あの日も私たちはオークドアに来て、そして今日も。

東京の六本木にあるグランドハイアットの6階には、いくつもの個性的なレストランがあり、とりわけグリルレストランのオークドアはトニー・チーのダイナミックなデザインが際立ち、どこか日常を抜け出すような雰囲気が漂っています。重なり合う正六角形の真ん中にあたたかい色合いの照明が配された巨大なライトの下には、モノクロームの美しいコンテンポラリーな内装の空間が広がっています。

私はパートナーとこの席で今日もテンダーロインステーキを頂いています。しかし1年前の今日もまた彼女と私はこのお店にいました。そのときはお互いをほとんど知らないもの同士として。

ふたりが出逢ったばかりの写真にはお互いどこか翳を帯びたような表情をしていますが、その日もおそらくそんな表情をしていたことでしょう。あの日は梅雨の只中にあってよく晴れた蒸し暑い日で、私は、初対面に特有のぎこちなさと熱気を併せ持った会話を交わす中で、彼女との価値観の共通点をいくつも見つけ出していたのでした。そしてもちろん彼女の品の良い雰囲気に心打たれるものがあったことを付け加えておかなければなりません。

似たような境遇、似たような趣味、同じ愛読書、そして私が最も好きなホテル「パークハイアット東京」での思い出…これまでの人生で交錯していても全くおかしくないはずなのに、なぜこれまで会わなかったのか不思議なほどだったのです。

その日はあまりにも会話に夢中になっていたせいでしょうか。気付いたら閉店の時刻でした。また近いうちによかったらフランス料理を一緒に食べにいきましょう。そのように約束しながら家路を辿り、茫然とした気持ちでお風呂に入り、ベッドで眠って、翌朝。目を覚ますと、私の心の中になにかしらの空白があるような感覚がありました。欠陥があるようなもので、昨日の時間を取り戻したいという乞うような気持ち。

彼女と過ごした時間を乞うている自分のこの感情こそは、そのとき忘れかけていた、あるいはこれまでに真から感じたことのなかった誰かを恋しいと思う感情に他ならなかったのです。私はいてもたってもいられずに次の食事の提案を彼女にしていたのでした。

それから1年。テンダーロインを食べ終えて、ふたりが大好きなこのレストランのデザートを。ほろ苦さと甘さがたまらないコーヒーゼリーのサンデー。

あのときはほとんど味を覚えていませんでしたが、今日はお互いにひとつひとつの料理を味わうような余裕と、それをふたりで分かち合える喜びがあります。本当に色々なことがありました。お互いを気遣いすぎて疲れ切ってしまったこともあるし、コミュニケーションの違いに戸惑って、しばらくぎくしゃくしたこともありました。しかし相手を罵るような喧嘩をしたことがなく、いつも冷静に穏やかに気持ちを伝え合うようにしてこれました。彼女の人格に依るところがとても大きく、私が心から感謝していることのひとつです。

今日はグランドハイアット東京にこのまま泊まります。思えばこのホテルにも何度もふたりで来ました。真夏、秋口、クリスマス、今年の年明けにもしばしば足を運び、ときに切なく、ときに嬉しい、美しい記憶が積み重なってきました。しばしばひとりで部屋から眺めていた景色も今日はふたりで眺めます。エレベーターホールのこの構図。東京らしさ溢れるこの眺めが私たちは大好きなのです。

現代的なグランドホテルとして、ここは人を結びつけるような場所でもあると私は思っています。このホテル(もちろん他の素敵なホテルもですが)を通じた交流の輪もますます広がりました。

私はこのようにブログで、あるいはTwitterやInstagramで、ホテルに関する配信をしていますが、そのなかで最も嬉しいことは同じくホテルというものを愛好する人たちと様々な交流が持てるということです。そしてさらに嬉しいことは、パートナーと一緒に過ごすようになってからというもの、ふたり揃ってその交流に参加できるようになったことです。私たちの主観的なリポートにも関わらずいつも読んでくださっている方たち。あたたかいコメントを寄せてくださる方たち。そうしたすべてのご縁がとても嬉しく、パートナー共々心から感謝しております。どうもありがとうございます。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

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