パークハイアット京都はなにしろオープンしたばかりなのだから、このホテルならではのいろいろな施設も堪能してみたい。今回はほとんどの滞在時間をホテル周辺で過ごすことになりました。果たしてパークハイアット京都は、そこが目的地となるに十分なホテルと言えるのでしょうか。
前回の記事では客室やホテル全体に対する印象をリポートしました。今回はもう少しこのホテルの魅力と欠点などについてあれこれ考えてみたいと思います。私はホテル自体が目的地になるようなホテルというのは、次の三つの点が十分に満たされていることが条件と言えるかと思っています。
- ホテルの客室が十分に快適である。
- レストランが充実しているか、質の高い料理・サービスを提供している
- レベルの高いスパ・フィットネス・ビジネスセンターがある
もちろんあくまでもこれは主観的なことなので、人によって重視する点は異なるでしょう。ただ少なくとも私の経験則では、本当に優れたホテルというのは、ここでの三つの要素をすべて高い水準で満たしているものです。もちろんこの要素に加えて、ホテルから徒歩圏内に素敵なスポットがあるというのもポイントは高いものですが、純粋にホテルだけでも行く価値があるか、というのは、私にとってはホテル選びのひとつの鍵になっています。
前回の記事では1点目について検討してみました。基本的に「軽やかなラグジュアリー」という感じのする客室で、東京にあるハイアットとは一線を画した落ち着きが魅力でもありました。そこで今回は2点目と3点目を中心にみてみたいと思います。
シグネチャーダイニング「八坂」
パークハイアット京都でのディナーの候補はいくつかありますが、その中でも特に際立って個性的なのは、敷地内に立つ老舗料亭の「京大和」と、ホテルのシグネチャーダイニングの「八坂」でしょう。ちなみに「京大和」はホテルからアクセス可能ですが、別運営となっているようで、World of Hyattの対象外となっているようです。
今回は「八坂」でディナーの予約をしていました。正確には、事前にホテルのコンシェルジュを通して予約を入れたのですが、うまく連絡が行き届いていなかったようで、直前に再確認をしてなんとか席を確保したのですが…今回の滞在は終始このような調子で振り回されてしまいました。ただしスタッフの応対は極めて丁寧なもので、さほど嫌な感じをせずに過ごすことができたところは救いだと思いますし、そのあたりにこのホテルの将来性を見出すことができたことも、また確かです。
シグネチャーダイニング「八坂」があるフロアまでエレベーターで上がり、扉を開くと、いきなりこのような景色が広がっています。もしかしたらシティビューの客室に滞在していたならば、ここまでのインパクトはなかったかもしれません。しかし「京都といったらどのような景色か?」と尋ねられたら、まずこのような風景を連想するような、絵葉書にもなりそうなほどの景観が目に入ります。このホテルがそれだけ良い場所に立地していることの裏返してでもあります。
この「八坂」の席からもこの景色を眺めることができますが、本当に見事なものです。
八坂は基本的には「鉄板焼きスタイル」となっています。あえて「スタイル」と銘打ってみたのにはわけがあり、これは純然たる鉄板焼きとは異なるものです。
一般的に鉄板焼きのジャンルといえば、和食に分類されますが、こちらは和食の要素をあえて打ち消すようにしているそうです。食材の選定はあくまでも地元・京都の食材を中心として、国産のものを多数使っていますが、仕上げやソースの使い方などはフレンチの色合いがとても強い。結果的に無国籍的な内容の鉄板焼きとなっています。
メニューから選べるのはドリンクのみで、料理についてはすべて「おまかせ」です。一品一品がとても丁寧に考えられて作られており、また目の前で調理することにより視覚的な楽しさもある。しかもいわゆる和食の鉄板焼きとは異なった独自の体験ができるというのも面白いところです。
京都というある意味で「和」の総本山のような場所で、しかも「和」を思わせるような鉄板焼きで、あえて「和」の要素を排除するというのは挑戦的な料理だと思います。それは私たちの「当たり前」という感覚を揺さぶります。鉄板で焼いた料理が次々に出てくると、最後には鉄板で焼いたガーリックライスと赤出汁の組み合わせが欲しくなる…しかしここ「八坂」ではあえてその固定観念に挑戦しているのでしょう。
京都にあって、いかにもな「京都らしさ」から遊離した空間。その土地の文脈から独立した場所というのが私の中のパークハイアットに対するイメージですが、そういう意味では、この戦略は成功していると思います。さてそうとは言ってみたものの…やはりなんらかの形で「ごはん」が欲しかった…このあとルームサービスで特別におにぎりを作ってもらったのですが、とにかく美味しかった、です。。
スパ KOTOSHINAトリートメント
パークハイアット京都の3階には宿泊客が利用できるスパ施設とフィットネスが併設されています。
少し歩いてみて大変驚いたのが、木目はともかくとして障子が貼られたフィットネスゾーンがそこに広がっていたということです。フィットネスマシンの充実度は高級ホテルとしては標準的な内容ですが、とにかく空間としてはユニークだと思いました。飲み物もしっかりと「黄桜の仕込み水」や「レモン水」などが用意されていました。ただしジム専属のスタッフは私が行った時にはいませんでした。
個人的に残念なのは、パークハイアットにもかかわらず、ジム施設にプールがないことです。京都にはハイアットリージェンシーもあり、そちらにもプールはありません。他方で、フォーシーズンズ京都やリッツカールトン京都などの競合しそうなラグジュアリーホテルには立派で快適なプールがあるので、この点はかなり劣ると言わざるをえません。
好意的に見るならば、こじんまりしているために、プライベート感は高いのですが、やはりパークハイアットを名乗るからには、フィットネス施設は最高水準の内容(フィットネス・プール・スパ施設が揃っている)であってほしかったと思うところです。
フィットネスの奥の方にはスパエリアがあります。非常のコンパクトですが、暖かいジャグジーと水風呂があり、手前側にはドライサウナとミストサウナがあります。
シャワースペースも2席のみ。ハンドシャワーとレインシャワーに加えて、ボディシャワーまで備え付けられており、これは非常に快適だと思いました。また椅子があるのも嬉しいところです。
ロッカーエリアに置いてあるアメニティは「KOTOSHINA」という宇治の緑茶をイメージしたフランスのプロダクトです。このフェイスミストは以前は「アンダーズ東京」のスパにも置いてあったのですが、いつのまにか撤去されてしまったものです。柔らかく同時に爽やかさもある香りがとても好きだったので、「アンダーズ東京」のスパからなくなったときはかなり残念に思ったのですが、ここに置いてあって、とても好印象でした。
ちなみに私はここで「KOTOSHINA」のプロダクトを使用した短めのトリートメントを受けてみました。トリートメントルームはなんと1室だけしかなく、非常にプライベート感が高いものです。またセラピストの方もとても感じがよく、技術も確かなもので、とても穏やかな気持ちで過ごすことができました。
パークハイアット京都のスパ・フィットネスについては、プールがないという点では大きくマイナス評価ですが、逆にこの小さくて落ち着いた雰囲気のスパ施設に関しては、高く評価できると思います。つまり利用する方がどのあたりを重視するのかよって好き嫌いが分かれるところだと思いました。個人的にはラグジュアリーホテルの中「だけ」でのんびりと過ごす時にはプールが欲しいと思うので、そこは残念なところです。ただしパークハイアット京都の立地はかなり良い場所ではあるので、周辺の散策も合わせて考えてみれば、これはこれで妥当な形なのかもしれないとも思います。
京大和の和朝食
パークハイアット京都の朝食は、二年坂に面したカジュアルカフェの「KYOTO BISTRO」でのブッフェ形式のものか、料亭「京大和」が提供する和朝食のどちらかを選ぶことができるようになっています。ちなみに和朝食の方は数に限りがあるようなので、予約をしておく必要があります。私はチェックインのときに、翌日の朝食は「和朝食で」とお願いしました。
パークハイアット京都の和朝食は通常だと、ロビーラウンジで取ることができると案内されました。そういうものかと思っていたのですが、今回滞在したパークスイートは庭付きだったので、客室まで案内してくれたスタッフに「この庭をみながら朝食が取れたら素敵ですね」と言ってみたところ、「(英語でしたが)和朝食はルームサービスでも大丈夫です」とのこと。そこで急遽こちらに運んでもらうようにお願いしました。
ところが翌朝の予定時刻になっても一向に食事が運ばれてくる気配がない…そこでフロントに改めて確認してみたところ、どうやら(再び!)連携がうまくされていなかったようで、急いで作ってもってきてもらうことになりました。非常に残念には思ったのですが…料理自体は非常に素晴らしいものでした。パークスイートの坪庭を背景に優雅な和朝食をいただくことができました。
京料理らしい繊細かつ深みのある味わい。煮物から漬物に至るまで、本当に丁寧に作り込まれたもので、これまでホテルで食べた和朝食の中でもトップクラスのもの。老舗の旅館の朝食などにも負けずとも劣らないほどの味わいの豊かさと洗練でした。
和朝食の基調となるものは、なによりもまず「ごはん」でしょう。こちらのごはんは本当に美味しい。つややかで瑞々しい表面、そしてもっちりとした食感、ほのかに残る優しい甘み…同じ米でもここまで変わるものかと感動しました。
その他に特筆したいのが、煮物です。特に海老芋の味わいが秀逸。海老芋なんて、ねっとりしていて、甘みや塩気でごまかされても、なんだか野暮ったい味になってしまうのがせいぜいという印象があったのですが、ここのものは違います。出汁が心地よく香り、食感は一口目にさらっとして、その後口のなかで綺麗にとろけてゆくのです。それはあたかも粉雪のような軽さでした。
私は普段、朝食は断然洋食が好きなのですが、ここに滞在したら、一度は和朝食を試してみて損はないと思います。
食後には部屋に置かれていたネスプレッソでコーヒーを入れて、坪庭でくつろぎます。秋風が木陰を揺らしながらやさしく吹き込んできて、爽快な朝のひとときを過ごすことができました。スタッフ間の連携が行き届いていなかったために残念な思いもしましたが、それでもこの心地よさと爽やかさと味わいの協演に再び出会えるならば、またこのホテルに訪れたいと思えるほどに、朝食は素晴らしい内容だったと思っています。そしてもうひとつ、断然、今度は京大和でも昼食や夕食をいただいてみたいとも思いました。
チェックアウト
朝食を取ったり、周囲を散策していたらあっという間に夜になりました。チェックアウトはロビーラウンジで行います。この頃には混雑していた昼の雰囲気とは打って変わって落ち着いた雰囲気になっていました。
ホテル全体に共通するのは、「軽やかなラグジュアリー」という、ある意味で非常に現代のハイアットらしい雰囲気でした。個人的にはいくつかの点で、物足りなさを覚えることはあったけれども、それでも素敵なホテルには変わりなく、またゆっくりと来てみたいと思わされる魅力に溢れています。それは今回の記事で特にとりあげた食とウェルネスの点についても同じことが言えると思います。
夜のパークハイアット京都周辺は非常に閑静です。普段は混雑していて、とても気疲れしてしまいそうなところですが、このくらい静かで落ち着いた雰囲気はさすが京都だと思わされます。今回の滞在は極めて短い期間でしたし、オープンしたばかりの連休で混雑する中での不快なトラブルもいくつもありました。
いまは、なんというか、このホテルの潜在的な力がまだ発揮されていないような消化不良を感じています。再び落ち着いた頃にここを訪れたときには、もっとこのホテルの魅力に出会いたい。そしてそこからもっと京都の街の魅力にも巡り合いたい…そんな思いを抱えつつ、このホテルを後にしました。