The Okura Tokyo(オークラ東京)プレステージタワー宿泊記・コーナールームで過ごす久々のホテルの夜と朝

ホテルオークラのロビーにいくと私はいつも特別な気分になります。足を踏み入れた瞬間のぴりっとした空気感、モダンなのになんともいえない懐かしさを醸し出すインテリア。様々な要素がうまく融合して、おそらく世界のどこのホテルにもない個性的な場所だと思わされるのです。それと同時に過去の記憶や、そこから派生した様々な想いと共に語らざるを得ない、私にとってはまさに「かけがえのない」ホテルのひとつと言える場所なのです。その記憶の一片については前に少し書いたことがありました。

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コロナウイルスによる様々な困難や社会不安もまだ解消されたとはいえませんが、そうした状況とうまく折り合っていくことを模索することの必要性がよく謳われるようになりました。ホテルや関連する施設も徐々に営業再開するなかで、私も感染防止に最大限の配慮を払いながら再びホテルへの滞在をしようと思うに至りました。行きたいホテルは数多くありますが、まだ都内から出ることは避けるべきだと思うし、なによりどこか思い入れの強いホテルに泊まりたいという気持ちが強かったのです。そこで必然的に候補に上がってきたのが「ホテルオークラ」でした。

昨年にThe Okura Tokyoとして新しい本館が開業。それから間もない頃に「ヘリテージウイング」に滞在したこともありましたが、今回は「プレステージタワー」の方に滞在したので、そのリポートをしてまいります。

チェックイン

このホテルのバレーパーキングは「良心的」という言葉がまさに適切だと思うところです。価格の面でも(プレステージタワーの滞在客は¥1000、ちなみにヘリテージウイングに滞在する場合は無料)そうですが、スタッフもじつに誠実に対応してくれて、気持ちよくチェックインへと進むことができます。

車を誘導する様も優美であり、このホテルならではの安定感を感じさせられるものです。正面玄関より中に入ると、どのスタッフも深々とお辞儀をして、歓迎の言葉をかけてくれます。外資系のホテルにはない謹厳さもまたここの持ち味。そのままチェックインの手続きに進みました。

チェックインをするカウンターの反対側には言わずと知れたロビーラウンジがありますが、その手前には、これも有名な世界時計があります。世界から数多くの客を迎えるこのホテルの矜持を物語りますが、いまのところはこの文字盤に表示される様々な都市からやってくる人はほぼいません。この時計の横を歩いたとき、心なしか物寂しい感じがしました。

チェックインも滞りなく進み、そのまま客室へとエスコートされていきます。エレベーターホールにはいつも見事に季節の植物が生けられていて、また着物姿のスタッフがエレベーターに客を乗せるためにずっと待っています。一見すると無駄とも過剰とも思えるようなこのひと手間は、しかしながら、このホテルの世界観をより奥深くすることに寄与していることは間違いのないことと言えましょう。

プレステージコーナールーム

今回の滞在は高層階に位置する「プレステージコーナールーム」という客室タイプ。名前が示す通りの角部屋となっていて、二面に広がるダイナミックな景色が楽しめる客室となっています。

客室に入ってみると、全体的にかなり明るく、ベッドの背面まで窓があることで非常に開放感があります。インテリアコードはブラウンやベージュなど、一見すると無難で面白さはありませんが、ここホテルオークラにはむしろこのような色合いがよく似合います。以前に滞在したヘリテージウイングはもっと木目が強調された非常に落ち着きを感じさせる雰囲気だったのに対して、こちらはもう少し軽やかです。しかし滞在前に想像していた以上に、この軽やかさは高級感との均整が取れていて、嫌味がなく清楚な印象でした。

ピンと貼られたいかにもラグジュアリーホテルらしいキングベッドも久しぶりでなんとなく懐かしいような気分。大型のTVやベッドサイドなども最新のホテルに求められる標準をしっかりと満たしていました。またビジネスデスクもすっきりとしていて、なおかつ機能的なもの。最近つとに流行のライフスタイルホテルをはじめ、中にはこのようなデスクを敢えて置かない場合もありますが(それはそれで面白くていいと思います)、ホテルオークラはやはりこのあたりもコンサバティブ。でもこの優等生的なところがたまらなく良いものです。

しっかりと沈み込むシングルチェアには、柔らかなクッションが置かれて、ゆったりと過ごすことができます。窓の外には開発著しい虎ノ門の街並みと少し距離を置いて六本木。さらにその向こうに東京のスカイライン。ホテルオークラの旧本館からはここまでの眺望は望めませんでしたが、改めてかなり素晴らしい立地にあることに気づかされます。

コンプリメンタリーのミネラルウォーターも十分に用意され、これまた最近のラグジュアリーホテルの標準となっているネスプレッソなどもしっかりと設置してあります。

バスルーム

こちらのコーナールームの大きな魅力のひとつがビューバス。ウェットエリアもシースルーとなっていて、昼間はかなり明るく、夜にも夜景が綺麗に見えるように工夫されています。

ダブルシンクではありませんが、ひとりで滞在しているために特に不便は感じませんでした。こちらもベージュのストーンが多用されており、落ち着く雰囲気を持っています。ビューバスというと、しばしば艶めかしい雰囲気を演出するという方向性もあり得たのでしょうが、あえてコンサバティブに設定しているところがこのホテルらしい個性だと思います。

ウッドブラインドで仕切ることもできますが、全開にして東京のベイエリアの方を見下ろしながら優雅なバスタイムを過ごすのがやはり楽しいものです。なおシャワーはレインシャワーとハンドシャワーに加えて、ボディシャワーもあります。さらには耐水性のテレビも設置されていて、かなり機能面においても充実しています。都内のラグジュアリーホテルを見渡しても、スタンダードタイプの客室としては最高水準ではないでしょうか。

ちなみに少し向こうの方にはアンダーズ東京も入っている虎ノ門ヒルズ。日比谷線の新駅が開業したり、新しいタワーが建ったりして、これからもますます賑やかになってくることでしょう。

バスアメニティはミラーハリス(Miller Harris)の「ルバーブ&ピオニー」が用意されています。甘酸っぱい香りが特徴的ですが、余韻はさらりとしています。ここのフレグランスは個人的に全体的にそのような前重後軽なイメージがあります。もうひとつフェイシャルアメニティとして「THREE」の「rhythm」シリーズが用意されているのも嬉しいところです。使用感も決して悪くありません。

オークラ東京で過ごす久々の夜と朝

久々のラグジュアリーホテルでの滞在。そしてThe Okura Tokyoとなってからはじめて見るプレステージタワーからの景色。このホテルにまつわる様々な記憶が浮かんでは消えていきます。同時にこの日にあった出来事もあれこれ思い起こしながら過ごしていました。

思い返してみると、ここ数日のところ、私事での悩みがあり、しんみりとした思いで過ごしていました。それが完全に払拭されたわけではありませんが、ひとり部屋にたたずんで、日に日に蒸し暑くなってくるこの季節らしく霞んでいる都心の月と、ビルの間に華やかな光を放つ東京タワーを見ていると、なんだか心模様までぼんやりとしてくるような心地がします。

外の光の数だけ生活があり、この部屋から外に漏れている光もそうした中のある一場面にすぎない。それは喜びの光景かもしれないし、悲しみの光景かもしれない。最初は明確な像だったものが、だんだんと焦点を結ばなくなってきました。

季節に似合わない熱いシャワーを浴びてから、ふと外を見てみると東京タワーは青い光を放っていました。いつの間にか深夜の零時を回っていたようです。氷を入れたミネラルウォーターを飲んでいる間に、東京タワーのライトは徐々に消灯となり、あたりはさらに静かになっていました。ほんの僅かな時間の特別な色合い。しんみりとした気持ちをうまく解消できない曖昧な心をその曖昧なままにして休むことにしました。

翌朝早く目覚めると、6階までエレベーターを降りていき、この象徴的なロビーラウンジを見下ろします。まだ人も多くないこの時間ならではの静けさ。向こう側にはぴしっと背筋を伸ばしたホテルのスタッフが立っています。この落ち着きと厳かな雰囲気はいつまでもなくならないでほしいこのホテルらしさです。

朝食はオールデイダイニングの「オーキッド」にて。まだ「ヌーヴェル・エポック」などは営業を再開していない(2020年6月10日現在)ためにこちらに朝食は集約されていました。またこちらのレストラン自体もブッフェの営業をいまのところは休止中。もとよりこのホテルの朝というと、伝統のフレンチトーストを頂きたくなりますが、今回もまたお願いしました。付け合わせにはハーブソーセージ。

ふわふわでしかもしっとりとした優しい食感。ここに有塩バターが持つ軽やかな刺激と深さを加え、軽やかなメープルシロップは惜しみなくかけて、陰影のある朝の味わいを堪能したいところ。また個人的にときどきブルーベリージャムを加えて、さらに後味に様々な色を足すのが好きです。冷たいフレッシュオレンジジュースと熱いコーヒーも忘れずに。

すっかり満足して部屋へと戻り、チェックアウトまでのしばらくの時間を過ごします。昨日の夜に感傷的かつぼんやりと眺めた東京タワーは再び昼の姿になっていて、その手前には開業を控えるマリオット系のラグジュアリー・ライフスタイルホテルである「EDITION」も見えます。このあたりの街並みの変化は著しく、停滞をものともしない力強さを感じます。伝統と新しさが混在する現在のホテルオークラに久々に滞在して、スタッフに笑顔で見送ってもらったあとで、自分の中にある「古いもの」と潜んでいる「新しいもの」を心の中で撹拌したような気持ちになりました。

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