伝統的で、質が高くて、それでいて気楽に食べられるもの…もちろん外資系ホテルのオールデイダイニングとかインルームダイニングなどで注文できるものもありますが、こういう領域については、名の知れた日系高級ホテルが得意とするイメージがあります。
例えば、帝国ホテルのオールドインペリアルバー。私はお酒を飲まないのですが、ランチの時間帯にランデブーラウンジが混雑していても、あのやや燻った薄暗く、重厚感のある、気難しそうな雰囲気ゆえに近寄りがたいせいか、比較的空いているこのバーで、レモンスカッシュと一緒にエビフライサンドをさらっと食べていくのが好きです。
あるいはそれは、横浜のホテルニューグランドかもしれないし、私の好きなホテルオークラにあるものかもしれない。いわゆるフランス料理やイタリア料理、日本料理や中華料理などの要素を持ちながら、その本筋からは離れた独特の位置にあるこれらの料理を私はなんと呼ぶべきか分かりません。オムライス、スパゲッティナポリタン、ステーキ丼…どれも身近にあって慣れ親しんでいるものですが、こういうものほど、ホテルで食べると思いがけない味わい深さに驚いたりするものです。
さてそうした料理のなかのひとつに、キャピトル東急のORIGAMI(オリガミ)で出している排骨拉麺(パーコーメン)があります。年越し蕎麦に特段の意義を見出さない私は、毎年の大晦日は夕方までゆっくりと過ごし、夜になると、空いている首都高に車を走らせて、どこかのホテルで食事をすることになっています。
一昨年はThe Okura Tokyoになる前の最後のホテルオークラのカニクリームコロッケを食べながら、変わっていくこのホテルに変わっていく年と変わっていく東京の姿を重複させて、蓄積された記憶の断片を手繰ったりなどしていました。そして数日前の年越しは永田町のキャピトル東急へ…
普段は忙しく人が出入りしているこのホテルのロビー付近ですが、年末特有の静けさを湛えていて、時々裏手にある日枝神社に参拝に行くと思しき人を見かける程度。もしかしたら早い時間には賑わっていたのかもしれませんが、22時台ではORIGAMIで食事を取る人もほとんど見かけませんでした。
この日は風も強く吹いていて、このレストランの窓の外に湛えられた水面を強く煽っていて、寒々しい雰囲気でした。しかしスタッフの対応はとてもあたたかく、そのコントラストがまた心地よい。
運ばれてきた排骨拉麺はいつものように徹底的にシンプル。麺とパーコー(タレ付き豚ロースを二度揚げしたもの)とスープのみ。付け合わせにネギや七味唐辛子や辣油もありますが、私はなにも入れないのが好きです。
まずはスープから堪能したいところです。非常にシンプルかつ懐かしさを覚える鶏ガラと豚ガラが沁みる優しい味わい。かなり凝ったスープで勝負するラーメン店が火花を散らすなかで、醤油が香る昔ながらのこのスープに絡み合う麺は柔らかくて、スープの旨味をしっかりと舌と鼻と喉とに伝えてくれます。そしてパーコー。カリッとして香ばしいものの、硬すぎる印象を与えられることなく、次にくるジューシーな豚肉の味わいへと速やかにつながっていくのは、やさしいスープの妙といえましょう。
最後にミルクアイス(これがまたクラシカルで美味しいのです)をお願いして、店を後にしましょう。年末にかけて色々なことが立て続けに起こって、仕事以外の外出にも積極的になれず(ハイアット・グローバリストは継続できましたが、ホテルでさえ!)にいたのですが、なんだか懐かしくあたたかい時間を過ごして力を得られたような気がしました。
静かなホテルロビーでの静かな年明け。華やかなカウントダウンパーティもいいのですが、こういう静かでちょっとだけ優雅な時間の中で、回想や妄想にふけるのも悪くはないものです。