それはたしか、来日した米国人教師のD女史が青空を見上げながら、日本の5月の気候の美しさを説いたときのことだったように記憶しています。どうしてGolden Weekというのですか?そのように聞かれて、その場にいた何人もの生徒は黙りこくってしまいました。その由来は結局わかりませんでしたが、私は金色に輝く太陽に照らされた青空に、雲が浮いていて、涼やかな風と暖かな日差しが心地よく混ざるこの季節の心地よさを連想したのでした。
2021年の5月は、緊急事態宣言の下の混乱と吹き荒ぶ強風に次々と表情を変える空模様で幕を開けました。私は今日もいつものようにパートナーを迎えにいくために首都高速を快調にドライブしていました。
彼女を迎えて西新宿へ。今日は正面玄関に馴染みのスタッフがおらず、エレベーターホールも少し混雑していました。徐々に光を増していく高速のエレベーターを降りて進んでいく長いチェックインへのアプローチ。数日前にTwitterで交流のあるKENJIさんと、夜中までこのホテルについてClubhouseで語り合ったときに、この距離を歩くという体験の魅力を再発見したことが思い起こされました。
空間から空間への体験がシームレスにつながっていき、私たちはパークハイアットというエクスクルーシブな物語へと足を踏み入れていくのだ…
煌々と光差し込み、緑が眩しいピークラウンジを超えて、暗い空間の左右に都心のスカイライン。そしてジランドールの高い天井に数々のモノクロ写真、トマトベースのカレーの香り…ライブラリーの絵画は今日は明るい春模様でした。
じつはパートナーを迎えにいく前に事前にチェックインを済ませたのですが、さすがのゴールデンウィークだけあって、いつになく混雑していました。今回は部屋で少しゆっくりしたいと思い、広めの部屋は空いていないかスタッフに聞くことにしました。すると先日滞在したディプロマットスイートにまだ空きがあるということで、そちらを用意してもらうことにしました。
チェックイン・ディプロマットスイート
部屋の準備ができるまでウェイティングルームを用意されて、そこで待っていましたが、しばらくして電話があり、ディプロマットスイートへ。
先日来たときは窓の外は春の嵐。今日は吹き荒ぶ風に雲は流された快晴の青空。明るいリビングルームがより明るく見えました。以前滞在した部屋とは壁にかけられた絵が異なっていますが、おそらく、以前の部屋と階数が異なるためでしょう。
グランドピアノの上の本も少し違います。ちなみにピアノの音もこちらの部屋の方がしっかり聞こえるような気がしました。鏡が随所に使われて、明るさと開放感の際立つリビングルーム。キープコンセプトとはKENJIさんの評。ブレのない落ち着きと高揚感が同居したデザインだといつも思います。
ベッドルームはこのホテルで特に私の好きな方角である南東向き。ダイナミックな東京の景色を眺められると共に、カーテンを開けて眠れば、東京の街に上る朝日の神々しさを眺められます。ソファーやデスクも使いやすさとデザインセンスの高さが際立つもの。じつによくできたベッドルームだと思います。
ベッドルームの奥にあるバスルーム。昼でも夜でも心地よいこの開放感は群を抜いていると思います。先日滞在したときには雲に包まれたどこかミステリアスな景色でしたが、今日は代々木公園や神宮外苑の若葉がみずみずしく見えました。
今日は部屋でゆっくりする。そのようなわけで部屋の本なども少し眺めてみることにしました。リビングルームには旅の本がいくつもありましたが、ベッドルームには世界の料理の本がたくさん。本棚の一角に積まれていた本を取り出して広げてみるとフランス料理の本。ブルゴーニュやリヨン…地方の様々な料理が書かれていて食欲をそそります。数日後にパートナーと青山のビストロ・ブノワを訪ねたときに、プリフィックスで選んだ料理が見事に田舎料理ばかりだったのは、このとき読んだ本の内容が頭の片隅にあったからなのか否か。いずれにしても、部屋にあるたくさんの本を広げてみるのも面白いものです。
ノンアルコースのトワイライトタイムと「梢」を過ごす
ニューヨークバーでお酒の提供を行っておりません。バーなのにお酒がない。そんな奇妙な事態がこれまであったでしょうか?
新型コロナウイルスの感染拡大によって発出された3回目の緊急事態宣言。そのためにレストランでアルコール類の提供を自粛することになっており、パークハイアット東京では、バーに限らず、すべてのレストランでアルコールの提供を見合わせていました。以前はピークラウンジで提供されていたカクテルやワインなどの飲み放題と軽食のついてトワイライトタイム。いまはルームサービスへの振替か、ノンアルコールの飲み物と軽食のみ提供するニューヨークバーへの振替かの二択でした。
最近はすっかりノンアルコール派になったパートナーと私。ニューヨークバーのメニューをみると、かなり様々な種類のモクテルやノンアルコールワインが用意されていて感心してしまいました。個人的にはこれほどの組み合わせが用意されているのはとても嬉しいもので、もちろんアルコールの提供ができるような状況を再開を願いつつ、これほど充実したノンアルコールメニューも継続させてくれたら嬉しいと思いました。
徐々に日の長さが延びてきて、午後5時を過ぎてもまだ十分に外は明るい。私はベリーニ、彼女はサングリアホワイト。綺麗な暖色に弾ける微炭酸のグラスで乾杯。ふたりではじめてこの場所を来たときの写真を見返すと、表情の硬さが際立ちます。敬語だったふたりの会話も今はため口。和やかに飲み交わすノンアルコールの飲み物とタパス。二杯目はベルベットのような舌触りのミネラルウォーター「シャテルドン」を。
ふたりで語り合っていたら、あやうく午後6時から和食の「梢」に席を予約していたことを忘れるところでした。さっと席を立って、足早に41階に。グリーンのカーペットからレッドカーペットへ。そして艶のある木の階段を降りていくと、天井が高くてすっきりとしたインテリアのレストラン。先日滞在したときに昼食を取った梢。夜の少しムードがありながらも開放的なここの雰囲気もまた素晴らしいものです。
アラカルトメニューが充実していることが、国内のハイアットで食事することの楽しみのひとつでもあると思うのですが、今日も単品で、先付や造りをお願いします。そして最後にいまの季節らしい蛍烏賊と生姜の炊き込みご飯を。ここに合わせるミネラルウォーターは奥会津の天然水。シャテルドンの軽やかな舌触りとすっきりした飲み口に対して、奥会津はきりっとしたミネラル感とほのかな酸味が特徴的で、硬質な印象。これに加えて部屋にあったボトルエビアンなどもいただき、さながらミネラルウォーターのテイスティングをしたような気分になりました。
デザートは部屋のリビングで
普段であれば、デザートをいただきたくなるところですが、今日は部屋に戻ります。我々の滞在しているディプロマットスイートにはキッチンがついているのですが、冷蔵庫の中に、階下のペストリーブティックで買ったケーキを取っておいたのでした。
冷蔵庫から出してふたりで分け合って食べることにします。ペストリーシェフ、ジュリアン・ペリネ氏の感性光るチーズケーキ。デカフェのコーヒーを淹れて、しっとりとしたピアノの音色を聞きながら…そうしているうちに、だんだんと心地よく、やや眠いような気分になってきました。
ビューバスから夜景を眺めつつ、テレビもつけて、バスソルトを入れて…ふたりともいつもより少し長風呂。Aesopのクラシックシャンプーの香りはパークハイアット東京をいつも連想させますが、やはりここで使うと、その記憶が更新されていくような気がしてきます。今日もまた心地よい水圧のボディーシャワーとヘッドシャワーを稼働させて…
今日は長い距離を歩くこともしなかったし、プールで泳ぐこともしなかった。明日の朝早く起きたら久々にクラブオンザパークのプールに行こう。すっかり静かな東京の夜景を遠くに眺めながら、ベッドサイドのガラス球状のつまみをひねって、部屋の灯りを落とします。今日も一日が終わる。パートナーと一緒に平和に過ごせることのありがたさを頭の中でぐるぐると巡らせながら、柔らかくもふわふわしすぎない心地よいベッドで目を閉じました。
クラブオンザパークの朝。そして流動的な空の一日
昨晩予想した通りの少し早い目覚め。とはいえ、強いて言えば、朝二番とでもいうべき時間帯。朝食の前にプールで少し体を動かそうと、バスローブに着替えて、45階に向かいました。
夜のプールもムードがあって好きなのですが、私は早朝のホテルのプールが好き。こちらパークハイアット東京のクラブオンザパークも、無機質でメタリックな雰囲気(とはいえ冷たさはまったく感じない)の中に、緑がアクセントになっていて、都心の空中庭園のような雰囲気があります。奥のベッドサイドにタオルを敷いてもらって横になれば、喧騒の朝からは隔絶された静かな雲の流れを望むことができます。
このサスティナブルなミネラルウォーターはいつからここに用意されるようになったのだろう?
数百メートル泳いでからプールサイドに戻り、パートナーと何気ない会話を交わします。おそらく今日はジランドールは少し混んでいるだろう。そう思った我々は、朝食をルームサービスでお願いすることにしました。
心地よい疲れを感じながら、部屋に戻る前にクラブオンザパークのスパ施設で少し体を温めます。窓際の角の席に座って、用意されているAesopのフェイシャルケアで整えましょう。そういえば以前ひとりで滞在していたときには欠かさず朝にここを訪れていたものでした。この清々しい気分もまたこのホテルの魅力的な体験として欠かせないものなのだという思いを新たにしました。
朝食は部屋に置いてある横長のダイニングテーブルへ。指定した時間ほぼぴったりに用意してくれました。いつも欠かさず注文するエッグベネディクトとフレンチトースト。マスクメロンの瑞々しさもマンゴーの甘酸っぱさも味わいたいカットフルーツ。そして本当はリコッタチーズに蜂蜜をかけたものも頂きたかったのですが、残念ながら、今日は用意がないとのこと。代わりにブラックペッパーチーズを用意してくれました。パートナーがそれをパンケーキに乗せて、メープルシロップをかけて食べていましたが、これが絶妙な組み合わせだったようで、とても美味しそうな表情をしていました。その様子をみて、私も少しもらってしまいました。
すっかり満腹になった我々はしばらく食後の読書タイム。今日もまた綺麗な青空。しかしときどき強い風が吹き抜ける甲高い音も聞こえ、雲が激しく動いていく様子も見えました。多摩の方に分厚い雲がかかっていると、なんだか景色も霞んでいる。天気予報を眺めるとあとで一雨来るらしいことがわかりました。
まだ青空が見えているうちに、ちょっとした用事を済ませつつ、散歩しよう。往路は徒歩で、復路はタクシーで。うまいこと雨に降られる直前にホテルに戻ってくることができました。
朝の気持ちのよい青空から一転、分厚い雲に覆われた新宿。昼食は再び梢に行くことにしました。周囲を見渡すと、家族で会食している人たちが多く、かなり賑わっていました。我々は窓の外を一緒に眺めながら、苦いクラフトトニックを飲み、再びの季節の和食を。とりわけ煽り烏賊のねっとりとした甘みが堪らなく美味しく感じました。
九条葱と浅利の深川飯。さっぱりとした出汁の風味もとてもよく、色合いも鮮やかな逸品。吹き抜ける風が暑い雲を誘き寄せ、窓にあたる雹の軽いコツコツという音が聞こえてきました。煎茶を頂いてから部屋に。ジランドールから移ってきた馴染みのスタッフにも久々に会って少し話せたことも嬉しく、私も彼女もここのふぐを食べ損ねたため昨冬に食べるチャンスを逃してしまったため、今度こそ!と確かめ合いながら、この店をあとにしました。手を取り合いながら階段を登っていくと、見送るスタッフのありがとうございましたの声。少しだけ照れくさい気持ちがしました。
部屋に戻ってくると、もうしばらくしたらチェックアウトの時間。ゴールデンウィークとはいえ静かに過ぎたあっという間の2日間でした。正面玄関には馴染みのスタッフ。バレーパーキングの車に乗り込むと渡されるミネラルウォーター。少し傾きかけた太陽を眺めながら、パートナーを家まで送ります。
次はいつここに来よう?素晴らしいホテルで過ごしたあとの帰路では、いつもそのような会話を交わします。高揚感と安心感の不思議な両立のなかで過ごす束の間の非日常。そのなかで日常は括弧に入れられて、私たちは、自分らしさから開放されたり、その逆に自分らしさを取り戻したりするのかもしれません。今日の首都高はいつになく空いていて、なんだかとても軽快な気分でした。