2024年4月 パークハイアットニューヨーク・チャットワル・W香港 宿泊記

香港経由でシカゴに来て、それからニューヨークのセントレジスに滞在。そのあとのホテルについてもそれぞれが個性的な魅力を輝かせいていたのでじっくり振り返ってみたい…のですが、なかなか十分に執筆の時間を取ることができないまま、気づいたらもう滞在から2ヶ月弱の時間が経過していました。改めて時間の経つ早さを感じずにはいられません。この前あのひとに会ったな…と思ったら、その「この前」がすでに2年も前だったということが先日あって、さすがにびっくり。時間の流れ。夜間飛行の見聞録も当初は毎日更新を目指していましたが、週に1回、月に1回、季節に1回と頻度がおかしなことになってきたので、少し妥協して3つのホテルをひとつの記事にまとめてしまいましょう。澱みなく流れる時間のなかで、ひとまず月に1回は更新するという(私のなかに設けたきわめてゆるい)目標はこれでひとまず達成できるはずです。

それでは振り返ってみましょう…

パークハイアットニューヨーク

このホテルはちょっと「クール」すぎるのかもしれません。その雰囲気をどう感じるのか。評価が分かれる気がしています。

愛すべきパークハイアット東京の改装のための休館から少し前のこと。私はニューヨークにいました。前日に古き良き…それでいて古さゆえの嫌な雰囲気も驚くほどまったく感じなかった…セントレジスでの滞在を終えて、次に向かったのがここパークハイアットニューヨーク。ここから歩いて数ブロックのところで所用があるということもあり、なおかつ諸々の事情でスイートルームを予約していました。多くのハイアットファンがそうであるように、このブランドには、なにか特別の期待があります。私の場合その感覚の多くをパークハイアット東京に育てられたような気はしていますが、世界のどこにいっても洗練されつつあたたかさのある独特の「ハイアットタッチ」と言われるようなホスピタリティを得られる。ちょうど数日前にその元祖であるシカゴのパークハイアットに泊まって、まさにその実感をさらに強めたところでした。

そしてやってきたニューヨーク。立地は抜群です。セントラルパークはまるで庭のように近いし、カーネギーホールは通りを渡ったところにある。ニューヨークの新しいビルの特性かもしれませんが、エントランスは驚くほど目立たない。なんだか秘密のクラブにでも入るような感覚でした(すぐ近くにとある会員制のクラブがあって、滞在中に2度ほど間違えて入りそうになりました)。

今回滞在した客室はワンベッドルームスイート。ハイアットのカテゴリーでいうと、プレミアムスイートに分類されていますが…率直に言いましょう。個人的にそれほど感動はありません。客室の快適性は十分過ぎるほどに確保されています。コンテンポラリーでレジデンシャルな内装に最新の設備が整えられたいかにも最近のパークハイアットらしい心地良さ。でもどういうわけか全体的に面白みにかける気がしたのです。PHTほどとは言わなくとも、パークハイアットのあの現代美術館のような質感の高さにはどこか及ばない、良くも悪くも「万人受け」を狙ったインテリア。快適性だけを求めるのであれば、あえてここに泊まらなくとも、とは思います。

特筆すべきはターンダウンやインルームダイニングなどのオペレーションが非常に良いところ。こちらから求めたものはすぐに応えてくれる。しかもきわめて迅速に。こういう感動は滞在中に色々な場面で感じられました。

客室の質感についてはさほど評価しないものの、全体のクールでコンテンポラリーな雰囲気は個人的に嫌いではありません。パークハイアットらしいかと言われれば少し疑問ではありますが、ニューヨークだからという謎の諒解をしておきました。

朝にカーネギーホールのところを行き交う人の流れを眺めながら…ワッフルやミューズリー、またシグネチャーのロブスタースクランブルエッグなど朝食は贅沢な時間を過ごせます。それにこの高い天井にメタリックな雰囲気がなんともいえない高揚感。このホテルで過ごしていたなかで最も好きな時間だったといま思い出します。なお自分の好きな付け合わせをリクエストしたり、コーヒーの熱さの好みなどのこちらからリクエストするとかなり柔軟に対応してくれました。

そうしたなかで思い至ったのが、このホテルはこちらから能動的に働きかければ快適に過ごせるタイプのホテルだ、ということです。スタッフから積極的に色々と気を回してくれるタイプのラグジュアリーホテルもありますが、こういうところも確かにあります。あまり適切な言い方が見つかりませんが、ホテル慣れしている方であればこのホテルを使いこなしてとても快適に過ごせるはずです。それにあれやこれやと向こうから気を遣ってこないために、ほどよく肩の力を抜いて過ごせるという側面もあります。この前に泊まっていたセントレジスとはその意味で対照的(すごく気を配ってくれるけれど、ある意味でこちらも気を遣う)。どちらがいいかはそのときの気分や旅の目的にもよるかもしれません。

チャットワル・アンバウンドコレクション

もしミュージカルを鑑賞して、ふたたびここに戻ってきたら…それはそれは夢のような気分にずっと浸っていられることでしょう。そんなことを夢想しつつ、結局は仕事で実現できませんでした。でも、ここに息づくそんなムードは1泊の滞在でも十分に感じ取ることができました。

世界の交差点…そんなふうにも呼ばれるタイムズスクエアから歩いて1分。周辺にもいくつかの劇場があって夜までにぎやかな雰囲気に包まれています。ここがチャットワル。数年前まではマリオット(旧スターウッド系)のラグジュアリーコレクションでしたが、いまはハイアットのアンバウンドコレクションに加えられているプレミアムなホテル。その歴史ある建物の威容もさることながら、注目すべきはここがThe LAMBS CLUBというニューヨークの伝統ある舞台人の倶楽部でもあるということ。かつてこの劇場の街を率いた劇作家や出演者などの華々しいスピリットが空間に満ち溢れています。ちなみにこの倶楽部は現在まで存続しているということも付け加えておきましょう。

伝統ある外観に対して客室はコンテンポラリーな雰囲気にまとめられていて、快適性も高い。ユニークなソファが置かれていたり、人間工学に基づいていそうなベッドが置かれていたり。これはまったく私の主観的な感覚なのですが、私がイメージするアメリカの高級なステーキハウスのインテリア。欧州ともまた違う西洋的な独特の洗練された空間の雰囲気。そのなかの落ち着きという要素を引き上げたらこういう世界観になる。そんな直感的な第一印象を持ちました。全体的にメタリックな雰囲気のバスルームも(そのたっぷりとした水圧含めて)とても好きです。いまやリッツカールトンでは体験できなくなってしまったAspreyの高貴な香りを浴びるシャワーもとても好きです。端的に言って、私は実はパークハイアットニューヨークよりもこっちの方が全体的に好きだと思ったほどなのです。

このホテルの驚くべき好きなところをもうひとつ。とにかくスタッフがプロフェッショナル。必要十分な情報を与えて、余計なことはいわない。そのバランスを「心得ている」印象を受けるのです。それゆえにとてもテキパキしていてストレスがない。かといって冷たい印象も与えない。さすが。そしてチェックインのときにしか名前を言っていないのに、発音しにくい東洋人の私の名前を正確に覚えて、外出時や帰宅時(こんな「ホーム」を感じるホテルではあえてこの言葉を使いたい)に、必ず私の名前を呼びつつ挨拶してくれる。ホテルの規模が小さいため、という面もありますが、いわゆるスモールラグジュアリーホテルでもこんなことができるホテルというのは私の知る限り数えるほどしかありません。舞台人の倶楽部というある種の排他性を感じさせられる場所にもかかわらず、私はきわめてあたたかくここで過ごしている…そんな優越感があります。エクスクルーシブ、な感覚なのでしょう。

窓の外にはミュージカルの終演で劇場から外に出てくる人たち。その様子を眺めながら部屋でカロリー高めのアイスクリームサンデーを食べるのは至福のひとときと言えましょう。

朝食はThe LAMBS CLUBにて。この暗い雰囲気。少しお高くとまっていそうでいながら実際はとても親切な燕尾服のスタッフ。たまらなく良い。ブッフェの楽しさもいいのですが、なんだかんだで私は結局こういうコンサバティブなスタイルのホテルの朝食が好きなんです。焼きたてのマフィン、パン・オ・ショコラ、スクランブルエッグに太いソーセージ、しぼりたてのオレンジジュール、熱いコーヒー、きわめてシンプルなのにどうしてここまで美味しいのでしょう。びっくりするくらい美味しい。アメリカンブレックファーストの王道。この時間のためだけにニューヨークに戻りたいほどに。

十分過ぎるほど満ち足りた1泊でしたが、機会があれば、いつか連泊もしてみたい。そんな思いを胸に私は帰国の途につくためにホテルからタクシーでJFK空港に向かいました。

W香港

ニューヨークから東京へと戻る途中で香港に立ち寄りました。我が愛すべきキャセイパシフィック航空に乗るためですが、いくらフルフラットベッドとはいえ、やはり長時間のフライトでそれなりに疲れていました。そんなタイミングであんなに賑やかなホテルに…?

そう思っていたのですが、結果からいえば、私はここに1泊できてよかったと思いました。それは空港からのアクセスのしやすさ以上に、とにかくそのアジア的なカオス感に活力をもらえたからのような気がしています。

チェックインからしてこの雰囲気。やっぱり私はWというブランドが好きなのです。ちょっと見栄っ張りで出たがりなんだけど、でもその押しの強いカオティックなムードはニューヨークにありそうでない独特の混沌。そのなかに身を置くと、アジアに帰ってきた安心感に妙にほっとしてしまう自分がいました。

フロントの雰囲気とは打って変わって客室は静かでスタイリッシュで落ち着いている。このギャップもまたこのホテルの魅力。でもところどころに遊び心があって…そんなギャップに心躍ります。W大阪なんかもそうした感じがあって素敵ですよね。ちなみにW香港には4室限定で自動洗浄式トイレが付いている部屋があるようです。事前にリクエストするとその部屋をアサインできるように努力するとのことでした。ただしスイートルームではありませんので、そのあたりは旅の目的にもよるでしょう。私は広い部屋が必要ではないので、ここで十分。早くも日本に戻ったような安心感。しかし香港にいる満足感。なんでしょう。長旅の疲れが溶けていくような感覚です。

せっかくだったらカレーラクサとユニークな形のアイスクリームもインルームで。このカレーラクサ、私がかつてマレーシアのペナン島のバトゥフェリンギで食べたものに近い味で淡い記憶を呼び覚ましました。海老の出汁が効いてるし、クリーミーかつスパイシーで忘れられない美味しさ。豊かな気分になるちょっと遅い時間の夕食でした。

夜について午前中には帰国のために空港へ。本当に短い滞在でした。香港といえばペニンシュラをはじめとして、愛すべきホテルが数多くあるためにいままでWは選択肢に入ってきませんでしたが、ここもまた素晴らしいですね。次回香港を訪れるときにはまたさらにホテル選びが難しくなりそうです。

こうして東京→香港→シカゴ→ニューヨーク→香港→東京を1週間でめぐるホテルホッピング、いや出張旅行を終えたのでした。改めて振り返ってみるとあまりそれぞれのホテルをじっくりと味わうことがなかったのですが、私のライフスタイルや性格からするとそれもまたいいことでしょう。それと同時に矛盾したことを言うようですが、改めてじっくりと味わってみたい気持ちがいま芽生えてきました。またいつかこれらの都市を訪ねるときこそ…!

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