パークハイアット京都宿泊記2021・夏、京都、また私たちは暑さを味わいにいく

出逢ってから、ひとつの季節に1回の割合でここに泊まってるね。そんな会話を交わしたことを憶えています。そう、私たちが、京都で最も好きなホテルはどこかと聞かれたら、必ずやここの名前を挙げるでしょう。パークハイアット京都。高台寺の横のゆるやかな坂を車で走り抜けてエントランスに向かっていくアプローチは何度通っても心ときめくものです。

顔馴染みのスタッフが「おかえりなさいませ」と出迎えてくれるあたたかさ。前日に大阪のWホテルに滞在して、その目も眩むような新しさに刺激を受けたあとだと、とりわけその安心感は強く感じられました。今度はどんな滞在になるのだろう…はやる気持ちを抑えながら庭園を横にみて、チェックインへと進みました。

どういうわけかパークハイアット京都となると、ついついスイートルームに泊まりたくなってしまいがち。ダイナミックな眺望を誇る東山ハウスや二寧坂ハウス…あるいは少し落ち着いた雰囲気が魅力的なパークスイート。でも今回はスタンダードルームに滞在することにしました。

ティーラウンジから奥の渡り廊下を通って、部屋に向かいます。なおウェルカムドリンクは今回はここティーラウンジで頂くことにしました。斜面にそった庭園に映える夏の緑が爽やかで、パートナーもとても喜んでいたようでした。

今日は奥の建物の1階にあるデラックスルーム。じつは部屋の広さだけをみるとパークスイートや二寧坂ハウスと同じ68m2あります。ただしリビングとベッドルームが分離されていないため、空間的にはより広く感じられるように思います。またもうひとつの特徴は坪庭と障子の効果によって、より日本的なものを感じられるようになっているところでしょう。

部屋に個性があって、どんな部屋に泊まっても新しい発見や楽しさがある。これこそがホテルステイの楽しさだなと改めて思います。

ウェットエリアもしっかりダブルシンク。うねるような独特の模様のストーン。ブラックの格子がかっこいいデザイン。アメニティは石鹸がLe labo、そしてバスアメニティがEdith Yuzukiでした。バスアメニティは個人的に香りがよいのですが、コンディショナーを手に取り出しにくいのが難点だと思っています。たぶんボトルのデザインの問題だと思います。もっともすっきりとした気分のバスタイムを終える頃には、すっかりそんなことは忘れてしまう…そういう不思議な落ち着きと異世界観がこのホテルにはあるようです。

ウェルカムフルーツの巨峰を頂きながら、しばらくゆっくりします。今日はホテルに到着したのが少し遅め。どこかに出かけるわけでもなく、なにげない会話を楽しみながら午後のひとときを過ごします。ホテルの客室で彼女がリラックスした表情で最近あったことを話している時間が好きです。ここパークハイアット京都ではその落ち着いた表情も一段と穏やかであるように見えました。

ふと去年のことを思い出したのでした。

まだお互いにぎこちなさが残っていた頃のこと。うまく会話が続かない私は彼女に「なにか話して」と言われてとまどってしまったのでした。なんとか面白い話を探し出そうとして、でもうまい話が見つからなくて…今から思うと笑い話のように思えるのですが、私はずっとこのことを気にしていて、その滞在からしばらくしてから、「あのときすごくどぎまぎしてたんだよ」と彼女に話したことがありました。すると彼女は笑って、そんな面白い話を期待していたわけではなくて、私もどういうふうに距離感をとっていいのかわからなかったんだ…と話してくれました。普段はけっこう饒舌な方かと思うのですが、私は彼女の前に並べる言葉を選んでいたのかもしれません。しかし飾った自分はいつかどこかでうまくいかなくなるものです。たぶん、あのあたりの時期が、パートナーに対して着飾る自分に違和感を覚えていた時期だったのかもしれません。

あのとき、私はうまい言葉が見つからないまま、彼女と一緒に真夏の京都をサイクリングしました。鴨川沿いの道をずっと出町柳のあたりまで。水分補給ばかり気にしていたことを思い出します。でもなんだか楽しかった。おそらく、汗だくになって、髪も風でぼさぼさになって、お互いにちょっと暑さでぼーっとしてきて、もっと開けっ広げていてもいいのかもしれない、と思えたからなのかもしれません。それからというもの私は彼女と自転車に乗るのが密かな楽しみになりました。彼女もそうであったらいいなと思っていますが、少なくとも、誘ってもたいてい喜んでくれるし、ときには彼女からサイクリングを提案してくれることもあります。

今回の滞在でもパークハイアットから御所の方まで。スタッフからは暑いのにそんなところまで行かれたのですか!?と少し驚かれましたが、パートナーも私もにこにこしながら「ちょっと疲れたけど良いサイクリングでした」と答えていました。

夜はここも思い出深い「ひらまつ高台寺」にて。定番の赤ピーマンのムースにはじまるコース料理。あのときはあのあたりの席にひとりで座ってコース料理を食べていてね、スタッフがとっても親切だったんだよ…とパートナーに話すことも定番です。

夏らしい食材やスパイスを上手に使った料理の数々。そして京都の夜景。デザートには桃。この情勢下で夜はチーズワゴンがないのが残念だけれど、静けさの東山からきらきらとした夜景を眺めながらゆっくり語り合えるのは至福です。生ぬるい夜の風が吹き抜けていくのもまた心地よい。夏の暑さを楽しもうとすると、意外とそれにもさまざまな表情があるように思います。

最後にスタッフにエントランスまで見送られ、お車はご入用ですか?と尋ねられて、いいえ、あそこまででは流石に申し訳ないので、と隣接するパークハイアット京都を指差すのも、定番の流れ。

少し夜の高台寺の境内を散策していたら、小雨混じりの空気があたりを覆いはじめました。池の面にいくつもの輪が連なっていました。部屋に戻ってほっと一息。障子を閉めると部屋はより落ち着きます。トニー・チーらしいダイナミックなデザインですが、古都の和の趣と重なりあうと、不思議と和やかな雰囲気を醸し出すようになるのですね。今夜はゆっくりと寝ることができそうです。

目が覚めて、お馴染みの京大和の手がける絶品の朝食。玄米茶の香ばしい香りで目を覚まし、出汁のきいた料理、香り豊かな食材、そして甘さと粘り気の絶妙な白米をいただく贅沢です。このホテルに泊まる理由のひとつにこの朝食を挙げても、おそらく異論はほとんどありますまい。パートナーとはじめて滞在したときには、早朝の散策で坂を登って清水寺まで行ったものでしたが、今朝はじつにゆっくりとした夏の朝を過ごします。

部屋で私がコーヒーを淹れて、部屋から坪庭に出て、夏の風を感じることにしましょう。なんだかまたあっという間に時間が過ぎていくような気がします。この日の朝はちょっと涼しかったせいか、もう秋の気配をそこかしこに感じたような気がしました。

個人的な事情や社会情勢など気にもとめず、今年も夏はめぐってきて、なにごともなかったかのように過ぎていきますね。パークハイアット京都でのまろやかな時間ともまたしばしの別れ。何人ものスタッフに見送られながら二年坂をあとにします。寂しいというのともまた違うけれど、どこか心が青白くなっていくような感覚。この感覚こそが我々をホテルという非日常に惹きつけてやまないものなのだと思うのです。

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