桜の花びらが散る頃には我々の生活リズムが変わるので、今ほど気楽にホテルステイが出来なくなってしまうのではないか…パートナーも私もそんなことを最近考えます(…そう言いつつ、なんだかんだでホテルステイしている予感も強いのですが)。泊まれるときに、好きなホテルに泊まりたい。そんなわけで4月の前にホテルステイの予約をいくつか入れたのでした。京都への旅もそのひとつ。フォションホテルに開業日に宿泊した我々は、せっかく京都まで行くのだから、ということでパークハイアット京都にも予約を入れておいたのでした。
今回はこのホテルのプレミアムスイート「東山ハウス」での滞在についてリポートしてまいりましょう。
チェックイン
昼過ぎにタクシーで高台寺のあたりまで。1月に来たときにはもっと人が少なかったようですが、今日は二年坂周辺もそれなりにたくさんの人で賑わっているようでした。
プリツカーの庭を抜けてロビーに向かう途中には桜の木が大胆に植えられていました。下から照明が当てられて、天井に影絵のようになっていて素敵。馴染みのスタッフにエスコートされてロビーラウンジに向かいます。
もともとの予約ではスイートルームカテゴリーの「二寧坂ハウス」を予約していました。しかしどうやら混雑しているらしく、レイトチェックアウトも難しいという回答。そこで差額を払ってもうひとつ上のカテゴリーとなる「東山ハウス」への変更をお願いすることにしました。普段だったらこのようなお願いはしないかもしれませんが、今回は(一応)京都のホテルステイの区切りということで、ちょっと奮発しました。合言葉は…せっかくだから。
やや辛口のジンジャーエールとスパイシーな豆菓子をいただきながら、部屋の準備が出来上がるのを待っていました。パートナーと一緒にロビーラウンジの桜を眺めながら、あとで散歩にでも行こう、などと話していると総支配人が挨拶に来てくれました。フロントマネージャーもとても丁寧であたたかく、開業当時の混乱が嘘のように、このホテルのレベルの向上を感じさせられます。
そうこうするうちに部屋の準備が整ったとのこと。さっそく部屋に向かうことにしましょう。
東山ハウスに泊まる
低層ホテルのパークハイアット京都。その3階部分に今回滞在する東山ハウスはあります。
エントランスを入るといきなり広がる高台寺周辺の街並み。低層階にしてパノラミック。フルハイトウインドウと屋内から屋外へと連続するように見える天井の効果で、じつにダイナミックに景色が望めるデザインは感動します。大きなチェアやソファに加えて、客室全体のインテリアコードのおかげで、このような開放感がありながらもなんだか落ち着きます。
リビングルームも素晴らしいのですが、私が個人的に最もこの部屋で感動したのが、ベッドルーム。ふかふかのベッドに横になって見れば、甍の波と八坂の塔。そしてベッドの背後までも大きな窓になっていて、まるでこの古都の低空に浮いているかのような気分になります。これまで高層階のホテルに泊まった数も少なくはありませんが、低層階なのにこんなに浮遊感のある部屋は初めてです。
ベッドルームの奥がウェットエリア。デザインコードはスタンダードスイートなどとも共通しますが、バスルームが大きな円形のバスタブでゆったりできるようになっているのが特徴的。またベイシンもそれぞれが独立したダブルシンク。使い勝手もよく、広さも申し分ないものと言えましょう。
バスアメニティはパークハイアット東京などでもおなじみのイソップ(Aesop)が用意されていました。確かスタンダードルームの場合は、Le Laboが用意されており、前に泊まったスタンダードスイートだと「エディットユヅキ」であったように思います。それぞれのボトルも大きなものとなっており、さらにボディクリームも100mlのリンドボディバームが用意してありました。ナチュラル系の爽やかな香り。個人的にこの香りはパークハイアット東京のイメージが強くて、京都でこの香りというのは不思議な気持ちがしました。
そのほかにもイソップの大きな固形ボディソープなども用意されており、アメニティだけを取り上げてもかなり充実している部屋と言えましょう。なおドライヤーはDysonです。
もちろんスタンダードスイートや「二寧坂ハウス」に比べて部屋自体は広いのですが、空間構成自体はそれほど変わりません。しかし部屋の様々な部分において、やはりここがスペシャリティスイートであることを感じさせられました。はっとする開放感とほっとする快適性。それが見事に調和していました。
古都の春の訪れを感じる
しばらく部屋から景色に見とれたり、ソファでゆったりとくつろいでいましたが、さすがに少々空腹感。そこでルームサービスで我々のお気に入りのメニューを注文することにしました。
スパイシーなファラフェル。枝豆や野菜が入っていて、ライムを絞ったり、チリペーストをつけて頂きます。ディナーにコースを予約していたため、今回はひとつを半分に分けてもらいました。刺激的な味わいに導かれて、程よい満腹感を得ました。こちらはこのホテルの通り沿いのKYOTO BISTROで出されていたものですが、こうして部屋でゆったりと味わうのもまた良いものです。またKYOTO BISTROのメニューが魅力的であり、パークハイアット京都に泊まらない京都滞在のときでさえも、我々は立ち寄ってしまうほどです。
満たされた気分の午後。日差しもあたたかく、部屋の窓から見えた枝垂れ桜を探して、少し周辺を散策することにしました。八坂の塔が綺麗に見える坂道を手を取って歩けることの幸せを感じます。いつもこんな平和な気持ちで過ごせたらどんなに幸せだろう…そんなことを思いながら歩きます。着物姿で楽しそうに歩く人たち。カメラを片手に子どもの写真を撮る親子。どんな光景も愛おしく感じます。
道すがら団子を食べたり、あてどなく清水寺の前くらいまで散歩したりするうちに、だんだんと陽が傾いてきました。燃えるような夕陽に照らされる京都の家並みを、浮遊するような東山ハウスのベッドルームから眺めていると時間を忘れそうになります。
夕焼けを眺めながら我々もしばし無言。もうしばらくすると出逢ってから1年。無言のときの空気感もなんとなく心地よくなってきたような気がします。さてそろそろ夕食に出かけることにしようか、、どちらから言うこともなく、ソファから立ち上がって、出かける準備を始めました。
今日の夕食は、ホテルを出てすぐのところにある料亭、高台寺十牛庵にて頂くことにします。入り口付近にはすでにスタッフが待機しており、名前を知らせると仲居さんが個室まで案内してくれます。趣深い日本家屋と庭園を眺めながらゆっくりと歩いて行きます。天井の低さも魅力。そして程よく緊張感がありながらも、肩肘張らない雰囲気もまた魅力です。
江戸時代の食器で供されるのは旬の食材を用いた上品で正統派の和食の数々。雪見障子を開いてみれば、ホテルとはまた違った趣の京都の夕景。まさにひろくイメージされる料亭らしい料亭でした。どちらかといえば、普段は個室よりもオープンな席の方が好みの我々ですが、時には静けさの中でゆったりと食事を楽しむのもいいなという発見。周囲はすっかり暗くなり、我々もすっかり満腹となり、板前さんや仲居さんたちに見送られてホテルに戻ります。
「タクシーをご入用でしょうか?」
「いえいえ、あそこに帰るだけですので、歩きます」
静かな笑い声と共にお互いに顔を見合わせて…
「また伺いますね」
そんな会話を交わした後で、我々は1分にも満たないホテルへの帰り道を歩いて帰ります。
昼には賑わいを取り戻したこの道も、夜はやはりしんと静まりかえっています。少し風が冷たいけれど、それが妙に心地よいのも春らしい。パークハイアット京都の方をふと見やると、KYOTO BISTROではまだ食事をする人の姿が。
おかえりなさいませ。スタッフの声に安心感。さりげないけれど、ホテルの魅力を形作る大切な要素であるようにも思います。夜にひそやかに光を照らされるプリツカーの庭。石畳に響く靴の音がむしろこの静けさを際立たせるように思いました。
今宵は朧月夜。部屋のあたたかな照明がなんだか落ち着きます。円形の大きな浴槽にお湯を張って、バスソルトを入れて、ゆっくりとしたお風呂の時間。風呂上がりに部屋に用意されている氷を入れた伏水を飲むときの至福。ベッドに横になりながらパートナーと何気ないおしゃべりをしていたら、そのまま眠ってしまいました。
明るい日差しに目を覚ますと、快晴の京都の空。浮遊館のある部屋にふかふかのベッド。ここは雲の上と錯覚してしまいそうな光景が目の前に広がっていました。春眠暁を覚えず、とは言うものの、今日は気だるさをまったく感じない健やかな春の朝でした。
今日は浴衣のままで部屋で朝食を。パークハイアット京都といえば、やはり京大和の和朝食。香ばしい目覚めの玄米茶にはじまり、出汁巻き玉子や銀鱈の西京焼き、そしてこだわった丹後米こしひかりを炊いたご飯。大きな窓から京都の街並みを眺めながら、彼女と一緒に美味しい和朝食を頂く。こんなに贅沢な朝の過ごし方があるでしょうか。
朝食を終えて、少し部屋でゆっくり過ごしたらホテルの電動自転車を借りて東山をサイクリング。円山公園で枝垂れ桜を眺めてみたり、京セラ美術館に立ち寄ってみたりするうちに時間はあっという間に過ぎてしまいました。昼過ぎにホテルに戻ってきたらKYOTO BISTROで軽く食事を。麗らかな日でした。
チェックアウトの前に琥珀バーのカクテルで乾杯。短い滞在時間でしたが、まったくあたらしいフォションホテル、そして、安定して素晴らしいパークハイアット。ふたつの魅力的なホテルに泊まり、古都の春の訪れをパートナーと一緒に感じる滞在でした。穏やかで幸せな時間を過ごしてくれる彼女に感謝。
4月からお互いに今よりも忙しくなってしまう可能性が高い。
そうすると次はいつ来られるのだろう?
そんなことを考えていました。
また季節が変わったらここに戻ってこよう。どちらからともなく、そんな話をしながら帰路につきました。それが実現可能かどうか、あるいは、より早くなるか遅くなるかは、おそらく関係ありませんでした。ただまたここに戻ってきたい。そして優しい時間をわかち合いたい。旅の終わりに抱きがちな新しい旅への期待を頭に浮かべつつ、半分眠りながら、夜の東海道を行く新幹線の流れる車窓を眺めていました。