喪失感。そう表現するのが最も適切でしょうか。実際にはもっとぼんやりとしてつかみどころのないような心境ではあるのですが、あえて言葉にするならばそれがもっとも適切のような気がします。思い返せばTwitterのアカウントをはじめたのはこのブログの記事を多くの人に読んでもらって、それを話の種にしてホテルについての話題を自由に交わし合えたら幸せだなという想いからでした。周囲にいる多くの人がTwitterのアカウントを持っているなかで、(いまの状況からは信じられませんが)私はSNSに疎くて、FacebookにしてもInstagramにしてもほとんど使っていませんでした。ましてやTwitterは様々な意見が多く交わされていて、ときに傷つくこともあるという話を友人から聞いていて、なんだか怖いなとさえ思っていたほどだったのです。
おそらく物心ついた頃からホテルステイが好きという相当に変わった子どもだった私。思春期の頃でも休みとなれば、祖父と一緒に国内の魅力あるホテルを巡ったり、家族で近隣諸国の個性的なラグジュアリーホテルに泊まったりしていました。やがて成人するにしたがって、家族と一緒に旅行をする機会も減り、ホテルステイはひとりの楽しみになっていきました。ひとりでホテルに泊まり、名物の料理を食べて、優雅な朝の時間を迎える…そんな一連の流れが大好きでした。私の家族が賑やかだったのでひとりになれる空間が嬉しかったのかもしれません。彼女ができたり、友人と一緒に泊まったり、そういうこともありました。でも、やはり、本質的に、私にとってホテルステイは孤独な趣味だったのです。もちろん孤独には良さもあれば寂しさもあります。
そんなある日のことでした。自分の体験をブログに綴ってみようと思い立ったのは。いまだに忘れないのは、私も大好きなホテルオークラの旧本館に泊まったときのことです。日本のモダニズムの傑作であるとともに、家族との大切な思い出がたくさんつまったこの空間が永久に失われてしまう。寂しくて悲しくて。それで必死で写真を撮りました。家族で訪ねたり、ひとりで泊まったり。とにかくそのときの記憶を必死に心に焼き付けたかったのです。
大切な記憶というのは不思議なもので、あたかも良質なワインのように、時が経つほどに熟成されてきて、あるとき心の中で雄弁に語り出すものです。そしてそうであるならば私は自分の好きなホテルの記憶をしっかりとどめて、同じ想いを分かち合える人と語り合えたらきっと幸せだろう…そんな想いもあって、このブログの本当に最初の頃の記事にホテルオークラの記憶の断片を綴りました。今の自分の書くものが優れていると評価するつもりはありませんが、このブログをはじめたばかりの記事の内容は、いまと比べて稚拙な内容でした。まだホテルで過ごすということに焦点を当てるといういまのスタイルに落ち着くまでに書くものの方向性が迷走した時期もありました。しかしとにかく書いたものを誰かに読んでもらいたい。ホテルの素晴らしさや楽しさを同じ思いのひとと共有したい。そんな想いでした。
もともとマメな方でもないけれど、そうした想いに動かされるように、私はこれまで縁のなかったTwitterをはじめることにしました。はじめて「いいね」をもらったとき、はじめてコメントをもらったとき、胸がどきどきして、少し手が震えるような気がしました。嬉しさと緊張がありました。我ながら大げさだと思っているのですが、実際に、それほど感動したものでした。
Twitterをはじめてみると、様々なスタイルで、とても魅力的な投稿をしている方に出会いました。私はそこで気になった人を次々にフォローしてみたのです。自分の意見がうまく言えない私にとっては率直な意見をズバリと言える人が格好良く見えました。また素敵なライフスタイルを送っている人の投稿をみるたびに癒されたり、元気づけたりして、自分もこんなかたちでホテルの魅力を伝えてみたいと強く思いました。なにげないホテルをめぐる(ときにホテル以外の)日常を綴るひとつひとつのツイート。おそらく投稿した方はそんなことを意識したつもりはないのかもしれませんが、ああ、私の人生がここにあって、そうではない人生がこの短文や写真の向こうにあるのだな、と思うことがなぜか私を解放的な気分にさせてくれました。
もっと嬉しいことにはそのような人たちと交流することができるようになったことです。こうしてかつての「孤独な趣味」は、分かち合える幸せな趣味へと昇華したのです。怖いと思っていたTwitter。しかし私はホテルを軸とした優しい交流にたくさん恵まれて本当に幸せでした。この場で改めて皆様に感謝申し上げます。ありがとうございました。
今回私が自らのTwitterアカウントでの配信をやめるのは、詳細を語ることは控えますが、個人的な事情によるものです。このことについて誰かを責める気持ちも全くありません。しかし、いま私が感じている喪失感がどこに由来するのかについては、もう少し考えてみたい気がします。
Twitterをやめてからずっと考えていました。この喪失感はなんなのだろう…今日になって、なんとなく像を結んできたのは、積み上げてきたものがとても大きかった、ということなのだと思います。ずっと「あっぴ」の名前でホテルに関連する日常を綴ってきたので愛着もあります。しかしそれ以上に、その名前を多くの人が呼んでくれたということへの思い入れが強くあるのだと思います。その多くの人の中にはもう会話を交わすことができない大切な人もいます。ひとつひとつの思い出がひとつの名前に積み重なっているのです。いままで「仮名」にすぎないと思っていた「あっぴ」の名前には、私の認識を超えて結びつく数多くの記憶や想いがあったのでした。その記憶や想いを紡いでくれたのは間違いなく様々な形で交流をもってくださった皆様ひとりひとりなのです。だからきっと、とても寂しい。今後ホテルステイができなくなるわけでもないし、投稿を続けることだってできないわけではない。しかし積み重ねてきたものにピリオドを打つ寂しさは否定し得ないのが正直な気持ちです。
さて、そろそろ、未練がましく書き連ねるのはやめましょう。伝えたいのはTwitterで「あっぴ」と交流してくださった皆様、改めまして、本当にありがとうございました。心から幸せに思っております。
ブログについても問い合わせをいただいたのですが、以前のようにはいかないかもしれませんが、こちらはまだ続けていきたいと考えています。なおもし記事をお読みになって「あっぴ」と話したいと考えてくださる方がいらっしゃいましたら、ぜひコメント欄までお寄せ頂けましたら幸いです。
…と、ここまで書いてきて、いつものようにTwitterに告知をしたくなってしまいました。笑
しかしそれは控えます。気持ちも新たに今後ともこちらのブログではホテルの魅力を自分なりの言葉で綴っていきたいと思います。今後ともよろしくお願い申し上げます。