2024年夏のホテルステイを振り返る

ホテルステイに興味がなくなった…わけではないのですが、ここのところ、なんだか気持ちがそこまで乗ってこない自分に気づいています。相変わらずたくさんホテルに泊まってはいるのですが、以前のように積極的に魅力を伝えたいという気持ちが失われつつある自分もいます。私のこのブログは情報の鮮度としては高くないという認識があります。お得な情報やホテルの詳細な情報があるわけではない。私はホテルの専門家であるわけでもない。ただひとりのホテルファンであって、その個人的な体験が綴られているにすぎない。個人的な体験…そこに前はもっとうねりがあった気がするのです。その感情のうねりやゆらぎがその体験にいろいろな色を与えていたと思うのです。それでは最近はどうなのか。良くも悪くも感情がフラットなのです。現状を変えたいとか、誰かの言葉や態度に喜怒哀楽のさまざまを刺激されたりとか、そういうことがずいぶんなくなったような気がします。それは一面では幸せなことかもしれない。でも他方で、人生という舞台としては、なんだか無味乾燥な気もします。

常々ホテルは物語が交錯する場所だと私は思ってきました。私の物語はモノクローム。ある意味で。それならば私が変わればまた良くも悪くも色鮮やかに、ホテルという空間に結びついた物語が紡ぎ出せるかもしれません。その糸口はなかなか見えないような気もしますが、思いがけないところに、ふっと見つかるものかもしれません。なんだかネガティブなニュアンスで書き始めたわけですが、それほど人生に失望しているわけではありません。むしろ今の私にはホテル以外の場面に充実があると言えるかもしれません。

もうひとつ、過去を振り返っても仕方がないのですが、みんないまよりずっと気楽にホテルに泊まりに行けた数年前の状況と現在がかなり異なって感じられるのもこうした上に書いた状況に拍車をかけている気がしています。コロナ禍は確かに不安と不自由の時代といえます。不幸で停滞的でした。しかし私たちの生活のなかにホテルという場所がすごく近づいた時代であったとも言えるかもしれません。2024年現在とは比べ物にならないくらい安く、気楽に、そして場合によってはサービスの水準も高く泊まれたあの頃は、ネット上でもたくさんのホテルの情報や体験の交換(また交歓)がなされていて、私もその雰囲気のなかを生きていた気がします。もちろんその時期特有のトラブルなどもあったのですが、それでもなおホテルの話をしていて、わくわくするような、独特の雰囲気があったように思います。それからわずかに数年。私もそうですし、少なくない人がそうかもしれませんが、ワーケーションとかホカンス、みたいなことがそれほど気楽ではなくなったように思います。思い返せば、コロナ禍以前にも私はこんな感じでホテルを渡り歩く生活をしていたのです。そのころに戻ったといえばその通りなのですが、他方で、あの一過性の熱狂のような雰囲気を少し懐かしく思い出し、それでもの寂しい気持ちになってしまうのです。しかしそれでも、こうしてブログを続けていく中で生まれた出会いも多くありますし、今もそうした人たちとつながれていることは幸せなことだと思います(もちろん中には寂しいことにもう連絡が取れなくなってしまった人たちもいるわけですが)。

そうした人たちとのつながりがある限り、私はやっぱりホテルについて語りたい。そしてそうした人たちのホテルについての語りを聞きたい。そんな想いでもって、この夜間飛行の見聞録をもう少し続けてみたいと思うのです。

さて、ここまでは前置き、それもきわめて長いうえに、自分語りで、おそらくあとから読み返して赤面することは間違いないでしょう。本題は2024年夏のホテルステイ。ここで「夏」という括りでなんとかできてしまうくらいに今年の暑い季節は持続しました。ドラマティックなパークハイアット東京の改装前最後の滞在は5月。そのとき以来、5ヶ月ほど宿泊記は書いてこなかったわけですが、その長い期間ずっと日本は蒸し暑かったわけです。ようやく秋の気配が見え始めたいま、そんな異常気象を自分の筆無精の言い訳にして、ホテルステイを振り返る記事を書いてみたいと思うのです。

5月25日・グランドハイアット東京

パークハイアットロスから立ち上がった。いや、実際のところ、失われたわけではないのですが、なんとなく1年以上もあの空間に行けないという気持ちと、あの閉館前最終日の感動の余韻を持続させたい気持ちでホテルステイらしいホテルステイを避けていた5月中旬。ある晴れた日に思い立って六本木。夜の背徳のポテト。早朝のフレンチトースト。旬房で馴染みのスタッフに会いながら食事したり…いえ、食事だけではなくて、やはりこのホテルの安定感のあるホスピタリティは素晴らしい。使いやすい客室。クラブラウンジの落ち着き。その魅力を味わいながらめずらしく連泊しました。

5月30日・モクシー大阪新梅田

大阪に所用があって、ほとんどホテルで過ごす時間がないような場合に、私がよく泊まるモクシー。本町の方に泊まることが多いのですが、このときは新梅田。客室狭いんでしょう…サービス適当なんでしょう…などと思われる向きもあるかもしれませんが、じつは私がマリオットのチタン会員を維持している理由のひとつに、モクシーやアロフトといったセレクトサービスのホテルが充実しているということがあるのです。新梅田も本町も個性的で明るい雰囲気にも惹かれるのですが、もうひとつ、ジャンクフードが美味しいという意外な一面もあります。このときもモクテル片手に豚トロをいっぱい乗せたタコスに舌鼓を打っていた記憶があります。

6月6日・メズム東京オートグラフコレクション

コロナ禍の初期はホテルのレストランもほとんど閉まっていて、なにか美味しいものが食べたいと思っても魅力的なメニューがないという状況がしばらく続いていたことを思い出します。そんななかで開業したメズム東京のレストランは、その状況下は珍しく魅力的な食事を提供していたので何度かランチにいきました。しかし宿泊する機会を持てないままに今年がじつは初めての滞在。だいたい期待していたとおりのユニークさと快適性の共存を楽しめたのでした。

6月9日・ハイアットハウス東京渋谷

泊まるように暮らす。ということの楽しさを知らないままでいたことを後悔するような、可能性をいろいろと感じられる滞在となりました。基本的に放任な感じのサービスも「ハウス」であれば、むしろ心地よく感じられる気がしましたし、渋谷の一等地というべき場所に我が家を構える。資力がなければ当然実現できないことだし、逆にもし十分な資力があったとしたら、むしろ駅から近すぎると躊躇するかもしれない。どっちにしても非日常な生活体験をこれほど気楽に叶えられるこのホテルは面白い。それは自分ではない自分になれるような感覚。それに魅了された私はその後何度か泊まっています。

6月13日・ホテル虎ノ門ヒルズ

開業日以来泊まってこなかったホテルですが、驚くべきことに、開業日にチェックインを担当したスタッフの方が私を覚えていて、さらには私の好みまでちゃんと把握してくれていたのです。おそらく現在の都内で最もホスピタリティの高さを感じられるホテルでしょう。レストランにもパークハイアットから移ってきたスタッフの方も加わって嬉しい。客室も使いやすくてとにかく快適。バングアンドオルフセンのスピーカーで音楽を聴きながら作業してみたり、ふらりと季節のアイスクリームを階下のプリスティンカフェに食べに行ったり、なんとなく虎ノ門ヒルズを歩いたり…と気楽に過ごせるのも良い。そんなわけで私がいまのところ今年最も気に入って多く泊まっているホテルとなっています。

6月16日・ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル

それはもちろんいまどきっぽい快適性でいったらPier8の方に軍配が上がるわけです。それでもやっぱり泊まりに行くワクワク感は個人的に「グランド」の方が強いのです。おそらく幼少期の思い出もそれを後押ししているのでしょう。ホームビデオにはまだ幼かった私が出来たばかりのこのホテルのビューバスに大喜びしている様子が写っていました…もちろん今も大好きなんです。横浜でいちばん海を感じられるバスタイム。懐かしいマリンノートのバスソルト。ここにホテルが夢の空間だということを思い出させてくれる宝石のような体験がいまも息づいています。

6月22日・ハイアットハウス渋谷

また渋谷に「暮らしに」きていました。このときは数日間滞在。早朝の静かなプールもお気に入り。

7月5日・ホテル虎ノ門ヒルズ

ハイアットハウスに滞在したあとに大阪のマリオット都ホテルに泊まっていたのですが、写真のデータがなくなっていました。そして再びのホテル虎ノ門ヒルズ。夏空。また連泊してしまいました。

7月13日・アンダーズ東京

私にとってはaoスパにはときどき行くけれど、泊まる機会のあまりないホテル。近隣のグランドハイアットやホテル虎ノ門ヒルズ、またハイアットハウス渋谷などに比べるとなぜか積極的になれない。でもたまに泊まるとやっぱり良いものです。このときはスイートルーム。やたら広い窓から都心を一望できるのも魅力。エネルギーを充電できたような気がします。

7月18日 モクシー大阪本町

とても暑い日でいよいよ夏本番になった…と感じていたことを思い出します。朝にモクシーワッフルを焼いて食べていたら視線を感じて見上げると大きなテディベアたちが階段の上の方に…!そんな遊び心にやっぱりこのホテルは好きだと改めて思ったのでした。

7月19日 NIPPONIA奈良ならまち

日本酒が飲めたら…と思いつつ、飲めない私もその雰囲気に惹かれて泊まりたくなってしまう。まだまだ日本には魅力ある地域がたくさんあって、掘り起こされない古くあたたかい建物があって、それをうまく組み合わせたホテルの可能性がある。そんなことに気付かされます。そうそう、ここで素敵なホテリエに出会えたのも嬉しかったのです。日本の魅力を掘り起こしたい。規模が小さいからこそできることがいっぱいある。そう熱っぽくホテルを語る姿はなんだか輝いて見えました。その方は奈良に研修と視察を兼ねてきているそうで、本来は伊予大洲のニッポニアを盛り上げているとのこと。なかなか機会を持てないでいますが、いつか必ず訪ねてみたい場所ですね。

7月25日 オーベルジュドゥオオイシ

去年の夏の終わりに高松に行く機会ができて、そのとき偶然見つけて滞在したときの、あまりにも静かで心地の良い雰囲気に魅了されてまた泊まってみたのでした。全体的に手作りな印象のあるあたたかいオーベルジュ。夏の瀬戸内海。それは言うまでもなく最高なのです。ただし虫が多いというのが個人的には難しいところ。それは自然豊かであることの裏返しなのですが、私はやはりある程度、人為的なところを好むということに思いがけず気づいてしまいました。

7月26日 ANAクラウンプラザ岡山

私が密かに推したいホテルのひとつ。かつての全日空ホテルのリブランドしたクラウンプラザが全国にあるわけですが、施設がどうしても最新のホテルに比べると見劣りしてしまう。そういうなかでも人や食に魅力があればリピートしたくなるものですが、ここはその要件を高い水準で満たしています。確かに部屋は最低限の広さしかないのですが、表面的には見えてこない安定感のある丁寧なサービス。そして朝食なども岡山の地元の食材がたくさん並んでいて楽しい。それに抜群に安い。こんなホテルに出会えると私は宝物を見つけたような明るい気持ちになって、やはりホテルステイはやめられないという想いをあらたにするものです。

7月31日 W台北

ロケーションも抜群に良いし、元気が良くてやさしいサービスが心地よい大好きなホテル。もともとWというブランド自体も好きなのですが、そのきっかけはここ台北でこのホテルに泊まったことです。相変わらず滞在しているだけでテンションが上がりますが、東京以上に蒸し暑い台北の街中を歩いてホテルに戻ってきたときにほっとする家のような感覚も心地よい。毎日15km以上は歩き回るという私にとってはきわめてハードスケジュールだったのですが、それでもなお翌日にはちゃんと疲れが取れているのはこのホテルのもつ包容力やバイブスのようなものが私にフィットしているからでしょう。

8月6日 ストリングスホテル東京インターコンチネンタル

ここのトレインビュールームは鉄道好きの私にとっては心惹かれるものがあります。エントランスからのアトリウムの風格も素晴らしいし、客室の快適性も高く(その機能性の面ではグランドハイアット東京に似ている気がします)、なんだかんだで飽きることない私の品川の定宿になっています。気に入っているクラブハウスサンドを食べながら夜にホテルトークができたことも良い思い出になっています。

8月10日 ホテル虎ノ門ヒルズ

また?と思われるかもしれませんが、今年何度目かのホテル虎ノ門ヒルズ。じつはお盆の期間中(私にお盆休みというものはありませんでしたが)ずっとこのホテルにいたような気がします。用事で出掛けてもほっと迎えてくれる。私は基本的にどこにいてもあまり連泊することはないのですが、このときはなんだか「ホーム」のような気がしていて、チェックアウトしたあとになんだかホームシックみたいな感覚になりました。その後もしばしば食事にいったり、カフェにいったり、とやはり行くことの多いホテルになっています。

8月27日 帝国ホテルタワー館

日系の老舗ホテルに泊まるとその雰囲気にすっかり魅了されてしばらく余韻が続く。帝国ホテルもなんだかそんな魔法にかけられる気がします。ところで一部の方はなぜ今年の夏に私がここのタワー館に泊まっているのか?と疑問を持たれるかもしれません。というのも帝国ホテルはいま大きな転換点のなかにいて、このタワー館も今年の夏前に閉館となって取り壊しがはじまるはずだったからです。しかし工事が少々延期になっている影響で、少なくとも今年いっぱいは営業を続けるようになったとのこと。私もそれを知ったときはちょっと嬉しい驚きでした。日本で最初の商業とホテルの複合型ビル。現在のラグジュアリーホテルのあり方の日本における試金石のようなこの場所にまさか再び泊まれるとは思いませんでした。じつは今年の春先にお名残宿泊を済ませ、愛すべきラ・ブラスリーやホテルバルで会食をして、お別れを済ませたのに、思いがけずまた会えました。ここから眺める銀座や東京の景色。ずっと心に留めておきたいですね。

9月3日 富士スピードウェイホテル

以前は家族を連れて箱根に旅行することが多かったわけですが、最近はこちらを利用することが増えてきたように思います。ロケーションもユニークですが、やはり施設が充実していて新しく、さらにホスピタリティが来るたびに向上していく。その心地よさに惹かれてときどきふらっと泊まりにいきたくなるのです。このときは天気が崩れがちでしたが、あたたかい時間を過ごせました。

9月8日 アロフト大阪堂島

この日も驚くほど暑い日で部屋に差し込む日差しが眩しかった。それでもあえてカーテンを全開にして行き交う車や人たちを眺めていたい。このお気に入りのコーナールームもまた大阪に滞在していて元気をもらえる場所のひとつですね。

9月17日 シェラトングランデトーキョーベイ

いままでノーマークだったホテルなのですが、ここは楽しい。テーマパークに遊びにいくひとたちのどこか楽天的なムード。そして巨大なホテルというそれ自体ワンダーランドのような空間。そういうものが一体となって、私の思うシェラトンらしさを感じさせられて、なんだか楽しい気持ちになったのでしょう。私は個性的なホテルを追い求め、あるいはラグジュアリーの本質のようなものを追い求め、こういうスタンダードに楽しいグランドホテルから少し縁遠かったのかもしれません。その代表格がシェラトンやヒルトン。いまそうしたホテルに泊まることの楽しさについて改めて考えてみたくなっています。

さて、ひととおり振り返ってきました。5ヶ月のあいだに泊まったホテルを振り返ると、それぞれの滞在につき1枚の写真でもそれなりの数ですね。途中で、もう写真だけ掲載して終わりにすればよかったと思いながら、とりあえず書き終えました。重複して泊まっているホテルについては省略したり、そもそも写真を撮っていなかったりして、実際にはホテルで過ごしていた時間はより長いのです。先日グランドハイアットで食事したときの淡い気持ちだったり、昨日食事したヒルトン東京のマーブルラウンジの楽しさについてだったり、改めて思い始めると書きたいこともいっぱいあります。

冒頭に書いた思いを片隅に私はやはり相変わらずホテルで過ごしています。

劇的なときも穏やかなときも、嬉しい時も悲しい時も、まるでさまざまな感情や物語を受け止める器のような、心と体に響き合うホテルと出会うことはあるものです。泊まり慣れたホテルにそれを見つけ出すこともあれば、いままで気づかなかった場所にそれを発見することもあるでしょう。

今回の記事に書き切れなかった様々な出会い。それを話の種にして、またホテルを愛するひとたちと語り合える楽しみに期待しながら、今回の話を閉じることにしましょう。

またお目にかかりましょう。

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