日本の乗り鉄(鉄道ファンのなかで列車に乗ること自体をたしなむ人たち)にとって、もっとも気軽に海外の鉄道に乗ろうとすれば、韓国の鉄道がその有力候補に上がってくるのではないでしょうか。距離的にも近いし、おおむね時刻表通りの運行を行なっているため、比較的簡単に乗り鉄の旅を行うことができます。
今回は韓国初の高速鉄道であるKTXに乗って、韓国の首都ソウルから第2の都市プサンまでの旅をリポートしていきます。KTXは2004年に運行を開始した高速鉄道で、現在のところ最高時速305km/hでソウループサン間を最短で2時間18分で結んでいます。現在では路線ネットワークも拡大し、韓国各地とソウルとを結ぶ列車に成長しました。
注目点すべきは、このKTXがフランスの高速鉄道TGVと同じ方式で運行されていることです。そのため車両も共通するものが使われています。それがどんな雰囲気なのか開業からずっと気になっていましたが、今回は私のパートナーも付いてきてくれて、ついに乗ることができました。
KTXの乗り方
ソウルからプサンまで走るKTXは、ソウル駅から出ています。なお一部の他の地域からの列車は龍山駅から出ています。これは主要な新幹線が出ている東京駅と中央線の主な特急が出ている新宿駅の関係に似ていますね。
こちらがソウル駅の構内です。近代的で空港を思わせようなかなかの威容です。
ちなみにかつては日本統治時代の煉瓦造りの旧駅舎がありましたが、そちらも保存されてちょっとしたランドマークのようになっています。
ソウル駅の構内にはコンビニエンスストアやチェーン店のカフェ・レストランなどが入っています。なお空港鉄道A’rexや地下鉄1号線と4号線も乗り入れています。
なお改札口のようなものはなく、直接列車乗り場にいくようになっています。KTXのチケットは事前にKorailからオンラインで入手することができます。
駅コンコースから入場してホームに向かいます。乗車するKTXが左下の方に停まっています。また一番左にある赤い列車は最新型の「ITX-セマウル号」というものです。こちらは最高時速150kmで、ソウループサンの他に光州や木浦などの半島に南西にあたる全羅道などにも向かう列車です。こちらもいずれ機会があれば乗ってみたいものです。
いよいよ乗り込みます。今回はファーストクラスに当たる特室を予約しました。
KTX乗車記
KTXはフランスのTGVの技術を導入しており、車両にも同じ規格が持ち込まれているというお話をしましたが、それは座席の構造にも反映されています。
じつはこのことがちょっとした問題を生じさせていまして…開業当初の車両だと、なんと普通席(一般室という)は集団見合い式という、客室の半分が進行方向と逆向きになってしまう構造になっています。これには苦情も多数寄せられたらしく、新型は座席を回転させられるようになり、この問題は解消されましたが、まだ開業当初の車両は多数活躍しています。
もちろん前向きを指定してチケットを購入する手段もありましたが、はじめから確実に進行方向の座席を取るもうひとつの方法としてはファーストクラス(特室)に乗るという手があります。特室と一般室の差額は日本円でおよそ¥2,350くらいです。
これを高いと見るか安いと見るかですが、参考までに東海道新幹線で同じくらいの所要時間である東京ー新大阪間をグリーン車に乗った場合の普通席との差額は¥4,780です。ということは単純に考えて半額くらいの差額で利用できるという計算になります。
乗り込むときは、ホームと車両との間の高低差があるので、ステップを登ります。このあたりはバリアフリーの対応が日本の新幹線よりも難しそうです。
とはいえ、未乗の鉄道に乗りこむ瞬間というのは楽しいものです。なお車端部にはスーツケースを収納できるスペースも用意されています。
マガジンラックがあり、その横に自動販売機のようなものが見えます。これはじつは特室の乗客に対するサービスのミネラルウォーターです。
私たちも受け取って座席に向かうことにしました。
車内はこのような感じです。大型の真っ赤なシートが2−1の配置で並んでいます。写真だとそれほどでもありませんが、間接照明ということもあり、少し薄暗い感じです。
大型のリクライニングシートは特別席らしさを感じさせます。座り心地もまずまず快適。日本の新幹線のグリーン車のような人間工学に基づいたリクライニングやフルカラーLEDの案内表示器などはなく、そうした点では見劣りしますが、特別席としてはまず及第点といったところでしょう。
壁側にはUSB式の充電と韓国規格のコンセントも備えられています。
座席などのハード面では日本の新幹線に劣るといいましたが、ミネラルウォーターに加えて、このようなお菓子(ナッツとクッキー)のサービスがありました。このあたりはなかなかよいと思います。
プサンに向かう
しばらくはソウルの都市圏を走りますが、車窓はあるところから急激に田園地帯へと変わっていきます。
列車はかなりの高速でこのような田園地帯を駆け抜けていきます。基本的にはこうした景色が続きますが、いきなりビルが乱立する都市部に出る、というコントラストのある車窓が楽しめます。日本の、特に東海道新幹線の場合は、長いこと都市部や住宅地が続くので、こうした違いはなかなか面白いものです。
駅で私のパートナーが買ってきてくれたキンパ(韓国式の海苔巻きごはん)をいただくことにしましょう。タレにつけて食べたのですが、なかなか美味しかったです。海苔とゴマが香ばしく香り、具になっているツナと野菜のおいしさをうまく引き立てていました。
そうこうする間に韓国で5番目に大きな都市である大田(デジョン)につきました。ここには韓国鉄道公社(Korail)の本社もあります。
KTXは在来線と線路を共有しているので、こちらは昔ながらのホームにつきます。ローカルな感じがなんともいい味を出していました。
そうこうしているあいだにウトウトしだして、気づいた頃には…
プサン駅に到着する直前になっていました。
本当にあっという間の鉄道の旅でした。惜しむらくはもう少し起きていて風景の写真を撮っておけばよかったということ。
プサン駅です。駅から海が目の前にみえて、いかにも港町にきたという感があります。駅舎も近代的で明るく、とても開放感がありました。
駅の外はこのような感じ。
現在は工事中ですが、山づたいにビルやカラフルな住宅が連なっていて、日本の都市とも違うし、ソウルともまた違うユニークな景観が目を引きました。
こうしてソウルから高速鉄道での旅をしてきましたが、なかなか快適でした。次に機会があればソウルの南から出ているSRTという新しい高速鉄道に乗りくらべなどもしてみたいものだと思いました。