横浜の中心がどこかということに答えはなかなか出ないかもしれませんが、港町ヨコハマのイメージを間違いなく牽引している場所として、馬車道から元町へと至るエリアを挙げて異論を唱える人は少ないでしょう。新しく開発が進むみなとみらいとも異なる古き良き港の異国情緒を今に伝える同エリアに、2020年5月23日に「ハイアットリージェンシー横浜」が開業。私自身はなかなか足を運ぶ機会を持てずにいましたが、ようやく先日ここに滞在することができました。今回はエキゾティックな雰囲気ただよう日本大通りエリアに開業したこの新しいハイアットホテルのリポートをしてまいりましょう。
チェックイン
東京都心から車で湾岸線を抜けて横浜公園インターを降りると、そこからわずか数分とかからずに歴史的建造物が多く残された日本大通りエリアに出ます。今回滞在するハイアットリージェンシー横浜は、国際船の出入りする大さん橋の入り口に向かう交差点から程近い場所に位置しており、エントランスはやや狭い路地を入ったところにあります。
こちらのホテルはバレーサービスは特に展開していませんが、エントランスで荷物を預かってもらい、奥にある立体駐車場まで自走します。ややスペースが狭くて駐車が多少面倒ですが、スタッフの対応は丁寧なものです。
ロビーエリアは天井も高く、ブラックでメリハリの効いた色使いの格子が特徴的なフルハイトウインドウも相まって、洗練されつつも開放感のある雰囲気です。このような空間の作り方は最近できた日本国内のハイアットらしさを感じさせるもので、特に同じ運営会社が展開するシティホテルということでハイアットリージェンシー那覇の雰囲気に似ている気がします。また都心部にありながら全体的にカジュアルな雰囲気を漂わせるところなどは、ハイアットセントリック東京銀座などにも似ているかもしれません。
チェックインはもちろんこのロビーにあるフロントで行うこともできますが、World of Hyattのグローバリストやクラブルーム宿泊者は3階のリージェンシーラウンジで行います。私もスタッフに促されながら階上に向かいます。
ウッディな雰囲気を強調したエレベーターホールには明治時代の開港場の絵がかけられていて、このホテルのテーマ性を表現したものになっています。しかしここはハイアットらしく、さほどその土地のもつ魅力を強調して表現しようとする意図はあまり感じません。むしろすっきりとしたインテリアにほんの少しアクセントを加えるような傾向が強いように思います。
同じく横浜に最近開業したインターコンチネンタル横浜Pier8などは、港町とクルーズ船といういかにも横浜らしい雰囲気をもっと積極的に打ち出していて対照的だと思います。どちらもそれぞれの良し悪しがあり、どちらが良いということは断言できません。しかしハイアットのこの抑制的な空間づくりは、例えばビジネス利用などで、ホテルではほっと一息つきたい場合には非常に有効だと思います。というのも、このように平均化されることで、どこでも同じという安心感があり、またその土地らしいエッセンスも嫌味なく楽しめると思うからです。
ただしもっと積極的にその土地らしさに触れたいとか、非日常をおもいっきり楽しみたいとか、そのような場合には、もっと突き抜けた雰囲気が欲しくなるものです(人間ってけっこう勝手なものですね)。
クラブラウンジはさほど混雑しておらず、チェックインの手続きもスムースに進みました。担当してくれたスタッフは業務に不慣れなところもありながら、丁寧に対応してくれて、好ましいものです。
ハイアットリージェンシー横浜・World of Hyatt グローバリスト特典
- 客室アップグレード(スタンダードスイートまで)
- 16時までのレイトチェックアウト
- リージェンシーラウンジアクセス
- ハーバーキッチンでの朝食
- 30%のボーナスポイント
若干気になった点を述べれば、チェックインのときに気を利かせて飲み物のオーダーを取りに来たり、今回は初めての滞在なのに客室やホテルの設備についての案内がほとんどなかったことです。もちろん聞けば教えてくれましたが、やや不親切な印象を持ちました。
価格帯(今回はビジネスホテル並みにリーズナブルでした)を考えれば、十分すぎるほどの設備を持っており、さらにラウンジサービスがついてくるというだけで贅沢なことなので、特に不満はありません。しかし同じハイアットリージェンシーブランドのラウンジがそれなりに充実しているということもあり、その期待ゆえに、落差を感じてしまったというところでしょうか。
シティービューキングスイート
チェックインを済ませたら早速客室へ。今回はスタンダードの最も安い部屋で予約していましたが、World of Hyattのグローバリスト特典のおかげもあって、19階のシティビューキングスイートへとアップグレード。
客室に入ると、ぱっと窓からの光も明るく、ブラウンとベージュの落ち着いた雰囲気のインテリア。ちょっと前のホテルから見るとモダンでスタイリッシュですが、最近のホテルとして考えると保守的にも見えます。つまり客室も全体的に抑制的という印象が強く、好意的にみれば、落ち着く客室の文法を心得ているといえ、批判的にみれば、あまり新規性は感じない。もっとも極端に「新しさ」を追求するよりも、これくらいの方が飽きがこないために、結果的には良いのではないかとも思います。
リビングルーム側の窓から見渡せば、すぐ近くには山下公園とこのエリアのシンボルのひとつ、客船「氷川丸」が係留されているのが見えます。そして遠くにはベイブリッジ。この梅雨の季節らしい湿度が高く霞んでいるような青空の色が、都会の海によく映えていました。
シングルチェアに座りながら横浜港を眺めるのもいいものです。テーブルの上にはハイアットリージェンシーオリジナルラッピングが施された「ありあけのハーバー」がサービス。小腹が空いたときなどにもいいかもしれません。
コンプリメンタリーのミネラルウォーターやエスプレッソマシンはしっかり用意されており、さりげなく寄木細工調の箱の中には紅茶のティーバッグなどが収められていました。
ベッドルームはリビングルームと2箇所の引き戸で隔てることができるようになっています。この構造は最近のハイアットのスイートルームの標準でしょうか。ベッドの硬さもしっかりとしたもので、このあたりにもハイアットらしさを感じます。さほど絢爛さを感じるような客室ではありませんが、ベッドボードは屏風をあしらったものになっているのが特徴的。基本的にモダンですっきりとした路線の中で、ここだけは少し装飾的な部分です。
個人的にこのような控えめな装飾は好ましく思いました。面白さはさほどありませんが、快適で居心地は良いと思います。
ベッドルーム側の窓からは、元町や中華街、そして山手の方までも見渡せます。ハイバックチェアにゆったりと腰掛けて、車の流れなどを見ているのもまた悪くないものです。みなとみらいのホテルのように圧倒的な海の景色を堪能できるというわけではありませんが、バランスよく横浜の街の魅力的な景観を眺めることができるという意味では、とても良い立地にあるのではないでしょうか。この関内地区には、伝統あるホテルニューグランド以外にはこれまであまり目立つホテルがなかったこともあり、存在感はそれなりにあると思われます。
ウェットエリア
続いてウェットエリアを見ていきましょう。ウェットエリアはベッドルームとエントランス付近の2箇所でつながっており、客室全体としての回遊性を確保しています。
ベイシンはダブルシンク。ここも取り立てて特徴があるわけではありませんが、シンプルかつ機能的で、使いやすさは十分だと思います。タオルは十分に用意されていますが、シェービングキットなど一部のアメニティはお願いしないと持ってきてくれないようになっていました(2020年6月現在)。
なおスタンダードルームが同じかどうかは分かりませんが、ドライヤーはDysonの非常にストロングな風の出るものでした。
バスルームとトイレは独立式。バスルームも最近のハイアットとしては標準的な構成。シンプルで使いやすく、快適性は高いです。レインシャワーもハンドシャワーも水圧もしっかりとしていて(ただしグランドハイアット東京ほどではない)、特に不満はありません。
バスアメニティはおなじみの「Pharmacopia」です。もともとハイアットリージェンシーというとシトラス系の爽やかな香りが特徴のものでしたが、最近はやや甘く爽やかなこちらの香りのものにシフトしたのでしょうか。使用感についても悪くありません。
蒸し暑い横浜港の梅雨とハイアットステイ
この日はちょうど昼過ぎにこのホテルの近くで会議があり、チェックインをして、しばらくちょっとした書き物をこなしてから外出しました。ハイアットリージェンシー横浜があるあたりは歴史的建造物がたくさん残されていて、少し歩いているだけでも開港場が歴史的に持ってきた異国情緒を感じられて、なかなか楽しいものです。
梅雨らしい分厚い雲に覆われることもなく、ただただ湿度の高さが目立つ横浜市内。みなとみらい線の日本大通りの駅まで歩いて向かう前にホテルの外観を見上げてみました。客室は今回滞在した19階まででその上は宴会場になっているようで、フルハイトの窓がジグザクに配されている様子が分かります。おそらく方角からして、ベイブリッジや元町・中華街あたりを見渡せるようになっていることでしょう。私はそうそう利用するような機会もないだろうけれど、どのような内装になっているのかは気になりました。
カクテルタイム
夕方すぎにホテルに戻ってくると、ちょうどカクテルタイムだったので、リージェンシーラウンジに足を運んでみました。本来であれば、もう少しゲストで賑やかなのではないかと思いますが、今回はほとんど人がいなくて静かでした。私は窓際(といっても低層階だし、格子もあってさほど景色は期待できません)の席に座ることにしました。
カナッペなどの種類はさほど多くありませんが、質はなかなか高く楽しめる内容でした。またスパークリングワインや各種リキュール、またソフトドリンクもほどよく揃えられていて、充実度は及第点、いや価格帯を考えると十分すぎると言えるのではないかと思います(季節にもよりますが、私が滞在したときには、付近のビジネスホテルよりも僅かに高いという程度のレートでした)。ただしスタッフはあまり積極的にゲストにサービスを提供しているという印象はありませんでした。このあたりは割り切って楽しむほうがいいように思いました。
このクラブラウンジのもうひとつの不満点としては、せっかく質の高いカナッペがあるのに、それを取ってくるための平皿の用意がないということです。カクテルグラスに入っているようなものはともかくとして、スプーンの上に載せてあるようなものをさすがに剥き出してテーブルの上に置くのは抵抗感があります。
今回はとりあえずスタッフに尋ねたところ、促されるようにしてソーサーを使って盛り付けることにしました。カクテルグラスが意外とぴったり乗ってしまったことが嬉しいような悲しいような…この盛り付けの不便については、なるべく早く解消してほしいものだと思いました。
ホテルニューグランドで夕食を
さすがにカクテルタイムのカナッペだけでは空腹を満たされないので、ホテルのレストランでの夕食を考えていたのですが、いまのところ(2020年6月現在)、コロナウイルス感染拡大防止のために、オールデイダイニングの「ハーバーキッチン」は夜は開いておらず、ルームサービスも休止中。またファインダイニングのミラノグリルについても問い合わせてみると、こちらは1日3席限定となっておりすでに予約はいっぱいでした。そうかといって、どこかでテイクアウトというのも味気ないので、外に食事に行くことにしました。
このエリアは昔からちょっと馴染みがあり、好きなお店がいくつかあります。特にクラシカルな名店にも恵まれていて、外に食事に行くのも悪くないものです。大さん橋のすぐ近くにある「スカンディヤ」でスモーガスボードなどのスカンディナビア料理とアクアビットを合わせるのもいいし、少し歩いて中華街や元町の方に抜けてもいい。色々と考えたけれど、この日の気分は私の好きなクラシカルホテルの昔ながらの味わいでした。
ホテルから歩いて数分、山下公園に面したところに、横浜を代表する名門ホテルである「ホテルニューグランド」があります。堅牢な石造りの建物は外観からして重厚感がありますが、中に入ると、いかにもクラシカルホテルらしい優雅な空気が流れています。このホテルにも少なからぬ思い出や縁があるのですが、そのことについては、いまは語るのをやめておきましょう。とにかく真っ青な絨毯と白く高い天井のコントラスト、そして和洋折衷様式を基礎とした豪華な作りが印象的なロビーを見上げてみます。そして食事の前に少しだけ階上に立ち寄ることにしました。
黄昏時のこのロビーラウンジは一段とノスタルジックな雰囲気が漂います。異国情緒という言葉だけでは表現しきれない歴史の蓄積。進駐軍が駐留していたときに、かのマッカーサー元帥が滞在していたのもここのホテル。港に入る船の旅人を迎え入れ、出ていく旅人を見送ってきて、その中にはもうここに還らない人もいるでしょう。ここを訪れた数多の旅人はいったいどのような想いをここのラウンジに投影してきたのでしょう。
クラシックホテルの魅力は、その長い歴史の中で積み上げられてきた、人々の記憶によっても形作られてきたものと言えるかもしれません。ましてや横浜という国際的な港町にあるこのホテルには、遠い異国への憧憬や様々な人々の交流に彩られた記憶が息づいているように思えてきて、そのロマンティックな情感に圧倒されるような気がします。私も私自身と誰かとのこのホテルに結びつく記憶に想いを寄せてみました。そしてこれから積み重ねていくだろう未来に心を委ねてみました。
夜露のベイブリッジと静かな夜の客室
ホテルニューグランドの1階にあるカフェでシーフードドリアを簡単に食べ終えると、すっかり外は暗くなっていました。梅雨に特有の湿度の高さに加えて、海から運ばれてくる潮風の湿度を感じながらハイアットリージェンシーへと戻ります。
海沿いの道ではなくても潮の香りは夜風に乗ってやってきます。しばらく歩いてホテルのエントランスから入ると、バーラウンジにはうっとりするような青白いシャンデリアの光がぼんやりとついていました。外の湿気から急にエアコンの涼しさを受けると、なんだか気怠いような心地よさ。こんな夜ならば、通りを行き交う人や車を背後にしながら、あの青白い光の下で恍惚に身を任せてしまいたくなります。
客室からはライトアップされた氷川丸と奥に控える山下埠頭のオレンジ色のランプ。夜中の間に一雨来そうな霞んだ空の向こう側には蒼光のベイブリッジとそこを通る車のライトが見えます。この時間になると、このあたりはすっかり人も少なくなって静かに夜が更けていきます。
灯りを落として間接照明だけになった客室。ふと備え付けられたBluetooth接続のスピーカーで、1950年代のジャズをかけてみました。シャワーを浴びて、ほどなくしてベッドに入ってみましたが、妙に浮き足立ってうまく寝つけません。なんとなく浅い眠りと目覚めを繰り返すままにどんどん夜が過ぎていきました。
ハーバーキッチンの朝食とチェックアウト
昨夜の予想通り、朝早く目が醒めてしまったので、ベッドから抜け出して身支度を整えます。外は雨。今日は仕事を一切オフにしてしまいましょう。
朝食のために階下の「ハーバーキッチン」に行きます。いまのところ(2020年6月現在)は、ブッフェでの提供はなく、洋食のセットメニューが用意されています。ペストリーやチコリとキヌアのサラダ。そしてトリュフソースのオムレツ。コーヒーを飲みながら雨の降る通りを眺めていました。
ここの朝食の特筆すべきところとして、デザートにホテルオリジナルのジェラートがついているところ。これがとても爽やかで美味しいものでした。甘いもの好きの私としては非常に嬉しく、蜂蜜クッキーとカシスの2種類を頂くことにしました。
雨が上がっていたので、食後に少し体を動かすべく、再び港の方まで歩いてみました。ホテルに程近い山下公園の入り口から高架橋を渡り、象の鼻パークに着くと、厚い雲から差し込む僅かな光に照らされるみなとみらい。赤レンガ倉庫やクイーンの塔などのいかにも横浜らしい景色に、少しだけ石油とプランクトンの匂いが混ざります。
今日はきっと良い日になる。そのように思いながら、ホテルに戻りました。
次の目的地に向かうべく午前中にはチェックアウト。リージェンシーラウンジではなくて、一階のフロントで手早く済ませました。駐車場から車を出す前に、少しだけエントランス周辺に腰掛けて、これから向かう場所の地図などを眺めました。明るく静かなロビー。これからこのホテルはどのような人を迎えて、どのような歴史を辿っていくのだろう、そのようなことも考えていました。
全体としてみれば、今回の滞在はあっさりとしたものでした。このホテル自体はラグジュアリーホテルのような楽しみ方はできないと思います。しかしある程度割り切って滞在すればなかなか快適なステイができるのではないかとも思いました。個人的にもし横浜のホテルで、非日常の楽しさを享受したいならば、みなとみらいのホテルやニューグランドを選ぶことでしょう。しかしこのホテルの潜在的な魅力は、モダンで快適な設備を有しながら、横浜らしさを十分に満喫できる「場」に位置しているということです。ビジネス需要であれ、プライベートな滞在であれ、その潜んでいる魅力を少しでも見つけることができれば、ここハイアットリージェンジー横浜に泊まることには特別な楽しさを覚えることができると思います。私自身はそうした観点からまたここに戻ってきたいと思いながら、このホテルを後にしました。