ハーブとフラワーが基調になってるイタリア料理を食べたい、そんな気持ちになる方がどれくらいいるのかは分かりませんが、いまの私は確実にそういう気持ちでいるのです。なぜハーブとフラワーが基調になっているイタリア料理を食べたいと思ったのかといえば、まさにハーブとフラワーを巧みにつかった絶品の料理を堪能する機会に恵まれたからであって、いわば「リピートしたい」という気持ちで、このような思いを胸に抱いているのです。
それはまだ2020年がはじまったばかりの日のことで、普段であれば数多くの人々が行き交うビジネス街の中に佇むことのホテルのエントランスの外もなんだか物静かな感じがしました。東京駅の八重洲側に位置している「シャングリラ東京」のエントランスは、ニューイヤーの飾り付けがされていて、普段からそのキラキラとした存在感で出迎えるシャンデリアとの間で、目線を奪い合っていました。
私はこのホテルについては、普段の日本的な文脈を離れたインテリアが好きなので、このアンバランスさはなんだか不思議なものを見たような気がしました。
ただしこのホテルらしく、節度の保てるギリギリのライン(例えば、それはこのホテルのシャンデリアのキラキラ感が、いやらしく見えるギリギリ手前で、絶妙なエレガンスを醸成しているところにも現れている)にうまく納めている感じもしました。
このホテルのシグネチャーダイニングのひとつであるイタリア料理の「ピャチェーレ」は、ちょうどニューイヤーランチを提供していました。コースの選択肢はなく、メニューは固定。こういうときは、おとなしく出されたものの味わいを堪能するに限ります。
特に感動したのがメインディッシュのイベリコ豚のロースト。全体的にとにかくハーブが効いていて爽やかな香り。このようなシンプルな料理となると、塩加減の良し悪しと素材の質が印象を決めるものですが、こちらの逸品は期待を上回るほどの素晴らしさ。
イベリコ豚の外側にも数種類のハーブが合わせられていて、塩が肉のもつ甘みや余韻を最大限に引き立てています。またハーブやフラワーのもつ上品な香りのおかげで、ポテトから香る土臭さも、良い意味で温かみを感じさせるものになっていたのが印象的でした。
ドルチェが運ばれてきたまず思うことは「白い」ということ。真っ白な大皿に、真っ白なケーキが乗っていて、その上に真っ白ないちごが載っている。左手に添えられているのはピスタチオの味わいかと思いきや、抹茶のジェラート。緑色がむしろ一点で映えているのでそちらに目線が引きつけられがちですが、やはりこの皿の主役は白いケーキの方でした。
いちごは酸味と甘みのバランスがよく、クリームは不味いホイップクリームにありがちなスカスカになった牛乳のような間抜さが一切なくて、上品で控えめな甘みを一口ごとに感じさせるものでした。私の場合、クリームが中心になっているケーキはある程度食べたところで、食傷気味になってしまうところですが、さすがにこれは最後まで満足度を覚えながら終えることができました。この手のケーキであれば、アッサムやウバなどの紅茶を合わせたいところですが、珍しくダージリンのストレートを合わせたいと思いました。それくらい控えめで優しい味わいだったのです。
どちらかというと賑やかさや華やかさが前景化しやすいイタリア料理にあって、ピャチェーレのそれは優しくあたたかい。そんな柔らかな余韻に浸りながら、そろそろ新しい年に向き合うべきことに向き合うことにしましょう。また疲れたらここに戻ってきて、この味わいに再会することを思い描きながら。