モノクロの写真と緑の棕櫚の木…いつ来てもこのレストランの洗練された雰囲気は心地いいものです。
パークハイアット東京にはいくつかのレストランがありますが、このジランドールは比較的カジュアルなフレンチを頂くことができます。カジュアルとはいえ、グランメゾンにも勝るとも劣らない上品な雰囲気はさすがパークハイアットといったところでしょうか。
現在は昼のコースが¥2500〜用意されています。アラカルトも種類はそれほど多くないものの大変丁寧に作られた光る逸品がいくつもありますので、ここでレビューしたいと思います。
ビーフカレーとミックスサラダ ¥2,200
素材の発する声に耳を傾け、その美味しさの本質から逃げないこと…その意味で私はパークハイアット東京の「ジランドール」のビーフカレーは満点の絶品だと思います。
ご飯は粘り気が少なくやや噛みごたえがあります。しかしこれがカレーと絡み合ったときに実によく調和してくれます。上に乗るのはフライドオニオン。こちらも全く手を抜かない香ばしさと甘みの引き立つ仕上がりです。サラダも緑と紫のレタスにワインビネガーと塩のみ。しかしみずみずしい葉の食感が活きるためには、むしろ余計なものはいりません。
カレーは丁寧にじっくりと牛肉を煮込んだことがよくわかるフォン・ド・ヴォーのコクに、味に深みを出すブイヨンが軽やかに混ざったスープがベースとなっています。それほど辛くなく、むしろひとつひとつのスパイスの主張がしっかりと聞こえてくるような香り高さがあります。おそらくそれを可能にしているのが、このカレーの特徴である、やわらかく効いてくるトマトの旨味にあると思います。
トマトは甘みと酸味の主張の強い素材。しかし香り高いスパイスと絡み合うときにはむしろ主張と主張が調和してくる…これは感動的です。
カレーの中には牛のすね肉が入っており、これもまた本来はアクの強い素材。煮込みすぎるとトロトロになって油っぽくなってしまうし、逆に煮込みが足りないと硬くて食感が悪い。しかしさすがジランドール…料理人たちの職人技が光ります。絶妙な柔らかさに仕上げられた牛肉を噛みしめるとき、旨味と酸味と心地よい刺激が矢継ぎ早に訪れます。
フレッシュグリーンリングイネ 渡り蟹のソース ¥2,100
パスタとひとえにいっても、その種類は様々ですよね。
多くの人に馴染みの深いスパゲッティや、ラザニアのような平べったいもの、ペンネのような短いもの…形状によって食感も微妙に違ってくるところが奥深い。
そしてジランドールが誇るのがこのフレッシュグリーンリングイネ。
リングイネとはlingua(舌)という言葉に由来する楕円形のパスタ。スパゲッティに比べてもややコシの強い食感が特徴です。うどんみたいに、下手をするとべたつきが出てしまうのですが、こちらのリングイネは見事なまでの心地よいもっちりとした食感です。噛めば噛むほどに小麦のはじけるような味わいが口に広がっていきます。
そしてソースにはトマトをベースに渡り蟹がふんだんに使われています。
こちらもカレーと同様にトマトはあくまで控えめに縁の下の力持ちに徹しています。渡り蟹は味噌汁などにも使われるような独特の出汁がでるものですが、トマトもまた出汁が出る食材。いわば極めて濃密な出汁と出汁がかけあわされて、リングイネに絡み合います。海と太陽のかけ合わさった風味を一口ひとくち味わいたいものです。
洗練された空間でいただく、カジュアルなランチ。その魅力は一度味わうと忘れがたいものとなるでしょう。