ。コンテンポラリー・ラグジュアリーの世界観。大胆で強い個性があるようでいて、どこか控えめな印象もある。アジア系のホテルのような明確な世界観が打ち出されているわけでもなく、そうかといって、単なるクラシカルやモダンという言葉では捉えきれないなにかを感じさせられます。固定的な特徴があるのではなく、位置する場所の空気感と響き合いながらも、あくまでも孤高の存在感を持ったホテルが合わさって、フォーシーズンズというホテルの全体のイメージを作り上げているような気がします。
大手町と丸の内。ふたつの東京のフォーシーズンズを例に取ってみても、いかにもこれはと言えるような、共通項は意外と見つけられないように思います。でもふたつのホテルに泊まると、やっぱりなんだか同じような気がする…そんな雰囲気を感じ取れることでしょう。
スタジオルームのウェットエリア。独立式のバスルームではないものの、ビューバスとなっています。ベイシンはダブルシンクで全体に明るくて使いやすいものでした。なお左手にはレインシャワーとハンドシャワーを備えたシャワーブースがあります。
バスアメニティはフレデリック・マルの「オー ドゥ マグノリア」が用意されています。甘さがありながらも爽やかで品の良い香り。何を隠そう私はここでこの香りに出逢い、すっかり気に入ってしまって、即座に香水を入手してしまったほどでした。
窓に面したテーブルには、ウェルカムスイーツとしてマンダリンオレンジとチョコレートが用意してありました。手前側に鎮座しているのは当地の風物詩となっていたカルガモ。このホテルではリネン交換のリクエストを伝えるアイテムとして利用されています。本当のカルガモは、この地域の再開発が終わる来年くらいにはまた住めるように緑地帯が整備されるようですね。
我々もチェックインしてから少しだけ甘いものをと思って、このチョコレートを分けながら頂きましたが、じつにまろやかで美味しいものでした。部屋に用意されている和紅茶やほうじ茶を飲みながら、ビルの谷間にシルクのように降り注ぐきめ細やかな雨を眺めていました。
プールで泳ぎ、ピニェートでピザを食べる
じつに静かで穏やかな贅沢な午後でした。外に出かけることもなく、ただ雨の降りしきるなかで、ふたりでなにげない時間を過ごす。ほどなく時間が経ち夕方の少し前くらい、「今日はプールにでも行こうか。」…そう言ってバスローブに着替えて、専用のエレベーターに乗って、スパ・フィットネスに向かいました。
アップテンポの音楽が流れ、東京の街を見下ろすこのプールの開放感はとても素晴らしいものです。外は曇り空でもギラギラと鈍い光を放ちながら刻々と表情を変える水面。泳ぐと水中でも音楽がくっきり聞こえます。そしてつるつるとしたメタリックな材質。これは面白い。
我々の他に誰もいなかったので、ふたりでちょっと泳ぎの競争をしてみたり、ジャクジーで水流を楽しんだりしていました。少し泳ぎ疲れたらプールサイドのデイベッド(これがまた気持ち良い)で休憩。大手町というビジネス街の真っ只中ですが、ここはまるでリゾート地にいるような感覚になります。プールで泳いだあとは併設のスパエリアに。ビューバスやレインシャワーやミストサウナがありとても快適です。
ディナーはホテル内のレストラン「ピニェート」でイタリア料理を頂くことにします。パートナーも私もモクテルを注文。最近はアルコールなし。私は洋梨の入ったレモネード、そして彼女はストロベリーモヒートを。私は本当はキノットが飲みたかったのですが、今はないようでした。しかし爽やかな甘さがはじける美味しいモクテルをふたりで飲んでいると、そのことはどうでもいいことのようにも思えました。
マグロのサラダからはじめ、イカ墨とアサリのパスタ、そしてずっと食べたかったマルゲリータ。とてもシンプルなのに、柔らかな小麦の味わいが深く広がっていく生地に、絶妙なトマトの酸味と清純なモッツァレラチーズのコク。お腹はけっこういっぱいになっているはずなのに、それでもあともう1枚注文したくなってしまうほどに美味しいものでした。
雨の夜、そして快晴の朝へ
すっかり満腹となって部屋に戻ることにしました。じつは食後にちょっとしたすれ違いが起こってしまったのですが、お互いが自分の想いを話したことでわだかまりはすぐに解けました。いつものように穏やかに話しながら向き合ってくれた彼女に感謝したい気持ちでいっぱいになりました。
雨はまだ降り続いていました。思い返せば、彼女とは、これまで、お互いの想いがうまく伝わらないことでもどかしい気持ちになったことは何度かあったものの、ひろくイメージされるような喧嘩になったことはなかったな、と思い返します。私が彼女のことを尊敬している数多い理由のひとつは、決して悪口を言わないことです。ときどきネガティブになったり、落ち込んだりすることもあるけれど、いつも前向き。
ふと去年の今頃のこと。そして出逢ったばかりの頃のことなど思い返していました。
パートナーがお風呂に入っているとき、部屋の灯りを落として、東京の夜景を眺めてみました。雨足は弱まって静かな22時。開放的な二面窓の向こうに見える景色はいつもよりも色鮮やかに見えました。空に虹は見えないけれど、東京タワーのライトアップがそれを感じさせるものでした。近くに目を転じれば夜もオフィスで働く人の姿。なんだか頼もしく感じます。私もこの滞在を終えた翌日は早朝から仕事。でもいまはひととき忘れましょう。
彼女がバスルームの扉を開くと活力をもらえるような柚子の香り。アメニティのバスソルトを入れていたようです。それでは私もビューバスで夜景鑑賞の続きといきましょう。
翌日、目が覚めると、抜けるような綺麗な青空。シェードを上げて眺める雨上がりの東京の朝は気持ち良いくらいに清々しい。寝ぼけた気分もどこかに飛んでいってしまいました。明るい光の差し込むウェットエリアで身支度を整えて朝食に向かうことにしましょう。
それにしてもスタジオルームの開放感は素晴らしいものがあります。スタンダードな部屋でも十分すぎるほどに快適なこのホテルですが、この眺望のために再びこの部屋に戻ってきたい気持ちになります。
フレッシュフルーツにグラスフェッドヨーグルト。金柑のデニッシュも嬉しいペストリー。ここで青空を眺めながら頂く洋朝食は他には変えがたい魅力があります。なお卵料理は選択できるようになっているのですが、彼女いわく「今日の気分はエッグベネディクトでしょう?」と、私が口にする前に見事に当てられてしまいました。なんとなく考えていることがわかるようです。また私自身もずっと気づいていなかったあるクセも指摘されて赤面。
なおエッグベネディクトは添えられているジューシーな2種類のソーセージやダイスカットのポテトとも相性が良く、軽やかで優しい味わい。文句なしに満足できる朝食であったと言えます。
朝食のあとのコーヒーはテラス席でいかがですか?というスタッフからの提案に促されて、外の席へ。実に開放的な眺めです。そして雨上がりの太陽が眩しく、気温はそれほど高くないにもかかわらずとても暖かく感じられました。そのあとは、近くで買い物したり、部屋でゆっくりしたり、穏やかな一日を過ごしました。
快晴の空を戴く春の陽気にすっかり心も軽くなり、チェックアウトの頃までには、この素敵なホテルにまた近いうちに戻ってくることをふたりで決めていました。近く戻ってくるので、またよろしくお願いします。スタッフにそのように挨拶をして、バレースタッフに出庫してもらった車に乗り込みます。恭しい見送りを受けて、このホテルを後にするとき、我々はこのホテルのさらなるファンになっていました。